書く仕事

ご訪問ありがとう!!ミステリー小説の感想を中心に,読書,日々の雑感,映画の感想等を書き散らかしています.

「池袋ウエストゲートパークⅤ 反自殺クラブ」石田衣良

2006年08月30日 18時13分37秒 | 読書
久々の石田衣良作品です.
裏切らないですね,このシリーズ.面白いなあ.
でも,誠も二十歳を過ぎてだいぶ時間が経ち,徐々におじさんの領域に近づきつつあるのか,女の子に関する表現やコメントが,ちと下品に過ぎる傾向が出てきました.
まあ,それもこの小説の面白さの一面ですから,いいんですけど.

第1話「スカウトマンブルース」
風俗店のスカウトというと,店長さんとか,男性店員さんが,街行く若い女の子に声をかける様子を想像しますが,もしこの話が取材に基づいているなら,実際はだいぶ違うようです.
考えてみてください.「風俗店で働きませんか?」といって,ついてくる女の子はいないですよね.
しかし,そのスカウトが女の子から見て極めて魅力的だったら,話は違うかもしれません.「とっても素敵な方だから,一緒にお茶するだけならいいかな.名刺だけもらって断ってもいいし.」ってなったら,もうその娘はスカウトマンの手中です.
そんなわけで(どんなわけじゃ!?),最近のスカウトは専業化し,いろんなお店から依頼を受けて,依頼内容に応じた女性をスカウトするそうなんです.
この本の表現を借りると,A店からは「セーラー服の似合う微乳系」とか,B店からは「身長170cm以上で,強い目をした女王様タイプ」とかの依頼を受け,それにぴったりの女性を街でスカウトするんだそうです.
そして,先ほどもいいましたが,スカウト自身は,ほっといても女の子が擦り寄ってくるような「才能」があることが一人前になるための条件なのです.
今回はそんなスカウトマン「タイチ」が誠に持ち込んだ手ごわいトラブルのお話です.ストーリーは読んでのお楽しみ.

第2話「伝説の星」
往年のロックスター「神宮寺貴信」が持ち込んだトラブル.
神宮寺は今の「ガキ」相手の音楽シーンに飽き足らず,本格的なロックの殿堂ともいうべき「ロック博物館」を建て,常設のライブハウス,ロックカフェ,ロック専門CDショップを一つのビルにしてしまうという壮大な構想を持っています.しかし,資金が足りず,怪しげなアンダーグラウンドな所からお金を借りてしまい,窮地に陥ってしまいます.
そこで,トラブルシューターとして有名になりつつある誠を頼ってくるところから,お話が始まります.

第3話「死に至る玩具」
中国から出稼ぎに来ている若い女性「紅小桃(ホンシャオタオ)」通称「コモモ」が持ち込んだトラブル.
日本では,「ニッキー・Z」という人形が大人気という設定.
そうですねぇ,リカちゃん人形が今の100倍くらいヒットしたような状況と思えばいいかも.
そのニッキー人形は主に中国で生産されているが,その生産工場では過酷な労働条件が強いられており,そのため命を落とす労働者もいるという.
コモモの姉が実はその犠牲者の一人なのでした.
姉の死を無駄にしないため,コモモは中国の工場に掛け合うが,相手にされない.それで,はるばる日本にやってきたが,どうやって製造販売の親会社「キッズファーム」社と掛け合えばよいかもわからない.
そこで,うわさに聞いた誠を頼ってきたわけです.

