タイムリーな読書でした.
バンクーバーオリンピックのジャンプの中継をテレビでやっているのを横目で見ながらこの本を読んでしまった.
不思議な感じですよ.
そうか,彼らはこんな思いを抱きながら飛んでいるんだってね.
どこの世界にも凄いヤツがいるものです.
それまでの記録を次々と塗り替えていくような天才が.
スイスのアマンみたいな.
この小説は,その天才と,その周囲にいる,天才には一歩届かなかった人々との葛藤を縦糸に,天才を毒殺した犯人の想いと意外なその動機を横糸に,精緻なガラス細工のように組み立てられた物語となっています.
殺されたのは天才ジャンパー楡井(にれい),犯人は最初からわかっていて,そのコーチだった峰岸.
犯人はわかっているので,警察がそのアリバイをどうやって崩していくかという,よくある倒叙ものかな?って思って読みはじめると,全然違う.
不可解な出来事が次から次へと現れて,いったいどうなっているの?...
犯人の峰岸は,警察への密告書で捕まってしまうのだけど,密告者はどうやってその事実を掴んだのか?密告者は誰なのか?
これを推理小説と呼ぶならば,犯人の立場で,密告者が誰かを推理する小説なんです.
伏線も見事.
例えば,10個の証言があったとして,それらは皆,バラバラの内容で,とりとめない事実の羅列になっている.
しかし,その中のたった一つが「うそ」だと仮定すると,他の9個がすべて,ばっちり一つの事実を示すのですよ.うまいですよ.この手法は.
これ以上言えないのがつらいけど.
また,人間もよく描けている.例えるなら,モーツアルトに対するサリエリの心情とそれが,どこで殺人に方向転換してしまうのか.....
「推理」と「科学」と「哲学」の見事な融合.
東野圭吾ワールドここにあり.
じっくり,美味しいコーヒーでもおかわりしながら,ページをめくりたい一冊です.