書く仕事

ご訪問ありがとう!!ミステリー小説の感想を中心に,読書,日々の雑感,映画の感想等を書き散らかしています.

「散り行く花」伽古家圭市

2017年09月26日 11時19分29秒 | 読書
「散り行く花」伽古家圭市


小説を紹介するとき、まずジャンルを示すのが普通でしょうか。
そういう意味で、この小説は間違いなくミステリーです。
ミステリーの中でも、「倒叙もの」と言われる構成を取っています。
「倒叙」とは、犯人は最初からわかっていて、探偵が、徐々に犯人を追い詰めるというものですね。
刑事コロンボや古畑任三郎がこれです。

しかし、この小説をミステリー、あるいは倒叙ものです,と紹介してしまうと、決定的な何かを伝え損ねてしまいます。

作者が伝えたいのは、謎ではなく、人間の業なのです。人が心の中に抱えたまま生まれてきて、抱えたまま死んでいく業です。
しかし,ある人は、暖かい家庭に恵まれて持って生まれた業からも逃れられる。
それが叶わず、失意のまま自ら死を選ぶ人もいる。

ミステリーという衣を着た,人間を描いた純文学作品だと思います。

美人画を得意とする絵師,茂次郎を主人公としつつ,業に苛まれる女性達(絵のモデルとなる)の生きざまが綴られる.

私としては,かなり高ポイントの作品です.
お薦めします.

「ルビンの壺が割れた」宿野かほる

2017年09月17日 23時05分15秒 | 読書
「ルビンの壺が割れた」宿野かほる



学生時代に恋に落ち、卒業後に結婚の約束までしながら、別れてしまった男女が、30年後にフェイスブックで再びメッセージを交わすことになる。

学生時代、二人は演劇部に所属し、演出家と女優という関係から、恋愛関係に発展する。

卒業後も恋愛は続き婚約するが、結婚式の前日に、彼女の方が失踪してしまう。
そのトラウマを抱えたまま、失意の人生を送ることになってしまった男性。

30年後に、失踪した彼女らしき女性をフェイスブックで見つけ、メッセージを送ると何度目かに返事が来る。

30年前の失踪の理由を知りたくて、メッセージの交換が始まる。

最初は、映画の「ユーガットメール」を思わせる、甘美な恋愛ものを思わせるテイストで物語が進む。

が、100ページくらいから、あれ? と思ううちに、話が妙な方向に進む。

そして、ラスト30ページの驚愕の展開。

私的には、今年の「このミス大賞」をあげたい一冊。

いやあ、こういう本に巡り合えるから、読書は止められない。



「このミステリーがすごい! 四つの謎」アンソロジー

2017年09月15日 10時13分12秒 | 読書
「このミステリーがすごい! 四つの謎」アンソロジー



今をときめく4人のミステリー作家によるアンソロジー
「残されたセンリツ」中山千里
「黒いパンテル」乾緑郎
「ダイヤモンドダスト」安生正
「カシオペアのエンドロール」海堂尊

4人とも過去にこのミス大賞を受賞された方々です.念のため.

本格推理あり,大人のファンタジーあり,社会派ミステリーありで,気楽に楽しめる一冊.
個人的には,大雪に対する都会の危機管理の甘さとともに,強者の論理がまかり通る現代社会を痛烈に批判する「ダイヤモンドダスト」がベストワンですが,他の3作も面白かった.

旅のお供に,秋の夜長にどうぞ.

失恋の痛手を回復するほどの魔力は無いかもしれないけど.

それぞれの立場でお楽しみいただければと思います.

「ファイヤーボール」富樫倫太郎

2017年09月09日 22時14分13秒 | 読書
「ファイヤーボール」富樫倫太郎



抜群の推理力を持ちながら、かなりの人格障害を持つオタク風刑事、冬彦君が主人公の警察ミステリー。
相手の本心を見極めるために、相手の嫌がることをずけずけと言う。その反応を見て、推理を進めるという手法は、論理的にはありうるが倫理的には許されないと、私個人は思う。
ただ、こうやって、小説としてつまり、フィクションとしてならあってもいいと思うし、実際物語的に大変面白く仕上がっている。

現実に冬彦みたいな男がいたら、私は決して近寄らないけどね。

ミステリーとしては、放火、殺人、暴力団と警察官の癒着、等のおどろおどろしいものから、親と子、祖母と孫との心温まる愛情物語まで、ダイナミックレンジの広い、たっぷりと小説の醍醐味を味わえる点も秀逸。


「ドクター・デスの遺産」中山七里

2017年09月01日 10時42分08秒 | 読書
「ドクター・デスの遺産」中山七里



安楽死の是非を問う社会派ミステリー

思いテーマのはずだけど、「さよならドビュッシー」の作者だけに、軽妙なミステリーとして、後味よいエンターテイメント作品に仕上がっている。
正義感が強く、安楽死なんてとんでもないと信じている刑事と、ネットを通して安楽死希望者を募り、報酬を貰って安楽死を実行する犯人との,虚々実々のやりとりが面白い。

最後は、読者に安楽死の是非を強く問いかける仕掛けになっている。

しかし、最後までエンターテイメント性はキープしているのは、この作者のモットーなんだろうと思う。