第4話「反自殺クラブ」
自殺系サイトの存在は有名ですね.
一時期,サイトを通して知り合った人々の集団自殺がずいぶん話題に上りました.
このお話はその集団自殺を事前に察知し,それを阻止しようとするグループのお話.
メンバーはいずれも親とか兄弟とか身近な人を自殺で失い,自分に責任があるのではないかと自分を責め続けてきた3人.そして彼らを心の面で支える,精神科の女性医師.
グループはある時インターネット上で,自分自身は死なずに,他の人を自殺を通してあの世に送り続ける,スパイダーと呼ばれる男の存在に気付きます.そして何とか彼を捕らえようとしますが,なんせ素人集団,うまくいきません.
そこで,トラブルシューターとしての誠のうわさを聞き,手助けを依頼して来るわけです.
ミステリーという意味では,この話が一番ミステリ的要素を持っています.詳しくは言いませんがね.
このお話でわかったことですが,自殺というと,何か非常にネガティブな,つらいことを想像しますが,考えて見ると逆なんですね.
つまり自殺する人の立場から見ると,生きていることが苦痛だから自殺するわけですよ.つまり,自殺することが苦痛からの解放であり,希望なんですね.
ただ,死に到るまでの肉体的苦痛はいやですから,できるだけ苦痛を少なくして死ねるような様々な工夫があるわけです.
スパイダーはその心理をたくみに利用して,集団自殺を演出します.
ただ,スパイダー自身もある秘密を抱えているのです.
死ぬということは権利なのか?
生きることは義務なのか?
答えなんかないんですよね.
でもでも,本当は生きること自体がすばらしいことなんですよ.
生きていることそのものがキラキラしたものなんです.
でもそれに気がつけるのは幸せなことなのだと思います.
多くの人々が,そんなこと思いつきもしないほど,辛いことに出会ってしまうのです.
ところで,この本で,IWGPシリーズ全6冊(赤黒外伝も含めてね)を読み終えましたが,まだ続くのかな?続く限りチェックしなくては.

「九つの殺人メルヘン」鯨統一郎

2006年08月29日 12時49分12秒 | 読書
覆面作家なんですね,この方.誰かなぁ?
9つの連作短編集ですが,いずれも,ある日本酒バーに集う客同士の会話から成る物語です.
どの話にも同じ4人の登場人物が出てきます.
「僕」は工藤という名前の現職警察官,「僕」の友人の山内,バーのマスター,そして4人目の登場人物として桜川東子.「東子」は「はるこ」と読む.
東子は20歳になったばかりの若くてきれいな女性で,すごいお金持ちの娘という設定.
20歳の女性がなぜ日本酒バーの常連なんだ?という疑問は残りますが,まあフィクションですから問わないことにしましょう.
物語のパターンは決まっていて,毎週金曜の夜,このバーに集まった上記の登場人物のうち,山内が近くで起こった事件のうわさ話を始めます.
当然「僕」は警察官としてかなりの情報を持っているわけで,ある時は迷宮入りだったり,ある時はもう解決直前だったりしますが,事件の内容や状況を解説する立場になります.
そこで,東子さんが会話に加わり,「ちょっと待って下さい」となるわけです.
そして,この東子さんが見事な推理を披露し,完璧と思われるアリバイを崩したり,意外な真犯人を指摘したりして,事件を解決してしまうのです.
推理に到るきっかけや犯人の心理を推測するのに,ヘンゼルとグレーテル,赤ずきんちゃん,シンデレラなどの9つの童話のストーリーが用いられるのがこの小説の最大の特徴です.
ジャンルとしては「安楽椅子探偵」に近いですね.
難しいことはいわずに気楽にエンターテイメントに徹して読むのが一番です.
東子の立場の不自然さなど細かいことを言っても野暮というものでしょう.
ところで,各物語の冒頭で,事件の話に入る前に,男3人がいろいろと興味深い話をします.
第1話と第2話では,日本酒のうんちくが語られます.純米酒,吟醸酒,大吟醸などの違いがよく理解できますので,お酒の啓蒙書としても価値がありそうです.
コシヒカリやササニシキのように食べるとおいしいお米は,お酒用の米としては適していなんですね.それはなぜか?
なあんてことも詳しく書いてあって,「へえ~っ!」てなもんです.
第3話以後は懐メロ,コマソン,昔はやったもの,「そう,それあった,あった」という話が山のように出てきて,東子さんの推理の箇所と同じくらい面白いです.
あと,最後に...
いや,やめときます.それは読んでのお楽しみ.

小樽オルゴール堂

2006年08月25日 12時50分00秒 | 日記
ここはお勧めですよ.
店中をぎっしりと埋め尽くしたオルゴール・オルゴール・オルゴール.
建物は外から見ると古風な西洋建築ですが,中はおとぎ話の世界.
店の扉の外と内のギャップもまた,演出の一つかもしれません.
写真は宝石箱タイプのオルゴールですが,卵型,万華鏡型,ランプ型など様々.
観覧車の形をしたものとか,握り寿司の形のものもあります.
そうそう,オルゴールですから,曲の話をしないといけませんね.
あまりに形やデザインの印象が強くて,肝心の音楽のことをすっかり忘れていました.
曲はクラシックから演歌まで様々なものが用意されていますので,名の知れた曲ならたいてい見つかります.
しかも基本的には,オルゴールの機械部分と入れ物とは別なんですね.
機械部分はユニットになっていて,このいれ物にこのユニットという形で自由に組み合わせができます.
気に入ったのが見つかったら,カウンターで入れ物と曲を別々に確認してくれて,お金を支払うと,その場で,新しい入れ物に新しいユニットをセットして包装してくれます.
だからすぐ壊れるかもしれない展示品を持って帰らなくていいわけです.
アンティークコーナーには,非売品ですが,洋服ダンスくらいの大きさのものがあり圧倒されました.また,ピアノと同じ77ピンのがあり,すばらしいハーモニーを聞かせてくれるものもありました.
値段は1000円くらいから数十万円まで.予算に応じてどうぞ.もちろん,買わずに眺めて回るだけでも十分楽しめますよ.

