書く仕事

ご訪問ありがとう!!ミステリー小説の感想を中心に,読書,日々の雑感,映画の感想等を書き散らかしています.

「道徳の時間」 呉 勝浩

2016年04月30日 14時26分08秒 | 読書
「道徳の時間」 呉 勝浩



ミステリ小説の魅力は,描かれた謎の答えをぜひ知りたいと思うか否かによる.
別に知りたくもない謎なら,そのミステリは失敗作ということになる.

その意味で,この「道徳の時間」の謎は素晴らしく魅力に満ちた謎だ.
13年前,ある小学校で殺人事件が起きる.
300人の生徒の前で.
講演会の最中に,聴衆の一人が,ナイフを持って講演者に近づき,ひと刺しにする殺人事件が起きる.
しかし,その犯人は,犯行は認めたものの,動機については一切黙秘する.
発した言葉はただ一言.「これは道徳の問題なのです」
この事件は,動機不明のまま,犯人の精神鑑定の結果,責任能力ありという判定があったことから,無期懲役が言い渡される.犯人は今も服役中である.

そして,現代,主人公のジャーナリスト,伏見の住む町で,ある陶芸家が服毒自殺をする.しかし,自殺現場の壁には謎のメッセージが残される.「道徳の時間を始めます.殺したのは誰?」
現場の状況や本人のそれまでの言動から,どう見ても自殺と思われる状況での不可解なメッセージが謎を呼ぶ.....

過去の動機不明の殺人と,謎のメッセージを伴う現在の自殺.
この二つに繋がりはあるか?

てな具合で,伏見の家族も巻き込みながら,謎,謎,謎が次から次に起きてくる.

最後はちょっとまとめ過ぎな感じがしないでもないけど,いやあ,面白かったですね.

2015年江戸川乱歩賞受賞作.

「海のイカロス」大門 剛明

2016年04月24日 16時26分19秒 | 読書
「海のイカロス」大門 剛明



クリーンエネルギーである潮流発電プロジェクトを舞台とした殺人事件.

まあまあ面白いかったです.
いわゆる倒叙もの.
つまり犯人は最初から分かっていて,探偵役がそれを切り崩していくっていうパターンね.

刑事コロンボや古畑任三郎と同じです.

せっかくプロットやトリックは面白いのに,作者が必要以上に人間ドラマを描こうとしすぎてますね
空回りしちゃってる感が強いです.
難しいこと考えないで,トリックや構成に集中すれば,それなりの名作になる可能性があったのが残念でした.

まあ,そんなところです.

「さようなら、猫」 井上荒野

2016年04月12日 22時39分47秒 | 読書
「さようなら、猫」 井上荒野



猫が登場する短編小説集.

ちょっとイタイけど,やがてホッコリし,ちょっと意外な結末のお話.

ただし,猫が好きで,猫を中心とした小説を期待した人はがっかりするだろう.
猫は,ちょっと印象に残る小道具的な存在でしか描かれてないからね.

主人公は,いずれも心に問題を抱えた女性たち.
自分の壊れかけた心のほころびを治してくれるような存在として猫が登場する.
登場するといっても,拾われたり,もらったり,人から預かったりと,近づき方は様々だけど.

猫が心に効く,という説は聞いたことが無いが,この本を読むと確かにそんな気がしてくる.
ましてや無類の猫好きの私としてはね.

「院内カフェ」 中島たい子

2016年04月04日 23時34分16秒 | 読書
「院内カフェ」 中島たい子



久しぶりに嵌りました.
初めて読む作家ですが,図書館で何気なく手に取った1冊.

出会いの運命みたいなものを感じる本でしたね.

自分の想いが相手に通じないと分かった時,人はどうしようもなく苛立ち,それを誰かにぶつけようとする.
でも,後で冷静になって考えてみれば,その状況は,実は逆に自分が相手の気持ちを理解しようとしていないことの裏返しなのだ.
誰にでも想いはある.
でも,人には人の想いがあることを忘れてしまう.
人間は本当に勝手な生き物だ.

ただ,それが分かっていても,自分のパートナーにはどこかで寄りかかっている.
いや寄りかかっているからこそ,想いが通じない怒りが倍増する.

そして何かのきっかけで相手の想いに気付いたとき,二人の想いが通じ合う.

ある大病院の待合室近くに作られたカフェー(イメージ的にはスタバっぽい)での,人々の会話がメイン.
患者,見舞いの人,医者,看護師,幼子を連れた母親,不明な人...

いろいろ重荷を背負った人たちが,病と闘いながら,あるいは大事な人の病に寄り添いながら紡いでいくストーリー.

良いですね.良いですね.

心に沁みます.

こりゃ,中島たい子ファンになりそうな予感.

「探偵工女 富岡製糸場の密室」翔田寛

2016年04月02日 00時29分49秒 | 読書
「探偵工女 富岡製糸場の密室」翔田寛



「誘拐児」に続いて2冊目の翔田寛作品.

時は明治6年,場所はあの富岡製糸場.

そこで女工として働く尾高勇がヒロイン.

日本政府が日本の富国経済策の目玉として建設した富岡製糸場.
その富岡製糸場で,ある女工が,密室状態の石炭小屋で,自殺と思われる状態で発見される.

しかし自殺にしては奇妙な状況証拠が発見されるが,他殺とするなら犯人はどうやって密室状態の石炭小屋から逃走したのか?

この事件を調べるうちに,反政府派の製糸場破壊計画が浮上し,にわかに政治的・内戦的様相を呈する.

勇の父親であり,富岡製糸場の工場長でもある,尾高惇忠や政府から派遣された桐野警部ら元武士で日本古来の美学を身に付けた「男」達の人間像が素晴らしい.

フィクションではあるが,製糸工場の操業を指導するフランス人たちの狭量さと対比して,明治にはこんな素晴らしい人物がいたのだろうな,と日本人として誇らしい気持ちにすらなる.

ヒロイン勇の切れ味鋭い推理も楽しめるが,この「男」達の生きざまが,読んでいてうれしい.

実に爽やかな読後感を頂戴した.ごちそうさま! と言いたくなる一品である.