書く仕事

ご訪問ありがとう!!ミステリー小説の感想を中心に,読書,日々の雑感,映画の感想等を書き散らかしています.

「鳥人計画」東野圭吾

2010年02月26日 11時17分13秒 | 読書


タイムリーな読書でした.
バンクーバーオリンピックのジャンプの中継をテレビでやっているのを横目で見ながらこの本を読んでしまった.
不思議な感じですよ.
そうか,彼らはこんな思いを抱きながら飛んでいるんだってね.

どこの世界にも凄いヤツがいるものです.

それまでの記録を次々と塗り替えていくような天才が.
スイスのアマンみたいな.

この小説は,その天才と,その周囲にいる,天才には一歩届かなかった人々との葛藤を縦糸に,天才を毒殺した犯人の想いと意外なその動機を横糸に,精緻なガラス細工のように組み立てられた物語となっています.

殺されたのは天才ジャンパー楡井(にれい),犯人は最初からわかっていて,そのコーチだった峰岸.

犯人はわかっているので,警察がそのアリバイをどうやって崩していくかという,よくある倒叙ものかな?って思って読みはじめると,全然違う.
不可解な出来事が次から次へと現れて,いったいどうなっているの?...

犯人の峰岸は,警察への密告書で捕まってしまうのだけど,密告者はどうやってその事実を掴んだのか?密告者は誰なのか?

これを推理小説と呼ぶならば,犯人の立場で,密告者が誰かを推理する小説なんです.

伏線も見事.

例えば,10個の証言があったとして,それらは皆,バラバラの内容で,とりとめない事実の羅列になっている.
しかし,その中のたった一つが「うそ」だと仮定すると,他の9個がすべて,ばっちり一つの事実を示すのですよ.うまいですよ.この手法は.
これ以上言えないのがつらいけど.

また,人間もよく描けている.例えるなら,モーツアルトに対するサリエリの心情とそれが,どこで殺人に方向転換してしまうのか.....

「推理」と「科学」と「哲学」の見事な融合.
東野圭吾ワールドここにあり.

じっくり,美味しいコーヒーでもおかわりしながら,ページをめくりたい一冊です.

「座右のメイ」野口信行

2010年02月20日 12時28分05秒 | 読書


最近に限らないけど、人の生き方を一言で表現した言葉やフレーズが一種の流行語のようになることがありますね。
最近では,「ポジティブ」「前向き」なんてのもその例です。
10年位前には「自己実現」という言葉が流行りました。
しかし、それらの言葉の意味を解説する本や記事はあっても、具体的にどのように日々の問題を考えていけばポジティブな生き方ができるのか?、をわかりやすく教えてくれる本はほとんどなかったのではないでしょうか?
そもそもポジティブな生き方とはどういうものなのか自体がどうもよくわからない.
言葉先行という印象です.
だから言葉は流行るけど、本当にポジティブな人はちっとも増えないという状況が続いているわけで。
逆説的な考え方ですが、「ポジティブ」という言葉が流行るのは、「ポジティブ」にあこがれながらも、「ポジティブ」になれない人々が如何に多いかという証拠である、ということですよね。

でもそれも無理はないのです。
マスコミは、仲間同士で足の引っ張り合いをする政府与党か、民主党の足を引っ張る自民党の大声しか報道しないでしょ?
つまり、「前向きな考え」を啓蒙しようという意思がマスコミにあるとは思えません。
すると、人々のうち、マスコミに意見を左右される方は前向きな生き方が出来るわけがない。
醜悪なニュースを我慢しながら見ている。
見たくないニュースがテレビに流れていたら、スイッチを切るべきなのです。
しかし、例え醜い争いでも、目をそむけてはならない、なんていう間違った『強迫観念』を持った人が多いから、視聴率だけしか気にしないマスコミはいつまでたっても醜悪なニュースばかり流すのですよ。

見たくないニュースが流れたらスイッチを切る。
これがあなたをポジティブにする第一歩です。
おっと、こんなことはこの本には書いていない。

もっと、良いこと、実践的なことが「手取り足取り」という感じで書かれています。

形式的には小説です。
厳しい家族から逃れるように都会に出てきた若者「カオル」君が主人公。
両親とも教師で、兄が一人、の4人家族。
両親は厳しく、悪いことに兄は優等生で、一流大学を卒業して国家公務員になるというエリートコースを歩いている。
一方、カオル君は、勉強嫌いもあって、成績は芳しくなく、大学進学を放棄し、単身東京に出て専門学校を卒業するも、ちゃんとした職に就けず、フリーターをしている。
彼なりに頑張っていたガソリンスタンドのバイトも、経営者が廃業を宣言して職を失ってしまう。
なんで、自分ばかりこんな目に?.....絵に描いたような後ろ向きの人生。
そんな彼に、妙なパートナーが現れる。
名前は「メイ」.女の子のような妖精のような不思議な小さな生き物。
彼が困難に出くわすと、突如現れて彼の右肩に座り、人生を左右する「ひとこと」を発する。


メイに教えられつつ困難を切り抜け、いつしか彼自身が大人の考え方に変わっていく...