札幌の夜景

2006年08月25日 11時48分20秒 | 日記
甲子園決勝戦の話題で盛り上がりながら,キリンビール園でジンギスカンと生ビールで幸せにひたった後,ロープウエイで藻岩山に登り,夜景を楽しみました.
一般的には,夜景といえば,函館でしょうね.でも,ここ札幌の夜景も,函館とは少し違う趣があって,なかなかのものでした.
函館の場合,湾に面していて,街の光が湾の形に沿って切り取られるため,何か器に入れられた宝石のような美しさがあります.それに対して,札幌の場合はすすきのを中心として全方位に光が散らばっているので,そうですね,ちょうど宝石箱をひっくり返したようなきれいさなんですね.
函館が整然とした,おとなの美しさなのに対して,札幌は素朴なこどものような無邪気な美しさを感じました.
10年くらい経ってまた行きたいな.
写真は私の腕が悪いせいでいま一ですが,実際はこれの100万倍くらいきれいです.

甲子園決勝戦(第1日目),明日から北海道旅行

2006年08月20日 11時58分42秒 | 日記
すばらしい試合でしたね.
チームカラーはわりと似ていますね.
駒沢苫小牧は田中投手,早稲田実業は斎藤投手と,超高校級のエースを擁し守備は堅い.
そしてホームランを打てる強力な打線が相手を打ち砕く.
駒苫の田中投手は昨年の優勝投手ですから実績は充分,
ただし,今年は調子を崩していたらしく,これまでの試合では結構打たれることが多かったようです.
でも,この投手,精神力はすごいですね.ピンチになっても決して動じない.コントロールを乱さないので連打をされないし,バント処理なども安心して見ていられます.
そして,ここぞと言うところで三振を取り,ピンチを切り抜ける.とても高校生とは思えぬ堂々としたものです.
そしてその褒め言葉は,実はそっくりそのまま早実の斎藤投手にも当てはまるんですね,これが.
ただ,ひとつ両投手で違うのが,その表情です.
田中投手は打者を「キッ」と睨み,闘志をあらわにして向かっていくタイプ.
一方,斎藤投手はポーカーフェースですね.どんなピンチのときでも涼しい顔をしている.
いずれにしても類まれなる実力の持ち主であることには変わりなく,相手に得点を許さないわけです.
おそらく,セパ両リーグのスカウトが両投手に熱い視線を投げかけているに違いない.
私の独断で言わせていただくと,田中投手は中日ドラゴンズの川上憲伸投手タイプ,一方の斎藤投手はジャイアンツの桑田投手タイプかなあと思っています.
両チーム譲らず,明日は再試合となりました.
しかし,...

明日から4日間ほど家族で北海道旅行に行ってきます.
新千歳空港にお昼ごろ着くので,札幌駅に着くころ,再試合が始まりそうです.
ひょっとして,観光しないでテレビ中継見ているかも...

長男が今年の4月から北海道の大学に通っているので,彼を案内役にして,札幌と小樽で遊んできます.

本当は旭川動物園に行きたかったのですが,日程的に厳しいのと,旭川動物園は冬の方が良いという意見もあって,今回は見送りです.まだまだ少なくとも4年間はチャンスがあるので別の機会に...
今回の旅行を一番楽しみにしているのは10歳の長女です.
長女は年が離れているせいもあってお兄ちゃんが大好きで,だいぶ前から早く会いたいと言い続けています.
お父さんとしてはちょっと妬ける気持ちもあるのですが,まあいいかなと.
家内と私はグルメ三昧と久しぶりの北海道観光を楽しみにしています.
デジカメのメモリもクリアしたし,充電もOK.では,行って参りますぞ.

