書く仕事

ご訪問ありがとう!!ミステリー小説の感想を中心に,読書,日々の雑感,映画の感想等を書き散らかしています.

「あなたの本」誉田 哲也

2015年09月26日 22時54分39秒 | 読書
「あなたの本」誉田 哲也


アイデアと言い、展開の巧みさと言い、エンターテイメント性の高さは抜群のミステリー、あるいはファンタジー、あるいはドラマ。

とにかく、面白い7編の短編小説集です。
どの物語も珠玉の味わいを持つのですが、素晴らしいのは、それぞれが全く別のテイスト、別のベクトルをもつ物語だということ。
7つの小説に共通する印象は「読み始めてすぐに引き込まれてしまうこと」

あえて上げるなら、「見守ることしかできなくて」
私個人の好みの評価ですので、おそらく読んだ人ごとにそのベストワンは違うと思います。

「鍵のない夢を見る」 辻村 深月

2015年09月22日 00時31分18秒 | 読書
「鍵のない夢を見る」 辻村 深月



お話はとっても面白かった。

恋人や結婚相手、親友、合コンの相手まで、人生を伴にするパートナーに恵まれない主人公達が遭遇する悲運の短編集。
主人公はすべて女性。

どのヒロインも、基本的にまじめで、規律を守るタイプ。

しかし、なぜか、そういう生真面目な女性には、いい加減な人間が近づくものなのね。

でも、それって、必然なのかもしれない。

社会の規律や、規範に従って、良しOLや良い主婦や良い妻を演じることを、自らに課してしまい、その呪縛に身動きできない人生を送っている女は、いい加減なやつから見たら、格好のカモでしょう。この人なら、ずぼらな俺の面倒をちゃんと見てくれる、と思うわな。

つまり、彼女の不運というか悲劇は、彼女自身が招いているように見えてしまう。

話の暗さは湊かなえさんを思わせるが、結末が今一つしっくり来ないという批判もある。
しかし、この設定でハッピーエンドになるはずはないし、悲劇のままで終わっては救いがない。
この終わり方が、この作者の持ち味であり、味わいなのだ。

「誘拐ラプソディ」荻原浩

2015年09月17日 17時41分18秒 | 読書
「誘拐ラプソディ」荻原浩




伊達秀吉というのが主人公の名前ですが.

完璧に名前負けしているどころか,何をやってもうまくいかず,ついに犯罪に手を染めてしまった秀吉.
犯罪と言っても,窃盗,まあ,コソ泥ですが.

何回かの刑務所暮らしを経て,今はある工務店の親方が保護観察官となってくれ,その工務店で働いている.
親方は表面的には厳しいが,心根は優しい人で,なんとか秀吉を更生させようとする.
しかし,秀吉にその気持ちは届かない.

さらに,あろうことか,秀吉は親方とケンカした挙句,親方を殴り倒して,工務店の車を盗んで出奔する.

自暴自棄になって自殺を試みるが最後の勇気がなく,逡巡しているところへ,5歳の男の子,伝助と出会う.

何を思ったか,秀吉は,この伝助をかどわかし,身代金誘拐を企てる.

しかし,その伝助は関東一円を取り仕切る暴力団一家の跡取り息子だった!



ドタバタ,やくざ社会のしがらみ,警察の内幕.
社会の裏街道のやばい話がてんこ盛りの小説だが,不思議に雰囲気は悪くない.

秀吉のあまりの出鱈目ぶりが,かえって彼の人生の悲惨さを,巧みにカバーしている.
世の中,「何とかなるさ」,という気にさせる何かがある.

結末は読んでのお楽しみ.

いかがですか,こんな人生は?

「カーボンコピー」幸田真音(こうだまいん)

2015年09月10日 10時22分59秒 | 読書
「カーボンコピー」幸田真音(こうだまいん)



面白かった。
広告代理店で働く41歳 山里香純 がヒロイン。
バリバリのキャリアウーマンで、クライアントの大手保険会社とも丁々発止のやり取りをし、大きなビジネスを成功させる。
しかし、内実は離婚や挫折を経験し、夜自宅に帰ると落ち込んだり、涙ぐんだりする毎日。

しかも元夫は今務めている会社の社長だったりするので、話がややこしい。

最近、クライアント企業の若手社員と「できて」しまい、公私とも、もう大変。

そんな時、起死回生の新企画が社会的な波紋を呼び、にっちもさっちもいかない事態に陥ってしまう。

さあ、どうする香純。

特定のテーマを持った小説ではないと思うが、ビジネスの世界で生きていく人間に降りかかる災難がフルコースで出てくる感じかな。

他人事なら、ワクワクする。

しかし、もし自分の身にこんなことが起きたら...ぞっとしますね。

「一応の推定」広川純

2015年09月04日 03時42分32秒 | 読書
「一応の推定」広川純



60歳の男性が駅のホームから転落して電車に轢かれ即死する。
その男性には多大な借金があり、なおかつ心臓病で移植手術をしなければ治らないという孫娘もいて、お金に困っていた。
事故死か自殺か?

状況証拠は自殺を示しており、保険会社は自殺を理由に保険金を払わない方向で調査をするよう、調査員・村越に調査を依頼する。

調査にあたる村越が主人公。
村越は、保険金を熱望する男性の家族と、保険金を払いたくない保険会社の間に立って苦悩する。
村越の地道で中立な立場からの淡々とした調査が始まる。

村越の地道な調査はまさに足で稼ぐ調査で、派手さは無いが人間的で温かさを感じさせる。
松本清張の「点と線」の刑事を思わせる。
忍耐力と人間性を持つ主人公の努力と汗の結晶のような小説である。
人が仕事に向き合う姿勢はかくあるべき、と示してくれるようなお話にもなっていて、人生訓としても深みのある小説だ。