という筋立て。
メイは数々の名言をはくのだけど、私がひざを打ったのは、
「コンプレックスは宝物」
「shouldではなくてwantで動く」
「自分と一流との間に線を引かない」
「ぶれない杭は打たれない」
「成功は過去形、失敗は現在形」

いかがでしょうか?
意味を知りたい人は読んでみては?
1400円の価値はあります。
人によってはその1万倍の価値かも。

「毒笑小説」東野圭吾

2010年02月12日 21時22分02秒 | 読書



あのミステリー作家の東野圭吾がお笑いに走るとどうなるか?
ただのユーモア小説になるわけがない.
当然ブラック中心です.
ただ,単なるブラックでもなくて,そうですねえ,人間の浅はかさを痛烈に皮肉るお話が中心.
しかも,直球の皮肉じゃなくて変化球中心.
星新一のショートショートを短編にし,筒井康隆の毒をスパイスに加えた感じ.
どの物語もとてもよく練られている.
そういう意味で,作り方がミステリー小説に通じるものがある.

ただ,私が思うに,東野圭吾さんはやはり技術者なんだな.どういうことかというと,辻褄を合わせようとしてしまう性を感じるんですね.
シュールではない.

漫才というより落語のセンスに近い.
ユーモアのレベルが高級な感じがする.

ただ,ユーモアを求める人が皆「高級さ」を求めているかというと,必ずしもそうではないので,評価は分かれるかもしれませんね.

ミステリー小説家としての東野圭吾ほどは,評価されないんじゃないかな?残念ながらね.

例えは悪いかもしれないけど,「ななめ45度」っていうお笑いのグループをご存知でしょうか?
あの,突然,電車の社内放送の声が出てくるおかしさって,ほとんど反射的に笑っちゃいますよね.

今はああいう笑いが受ける.
あるいは,オードリー春日の微妙にずれたおかしさもそう.
つまり話としての面白さじゃなくて,脊髄を直撃するような面白さが今の主流なんですね.

そういう意味で,東野圭吾の笑いは,非常にクラシカルで「おとな」な笑いです.

ブランデーを舐めながら読みたい本ですね.

ななめ45度も好きですけど.

「デパートに行こう」真保 裕一

2010年02月08日 22時39分16秒 | 読書


深夜のデパートに蠢く7組10人の怪しい人影
①リストラで仕事を失い,妻と娘から見捨てられた自殺願望の老人と,しつこく彼に電話してくる鬼のような娘.
②不倫の果てに捨てられ,それを恨んで仕返しを謀るOL.
③そのOLの弱みを握り体の関係を迫る上司
④親の犯罪のため世間から白い目で見られることに嫌気がさした若い男女.
⑤そして,やくざと係わり合いを持ったため職を追われ,やくざからも命を狙われる元警察官.
彼らが,何の偶然か同じ深夜のデパートに忍び込む.
おりしもそのデパートは,市長への贈賄騒ぎで経営が傾き始めていた.
⑥何とか経営を立て直そうと深夜まで奮闘する社長.
⑦そして,そのデパートを心から愛する警備員たち.

一見,何の脈絡もない,ごった煮の様な展開で物語はスタートする.
しかし,一つ一つの物語はスリリングこの上ない.
あの,「ホワイトアウト」の作者ならではの緊迫感でページをめくる手が止まりません.

そして,薄皮を剥ぐように,少しずつ真実が明らかになる.

2本の流れが1本に,それがほかの支流を統合してまた太い流れに,それを繰り返し...そうか,そうだったのか.

そして,最後に起こる奇跡が涙を誘います.

いいですねえ.

ミステリーと感動の華麗なる調和.

家族の暖かさ.
想いをうまく伝えられないもどかしさ.
でもだからこそ,いざというときの底力が沸き起こる.
切なさを積み重ねたからこそ,感動の嵐を呼び込む.

自殺願望老人の娘の最後の台詞がぐっと来ます.

「お父さん,デパートに行こうね」

久しぶりに泣きました.

「ターミネーター4」

2010年02月07日 21時32分55秒 | 映画・DVD


ターミネーターファンとしてはとりあえず見ておかないと.
ということで見ましたが...
やっぱ,1作目と2作目が良すぎたせいか,3はいま一だったし,4もいけませんね.
緊張感が全然違う.
ぬるいんですよ,画面の空気が.
本当はジョンコナーと,彼の父になる予定のカイル・リースがダブル主演のはずだったんだけど,なぜかマーカスという元凶悪犯罪者のような男が死刑執行後に冷凍保存され,未来に蘇ってジョンとカイルを助けるというややこしい話になってしまっている.

映画の基本である,ヒーロー・ヒロインがボケてしまって,誰が主役?って思ってしまうのです.
映画を見る人は,ヒーロー・ヒロインの立場に自己を投影してストーリーを追いかけるものですが,この映画では,見ている人は,自分はジョンなのか,カイルなのかマーカスなのかわからないのです.
私は,ジョンとカイルは脇に追いやって,マーカスを全面的に主役にして組み立て直した方が面白くなると思いました.
最後にシュワちゃんがちょっとだけ出てくるところは,懐古趣味かもしれないけど,良かったな.
真打登場って感じがしたけど,他の登場人物がみな泥だらけ・埃だらけなのに,彼だけピカピカでCGそのものって感じで,かえって不気味さが出ていて良かった.

でも...2回目見ようとは思わないです.

T2はチャンスがあれば,何度でも見たいですけど.

ディアドクターにしとくべきだった...