書く仕事

ご訪問ありがとう!!ミステリー小説の感想を中心に,読書,日々の雑感,映画の感想等を書き散らかしています.

「十三階の神(メシア)」吉川英梨

2018年11月27日 21時39分07秒 | 読書
「十三階の神(メシア)」吉川英梨




『本書はフィクションであり,登場する人物および団体名は,実在するものといっさい関係ありません』というあとがきの一文が白々しく感じられる.
どう見ても,あのテロ事件やあの殺人事件を起こしたあの宗教団体がモデルである.
とはいえ,ストーリー自体は明らかに事実とは異なるものであることは間違いない.
一人の優秀な潜入捜査官・黒江律子の壮絶な潜入捜査の顛末記となっている.

新興宗教団体と公安警察.どちらも庶民には馴染みの少ない,分りづらい組織である.
両方の内幕をあからさまに暴き続けることで,物語が進行する.
そして,結局,双方の体質には驚くほどの類似点があるという結論が導かれる.

最後には,どちらが正義の味方なのか分からないような凄惨な結果が待ち受ける.

黒江律子は,一見ひ弱そうでありながら,実は悪魔のようなずる賢さと身のこなしを併せ持つニューヒロインだ.
さらに,その能力の高さとは裏腹に,様々な不幸を招き寄せてしまう宿命のようなものにも捕われている.

さあ,いったいこの潜入捜査はうまくいくのか?それとも死が待っているのか?
まあ,読んでのお楽しみという事で.

それと,ミステリーファンの欲求も十二分に満足させるように何重ものどんでん返しも用意されています.
お楽しみあれ.

「ファーストラブ」島本理生

2018年11月13日 16時52分18秒 | 読書
「ファーストラブ」島本理生



エピソードだけから判断すると,父親から娘への性的虐待,娘の自傷行為,母親の娘に対する支配と憎しみ,そして,娘による父親の殺害等,悲惨な出来事のオンパレードになっており,読み進むのにも心に痛みが走る内容となっています.
しかし,行間に溢れる作者のいたわりの眼差しが暖かく,あたかも鎮静剤を飲みながら足をつねられるような感覚というか,不思議な経験をさせてもらえる小説でした.

第159回直木賞受賞作です.

島本理生さんの小説は「真綿荘の住人たち」に続いて2冊目です.いずれも文学の薫り高い上質な作品ですね.

「ハッピーリタイアメント」浅田次郎

2018年11月06日 10時27分13秒 | 読書
「ハッピーリタイアメント」浅田次郎



私事ですが、先月の誕生日で65歳になり、来年3月で大学をリタイアします。
来年は2校から非常勤を頼まれているので、すぐにサンデー毎日とはならないのですが、早晩リタイア後の人生を設計しなければならない、という状況の中で、大学の図書館で、何ともタイムリーな小説を見つけてしまった。

公務員を定年退職し、あるお役所の外郭団体に再就職した2人のオヤジが体験した「ハッピーリタイアメント」の日々。
この場合のハッピーはもちろん,暗喩であり,ある意味波乱万丈の日々でもある.
そのハッピーの内容は読んで判断していただくとしよう.
世の中に様々な不幸や苦労が満ち溢れている中,この小説のようなハッピーが存在するとは思えないが,幸せな老後はいったいどんなものかということを考えるトリガーにはなったような気がする.
リタイアまで何十年もあるという方も,若いうちにこういうことを考えておくことが,やがてハッピーな老後を迎えるための財産になるような気がします.