書く仕事

ご訪問ありがとう!!ミステリー小説の感想を中心に,読書,日々の雑感,映画の感想等を書き散らかしています.

「小説 横井小楠」竜門冬二

2017年11月26日 10時21分58秒 | 読書
「小説 横井小楠」竜門冬二



熊本に住む身として,横井小楠のことは知っておきたいと思ってこの本を手に取りました.

大河ドラマに出てくる横井は,いつもチョイ役で,歯がゆい思いに駆られていたので,この本は面白いというより,大変興味深い内容でした.
膨大な資料をもとにできるだけ史実に沿って書かれています.
もちろん,私生活の描写では多少の脚色はあるでしょうけどね.

小楠の思想と人物像を捉える興味深い記述がありました.

勝海舟が晩年に語った言葉なんですが,
「今までに出会った人物の中で,心底恐ろしいと思った人が二人いる.それは西郷吉之助と横井平四郎だ.」
もちろん西郷隆盛と横井小楠のことです.
恐ろしいというのは,もちろん,ほめ言葉です.
勝はさらに,
「もし,横井の思想を西郷が実践していたら維新の日本は全く異なったものになっただろう」
とまで言っています.

尊王攘夷派の過激な思想は日本をダメにするという点で,勝と小楠は同じ考えだったわけですが,勝海舟や坂本龍馬らは薩長連合を通して,徳川幕府を平和裏に倒した上で,天皇を中心に据えた新政府を考えていたわけですね.新政府のもとで海軍を興し外国と渡り合おうというやり方.
一方,小楠は,当時の軍事力で戦争なんかしたら,必ず負け植民地化される.それより,公武合体により,幕府が朝廷と一体となって,産業・貿易を振興し,経済を豊かにして外国との交渉力を身に付けることが重要だという考え方.
まあ,当時の江戸幕府が公武合体を受け入れるはずがないという意見もありましたが,徳川慶喜はかなりその気になっていたようなので,横井が暗殺されなければ,どうなったかわかりません.
残念ながら,横井の場合,敵は薩長連合だけでなく,熊本の肥後藩のなかに猛烈な横井反対派がいて,暗殺まで企てられてしまいます.その結果,身動きが取れなくなった.
肥後は先鋭的な尊王攘夷思想に取りつかれていたわけなんです.

非常に皮肉なことに,横井をやっつけようとしたために,新政府での主要なポストを薩長に取られ,熊本には何も与えられなかったわけです.

熊本が大局を見ない尊王攘夷に陥ることがなければ,(「もしも」の世界ですけど),今の安倍政権はなかったでしょうね.(笑)

最後に興味深い史実を一つ,小楠はその思想の素晴らしさに,全国に多くの信奉者がいたわけですが,残念なことに酒癖があまり良くなく,酒席での失敗がかなりあったそうです.
熊本で評判が良くないのも,その辺にあるのかもしれません.

「転生の魔 私立探偵飛鳥井の事件簿」笠井潔

2017年11月15日 10時25分20秒 | 読書
「転生の魔 私立探偵飛鳥井の事件簿」笠井潔





タイトルはいかにもという感じの探偵小説,本格推理ものという雰囲気だが,中身はかなり趣が異なる.

むしろ社会派小説である.
戦後の学生運動家達が何を考え,何を目指していたかを,歴史上の革命といわれる様々な出来事とその登場人物との対比の中で解説した「革命史,思想史」にもなっている.

私の場合,小説中の歴史上の人物でわかるのはポリシェヴィキくらいで,あとは知らない人ばかり.
「勉強になります」とは言えるが,この面での興味を喚起されるまでは行かないかな.
革命にも政治にも興味ないし.
残念ながら.

飛鳥井探偵事務所に持ち込まれた依頼は,「テレビのニュースに映っていた国会前デモの群衆の中に,昔の知り合いがいた.しかし,連絡手段が全くないので,何とかその人物を突き止めてくれないか?」というもの.

気軽に引き受けた飛鳥井探偵だが,調べるほどに奇妙な事実が明らかになり,この調査は一体何のためなのか,依頼主は本当のことを言っているのか?が混乱してくる.
さあ,どうする?

ということで展開していきます.

まあ,面白いといえば面白いのだけど,訴求力というか,緊張感はいわゆるミステリーの高いレベルには達していないと思う.
東野圭吾や道尾秀介はもちろん,最近,佐藤究や宿野かほるという面白い作家を発見してしまったので,彼らと比較してしまうと,まあ,もういいかな.
という印象です.
まあ,勝手な感想だとは思うけど.ファンの方はご容赦ください.

ただ,革命史や政治に興味ある方には必読の書かもしれません.
念のため.