フリーのライターとして活躍中の著者が綴った,25件の裁判傍聴記.
実際はその10倍くらいは傍聴しているとのことだが,その中から,面白かった(やや不謹慎ではあるが)ものをまとめたもの.
まもなく裁判員制度が導入されようとしている日本では,実にタイムリーな本です.
もっとも,作者の北尾トロさんは,裁判員制度を睨んでこの本を書いたわけではなくて,たまたま友人が交通事故の民事裁判の当事者になったため,その様子を傍聴しようと裁判所に行ったのがきっかけとのこと.
そして,行ってみると,面白い面白い.
被告・原告が,自分の人生を賭けて,必死に戦うわけですね.
殺人容疑の刑事事件だと,被告にとって場合によっては「死刑」もあるわけで,まさに必死となります.
民事でも,何千万という慰謝料がかかっちゃうこともあるわけで,命はとられないものの,自分の人生の後半の幸不幸が大きく左右されてしまう.
考えてみると,どんなに良くできたドラマでも,映画や小説だと,所詮画面や本の中の世界の話です.
死刑判決が出ても,実際に処刑があるわけではない.
でも,裁判では,判決の結果によっては,実際にその被告は首をつられて死んじゃうわけですね.
つまり,「現実」とセットになった裁判には,人間の本当の必死さという,役者の演技では決して再現できないリアリズムがある...なんてかっこいいことではなくて,要は「とっても面白い」のです.
まあ,識者がみれば,「なんと不謹慎な!」と叱りつけてきそうな可能性大ですね.
タイトルからしてふざけてますしね.
私も,場面によっては,この書き方はちょっと,「いかがなものか」てな言い方をしたくなるくだりがあったのも事実.
しかし,それを割り引いても,この本はおもしろいです.
裁判には被告・原告の人間性が丸見えにされるんですね.
「おいおい,ほんとにこんなヤツいるのかよ?」という被告に目を丸くします.
また,面白いのは,裁判官,検事,弁護士という三者も,やはり人間なんですね.
こっちも原告・被告以上に面白ネタがわんさかでてきます.
特に,弁護士が面白い.
弁護士には,被告自身が依頼する弁護士の場合と,国選弁護人の場合とがありますよね.
一般に,国選弁護人だと,裁判が長期化するんだそうです.
なぜだかわかりますか?
実は,国選弁護人の報酬は時間給なんだそうです.
1時間ん万円っていう,フリーターの人が聞いたら卒倒しそうな額ですけどね.
すると,国選として依頼されて弁護を始めたら,どうでもいい質問を延々と繰り返していれば,時間切れになって「ではこの続きはまた来月に」という裁判官の判断となり,何度でもおいしい汁をすすり続けることができるのです.
こんな話は面白いと言うより,腹の立つ話ですけどね.だって,その引き伸ばされた時間給は全部「税金」ですから.
それはさておき,「裁判員制度が始まって,もし指名されたらどうしよう!」と不安に思っていらっしゃる方には一読をお勧めします.
裁判の大体の仕組とか流れが大づかみできますので,裁判に関するかなりの不安要素が取り除かれると思います.
私自身,この本を読んだおかげで,裁判員に指名されても,なんとかなるんじゃないかなという気になりました.
以前は,いやだなあと思っていたんですよ.
その意味で,裁判員制度のよくできた啓蒙書という評価をしてもいいかもしれません.