「ノルウエイの森」村上春樹

2006年08月18日 17時53分13秒 | 読書
自慢じゃないが,村上春樹なんて読んだことなかったです.
もともと,私自身はミステリファン兼,理系人間ですし,母親も推理小説マニア,父親は仕事以外は釣りとテレビの時代劇しか興味の無いじいさんですし,私のかみさんも理系人間で純文学とは縁遠い人生送ってますから,私と私の周りで,「春樹さん」との接点なんて全くないわけですよ.
それをなぜ今頃,村上春樹を読もうと思ったか?
実は,ふと「村上春樹でも読んで見ようかな?」と思ってしまったんです.
フランス料理でも食べようかな?とか,ドビュッシーの音楽でも聴いてみようかな?とか,印象派の展覧会でも見に行こうかな?とか,そんな感じです.
ふっと,そう思ってしまったんです.
きっと,読み終わった頃には心の充足感とか,静謐な雰囲気とかに浸れることを期待してね.
でも,でも,でも,かなり違ってました.
もう少し,哲学的な内容を期待していたんですが,ほとんど,恋愛小説と言っていいですね.
けれども,単なる恋愛小説ではなくて,その恋愛感情が,「心の病」と「死」に深く結びついているんです.
もちろん,「セックス」にも結びついていますが,それは恋愛小説なら当たり前なので,特筆すべきことではないですから.
私の場合,例え,エンタテイメントとしての文学作品でも,今まで知らなかったこと(知識でも思想でも),自分の知らない世界を垣間見たいという気持ちがあります.
でも,村上さんには申し訳ないけど,この作品を読んで,何か新しいことを知ったという充実感はないですね.
もし,恋愛に関する知識なら,渡辺淳一さんの本の方がよっぽど「ためになる」し,へえ,そんな恋愛もありか?と感心できます.
哲学的な内容を期待するなら,「ソフィーの世界」とか「アルジャーノンに花束を」とか読む方がよほど知識も感動も大きいです.
心の病については,表面的というか感覚的な表現でしか語られてない(私にはそのようにしか読めないです)ので,何か違うんじゃあないですか?という気がしてならない.
例えば,うつ病で苦しんでいる人が読んだら,「何もわかってないんじゃない?」て言われるような気がする.違うかなあ?
私自身はうつの経験がないので(今のところね)断定はできないですけど.
「死」についても同様.人間の死はそんなもんじゃないでしょう?って突っ込みたくなる.
特に若くしての死は,本人にとっても,残される家族にとっても,もっとつらくて,痛ましくて,哀しいことのはず.
この小説で語られるようなふわふわしたものではないんじゃあないかな?
.....と,文句たらたらの感想ですが,ただひとこと言っておかなければならないのは,お話というか,ストーリは面白いですよ.
読んでいて退屈はしません.上下2巻に分かれていますが,一気に読めてしまいます.
ただ,そんなもの(ストーリーの面白さね)を求めて読み始めたわけではないので,あえて突っ込ませていただいたということで,村上春樹ファンの方にはご容赦を.

「どんなに上手にかくれても」岡嶋二人

2006年08月14日 18時32分09秒 | 読書
著者名は共作の筆名です.
たぶん「おかしなふたり」からもじったのかな?
既にコンビは解消されているようですが,各々,井上夢人,田奈純一として二人とも活躍中.
「クラインの壷」を読んだのが十数年前,この「どんなに上手にかくれても」が2作目です.
歌番組のリハーサル中に,新人歌手がテレビ局から誘拐されるという事件が起きます.
しばらくして,犯人から身代金1億円の要求の電話,ベテラン刑事の登場と,事件が進んでいきます.
次に,これもよくあることですが,身代金の引渡しについては,警察が隠れていることに気付かれて引渡しを2度も失敗します.3度目にはようやく成功し,幸いにも人質は無事解放されます.
ここで,この事件は一段落し,読者も一旦はホッとさせられます.しかし,本当の事件はこれからなんです.この事件,一見身代金目的の誘拐事件のように見えますが,どうも変なのです.
というのは,通常どんな事件の犯人も,できるだけ目立たないように,つまり捕まりにくいように工夫して犯行にいたるものです.
しかし,この事件の犯人は,歌番組のリハーサル中に歌手を誘拐なんて,思い切り派手に,人目に付くことを意識して行っている.
しかも,本当にお金がほしければ,不動産屋とか大病院の院長とか政治家とか,大金持ちの家のこどもを通学途中に誘拐するとか言うのが相場でしょう.
しかし,この犯人は,大金を持っているとは思えない新人歌手をターゲットにしているのです.
身代金の引渡しも,「警察には絶対に連絡するな」と言いながら,どうも警察が看視していることを意識した行動をしているんです.ぜったいおかしい.
じゃあ,なぜか?...というのが,この小説の面白いところです.
人質を心から心配する家族とマネージャーの心情も丁寧に描かれますが,むしろマスコミ,テレビ局,スポンサーの三者の思惑と,彼らに翻弄される警察の苦悩ときまじめな推理がこの小説の骨組と言えるでしょう.
ストーリーの展開がスピーディーですし,いわゆる業界の裏話的なエピソードもたっぷりあって,その業界にうとい私としては,大変楽しめました.一気読みです.
もちろん,最後は読者が「ほぼ」納得する形で,収拾されますが,最後の**事件は無くてもよかったんじゃないかな?というのが私の正直な感想です.**事件とは読み進むうちにわかると思いますが,ここでは,ネタばれにならぬよう伏せておくとしましょう.

