書く仕事

ご訪問ありがとう!!ミステリー小説の感想を中心に,読書,日々の雑感,映画の感想等を書き散らかしています.

「狐笛のかなた」上橋菜穂子

2015年12月31日 21時00分48秒 | 読書
「狐笛のかなた」上橋菜穂子


上橋菜穂子の和風ファンタジー

戦国武将の手足となって、敵を呪い殺す役目の運命を背負って生まれてきた小夜と野火。
敵の犬に追われている野火を、小夜が助けるところから物語は始まる。
魅かれ合うものを感じつつも、互いの主が仇同士という運命に翻弄される二人。

自らの超能力におびえながらも野火に惹かれていく小夜のキャラクターが魅力的です。

守り人シリーズに手を出だすか思案中。

「天空の蜂」東野圭吾

2015年12月20日 22時34分40秒 | 読書
「天空の蜂」東野圭吾



1995年に初版が出ているということは、2011年の東日本大震災の16年も前に書かれたことが信じられない程、原発の問題点を指摘した傑作ミステリー。

自衛隊が保有する最新式軍事ヘリが何者かによって盗まれた。
さらに、あろうことか、そのヘリを敦賀にある原発の上空にホバリングさせ、全国の全ての原発を停止させなければ、ヘリを敦賀の原発に墜落させるという脅迫文がFAXされる。
ヘリは自動操縦されており犯人は乗っていない上、ヘリには爆弾が積まれている可能性がある。

犯人の目的は何か?

物語は緊迫感溢れるもので、さすが東野圭吾だが、ハラハラドキドキだけではなく、原発の真の問題点がどこにあるかということに関する深い洞察に感嘆させられる。

津波等による電源喪失により、核反応暴走が起こることは周知の事実だが、それ以外にも、様々な問題点があり、それらは関係者によってひたすら隠され続けている。
放射性廃棄物の処分と廃棄については全く見通しが立っていないこと。
にも拘らず、毎年核廃棄物は増え続けていること。
現場で働く従業員のうち、下請け、孫請会社の作業員には国の基準を無視した放射線量の被爆があり、それに対する改善が行われないこと。
また、例えば、父親が原発に勤めているという理由で、その子供がいじめに会うといった、社会的影響も深刻である。

このような問題点に目をつぶってでも原発を維持しなければならないのか。

広い意味で、読者の生き方に対する公開質問状だ。

「ちょっと今から仕事やめてくる (メディアワークス文庫)」 北川恵海

2015年12月08日 22時39分21秒 | 読書
「ちょっと今から仕事やめてくる (メディアワークス文庫)」 北川恵海



題名から察するに,今どきの堪え性のない若者が,軽いノリで転職を繰り返す話かと思ったら...

最近ブラック企業の話題が新聞やテレビで紹介されることが多い.
あのクロ現こと,天下のNHKクローズアップ現代でも取り上げられたほど.

私は幸せにも,今まで給料の遅配とか不払いとかの憂き目にあったことはないが,世の中では,決してまれなことではないそうだ.
しかも,部下を怒鳴りつけたり,ネチネチといびる上司もよくあるらしい.

そういう過酷な職場環境の中で,逃げ場を与えられず,追い込まれたあげく自ら死を選ぶ会社員が後を絶たない.

自分の大切な人をそのような原因で失ってしまったら,残された者の悲しみはいかばかりのものだろう.なぜ打ち明けてくれなかったのか?なぜその苦しみをわかってあげられなかったのか?
後悔に苛まれることだろう.

テーマは重くて苦しいものだが,それに反して語り口は軽妙で楽しげでもある.

ひいては,仕事とは何のためにあるのか?という,ある意味哲学的な領域にも問題を投げかける.

表題のチャラさとは反対に,とてつもなく真面目で真剣で面白い小説だ.

「東京ダモイ」鏑木蓮

2015年12月06日 22時30分06秒 | 読書
「東京ダモイ」鏑木蓮



平成18年(2006年)の江戸川乱歩賞受賞作

あらゆる文学賞の中で,この賞の受賞作が一番私の好みに合っている.

基本的にミステリーだが,単なる探偵小説ではなく,社会性やメッセージ性を兼ね備えた上に娯楽性も持った作品が選ばれているからだ.

この「東京ダモイ」 は太平洋戦争終結後,満州からの引き上げ前にロシア軍に捕虜にされ,シベリアでの抑留・強制労働生活を送る兵士たちの悲惨な状況から物語は始まるが,その中である日本人将校が殺される.鋭利な刃物で首を切られるという事件だったが,収容所中ということもあって,捜査はいい加減で,犯人も捕まらないままとなる.

そして,現在の日本に舞台は移り,京都の舞鶴で起きたロシア人女性殺人事件とそれの捜査にあたる警察官,独自の調査を行う出版社の社員の奮闘の物語に転じる.

シベリア収容所内の殺人事件と,現代の日本でのロシア人女性殺人事件が,どう交差するのか...というお話.

シベリアでの抑留生活の悲惨さは,時々文章で読む機会はあったが,これほど悲惨なものとは思わなかった.

栄養失調,凍傷,ロシア兵の残忍な行為等,極限状態での終わりの見えない生活の中で,精神の異常を来すものも数多くいたという.

物語としての面白さ以外に,戦争という異常事態での人間のふるまいをきちんと残すことの重要性を感じる.
こういうことが過ちを繰り返さないために必要だろうと思うからだ.