書く仕事

ご訪問ありがとう!!ミステリー小説の感想を中心に,読書,日々の雑感,映画の感想等を書き散らかしています.

「はるか HAL-CA」宿野かほる

2018年09月25日 21時27分12秒 | 読書
「はるか HAL-CA」宿野かほる



空前のAIブームである.

シンギュラリティという言葉もずいぶん一般的になった.
この小説は,そんなAIを準主役に抜擢した.

副題の「HAL-CA」のHALを見ておや?と思った方はいるだろうか?
映画化もされたアーサー.C.クラークの「2001年宇宙の旅」に出てくる,宇宙ロケットを操縦するAIの名前が「HAL」だったからだ.

HALは当時のコンピュータ業界の巨人IBMの3文字をアルファベット上で一文字ずつ後退させて作ったと言われている.

---以下ネタバレを含みます---

ま,それはさておき,主人公の天才的プログラマー賢人が最愛の妻「はるか」を交通事故で失い,その心の痛手を癒すために,「はるか」そっくりの会話をするAIを作ろうとする物語である.

はるかとの初恋と離別,年を経てからの再開と結婚生活までは,甘さたっぷりの恋愛小説である.
また,AIとしてのHAL-CAを開発している最中は,専門用語がバシバシでてくる,科学小説となり,AIが完成してからは,女の恐ろしさに,息を飲む恐怖小説となる.

実は,作者の宿野かほるの小説はこれで2冊目である.1冊目は「ルビンの壺が割れた」
この「ルビンの壺が割れた」は本当に面白かった.
巧みにミスリードを誘う周到さ,緻密な伏線,あっと驚くどんでん返し.

正直言って,第2作を心待ちにしていた.

そんな状況なので,,,

やはり,期待が大きすぎるとダメですね.
いや,こちらが勝手に期待しすぎただけなので,宿野さんのせいではない.

それどこらか,初めにこの本を読んでいたら,新しい時代のAI小説ということで,すごく気に入っていたと思うのだが.

...

「コンビニ人間」村田 沙耶香

2018年09月21日 20時16分55秒 | 読書
「コンビニ人間」村田 沙耶香



主人公は古倉恵子.
コンビニバイト歴18年。彼氏なしの36歳。日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる。

普通であることを強制される現代(今に限らず,昔から日本はそうなんだけど).
物心ついたころから,息苦しさで常に自分を見失った状態で生きてきた18年.
しかし,高校を卒業してコンビニのバイトを始めてから,人生が変わった.

整然とした商品棚,的確な商品発注,時間帯に応じた陳列内容の変更等,すべてが彼女の嗜好と能力にピッタリとはまり,水を得た魚のように,生き生きとした人生が始まった.
コンビニ人間として,ようやく真の人間になれたのである.

やがて,几帳面な仕事ぶりと接客対応の迅速さから,店長からも頼られる存在となっていく恵子だった.

しかし,18年後の36歳になった時,ある変化が起きる.

ある不純な目的でバイトとして入ってきた男性,白羽が恵子の人生をひっくり返してしまう.

この辺は,結構ハラハラさせる展開なのだが,そこはさすが芥川賞受賞作,単純な勧善懲悪であるはずがない.

まあ,読んでのお楽しみだが,哲学というか,人間の尊厳と人生観と生き甲斐を,読者に問い詰めるような展開が待っている.

チコちゃんに怒られそうな「ボーっとした人生」を送っているあなた,この本を読んで,老後の自分を想像してみるのも,決して損にはならないと思いますよ.

僕の場合,既に老後に片足突っ込んでるので,今更反省しても遅いかもしれないけど,せめて,本来言うべきなのに言えずにいたことを,せいぜい吐き出していこうかと思っています.


「虚構のアラベスク」深水黎一郎

2018年09月07日 11時21分37秒 | 読書
「虚構のアラベスク」深水黎一郎


とってもfunnyなミステリーでした.

「アラベスク」とはモスクの壁面装飾に見られるようなイスラム美術の様式のことですが,バレーのとあるポーズの名前でもある.
この小説は,2部構成となっていて,第1部はまさにバレー界の内幕というか,ダンサーたちの悲哀+ミステリーになっている.

一方,第2部は...

これは書けません.何を書いてもネタバレだ.

まあ,楽しんでくださいとしか言いようがない.

ただ,作者自らネタバレさせている気もするが,目次に
「読まない方が良いかもしれないエピローグ」だの「史上最低のホワイダニット」だの書いてるんだよね.

それは,ないだろうと思うんだけど.

ただ,それ自身,ひっかけだったりして.

まあ,良いか.

肩ひじ張らずにビールでも飲みながら読んでください.