「ABC殺人事件」アガサ・クリスティ

2006年08月10日 14時16分21秒 | 読書
「オリエント急行殺人事件」や「アクロイド殺人事件」と並ぶ傑作推理小説です.
上の二つの小説を読んだのは学生時代です.30年以上前です.
どちらも,アッといわせるトリックで,目いっぱい楽しませてくれました.
「ABC...」はそのうち読もう,読もうと思っていたのですが,いつの間にか30年も経ってしまいました.
さて,舞台はイギリスです.でもストーリーの説明はやめときます.
何を説明してもネタばれになりそうで...
いつもながらポアロの切れ味鋭い推理にワクワクしながら一気読みしました.
クリスティの魅力は,やはりトリックの奇抜さと鮮やかさでしょうね.
男性作家だとまるでジグソーパズルのような緻密な組み立てのトリックを構築することが多いのですが,彼女の場合,意外性というか,犯人はAでもBでもCでもなくて,...やっぱり説明は難しい.
しかも,小説ひとつひとつのトリックが全く違う.世界が違う,というくらい違います.この予想できない意外性が魅力の一つですね.
ただ,ポワロが,語り部であるヘイスティングズを小ばかにしたような台詞を言うことが再三見うけられますが,これはちょっと不快です.しかし,実はそれもクリスティの計算のうちなんです.そのやりとりが重要な伏線になっていることが多いんです.
アガサ・クリスティを楽しむ最良の方法は,プライドを捨て,ヘイスティングズと同じ烏合の衆の一人になりきって,ポワロの種明かしを待つことでしょう.
なお,アガサ・クリスティのトリックについて「推理小説のルールに反する」という理由で批判する向きがあるようですが,とんでもない見当違いだと思います.「推理小説のルール」なんて誰が決めたんでしょうか?
要は,面白いか/面白くないかが勝負のはずです.面白ければ本が売れるし,面白くなければ売れない.売れなければ淘汰されるだけの話でしょう.
未だに世界中にファンがいるということは,「推理小説のルール」なんてものは意味がない,ということを世界中の推理小説ファンが認めているということではないでしょうかね.
とにかく,密度の濃い,久しぶりに味わうサーロインステーキのような,ひと時を与えてもらいました.

「みんなの秘密」林真理子

2006年08月04日 18時14分20秒 | 読書
ある話の「脇役」が次の話の「主人公」となる形で,次々に話が拡がっていく連作短編小説.
基本的には恋愛(不倫が多い)を中心に書かれていますが,生きていくこと自体の哀しみとか,人間の業みたいなものが全編を通じて感じられます.
恋愛小説は苦手だったんですが,林さんの語り口のうまさに,違和感なく楽しめました.
女性の心理描写がうまいのは当たり前として,感心したのが,男性サイドの描写ですね.
さらに...,ちょっと言いづらいのですが,男性の性欲に関する記述がみごとですね.
バーで女性と飲んでいて,思わず勃起してしまった男性の心理なんか,え?この人ホントに女?って思わせるくらい,うまい表現で語ってくれます.
男の軽薄さ,女のずるさ,そして人間の狂気を余すところなく,語ってくれる林真理子ワールド,よろしかったら秋の夜長などにいかがでしょうか? って,まだ暑かばいっ!!