書く仕事

ご訪問ありがとう!!ミステリー小説の感想を中心に,読書,日々の雑感,映画の感想等を書き散らかしています.

「小さいおうち」中島京子

2010年09月12日 12時06分19秒 | 読書
「小さいおうち」中島京子




中島京子さんの直木賞受賞作.
昭和モダンということばは初めて知ったけど,うんうん,わかる.
三丁目の夕日とはひと味違う,ちょっと上品で,ちょっと悲しくて,ちいさなうそが含まれていて.
いいなあ.
女性が女性を好きになる気持ちは,もちろん私には想像がつかないけど,きっと男女の愛とは違って,もっと密やかで抑圧的なものなのでしょうね.
愛すること=我慢すること
みたいな.

それはさておき,戦前から戦争中,終戦までの比較的裕福な家庭に奉公した女中さんの手記という形をとった紛れもない小説.
「女中」は差別的用語ということで,一時はお手伝いさん,今はハウスキーパーだっけ?
でも,この小説の主人公「タキさん」は「女中」という職業に誇りを持っていて,家族の身の回りの世話だけをする仕事ではなく,一家を陰から支える重要な職業と捉えている.
女中にとって,最も重要な資質は「機転」だという.
家族の危機の時,難を逃れられるか否かは女中の機転にかかっている,というのがタキさんの持論.
すばらしい.
タキさんの誇りはすべての職業人が持つべきだと思う.

表面的には何気ない日常が淡々と描かれる.
会社の重役のご主人,美貌の奥様,やんちゃでかわいい長男,一家を訪れる若い男性社員で画家の青年,そして主人公のタキさん,しかし,そこには家族の間,そして,画家の青年が絡む小さな秘密が見え隠れする.
秘密の見せ方が,「チラッ」なんですよ.
え?もっと言ってよ.
という気持ちにさせます.
読み始めればすぐわかるのが奥様と青年との許されぬ恋,当然,読者はこの不倫話がメインのストーリーかなと思うわけですよ.
それはそうなんですけど,それだけじゃない...
そして,最後の最後で,おタキさんの小さなうそが明らかになり,全ての小さな疑問集が,ストンと胸に落ちる仕掛け.
いいですね.
いいですよ.
ある意味ミステリー.
この展開.
日本独特の味わいだと思う.
こういう小説が直木賞をとることが,すばらしいと思う.
日本の小説界,バンザイと叫ぼう.

筒井康隆の時と随分意趣が違ってきたけど,まあ気にしないで.

「ベストキッド」ジャッキーチェン、ジェイデンスミス

2010年09月10日 16時41分54秒 | 映画・DVD



出張の空き時間に見ました。
本当は「ソルト」、「インセプション」、「借り暮らしのアリエッティ」のどれかと思ったんだけど、どれも空き時間帯に合わなくて断念。
しかたない、ネットカフェで時間つぶしかな?と思ったら、看板の一番下に発見したのが、これ「ベストキッド」。
面白かったです。
なかなか当たりだった。
ジャッキーチェンが今までのイメージとはまったく違う、渋い味を出しています。
暗く悲しい過去を背負ったカンフー師に扮します。
ベストキッドなるジェイデンスミスがかわいい。
あのウイルスミスの息子ですよね。
カンフーはまだちょっとジャッキーチェンと比べるのはかわいそうだけど、それでもなかなかのもの。
あと、ゲーセンのダンスゲームマシンで踊るシーンはマイケルジャクソンみたい。
いじめられて泣き顔になる演技はとっても上手.
さすが,ウイルスミスの息子.

彼が好きになる中国人少女でバイオリニストの少女も良いですね。
女優さんって感じじゃないけど生き生きして、表情が良いですね。
すごく好感がもてる.
バイオリンはアテレコだけど。

カンフーの敵役の男の子が、やることはにっくたらしいんだけど、かっこよくて、別の映画だったら、主人公にしてもおかしくないくらい演技もうまいです。
カンフーもうまいし、バクテンしたり、仰向けの状態から背中のばねでピョンと立ち上がる技は、自らやっているようですので、相当運動神経はよさそう。

ストーリーはお決まりのやつ。
カンフーのできるいじめっ子からいじめられている主人公が、ジャッキーチェン扮する師匠に手ほどきを受けてカンフーの腕を上げ、カンフー大会で敵役の男の子を破って優勝するっていうもの。
過去に何度も映画化されています。

まあ、突っ込みどころはいろいろあるけど、どんなにつらい状況でも決してあきらめずに頑張ると、必ず未来が開けるという教訓は、『そうだよね』といわざるを得ない説得力がある。
だから、子供たちには見てもらいたいね。
ただ、本当は、人生はもう少し複雑にできているよね。
だから、この映画のような人生が全てじゃないということも付け加える必要は感じますがね。
まあ、それはさておき楽しかったし、感動もしました.
最後はロッキー風?

「平面いぬ」乙一

2010年09月06日 14時47分51秒 | 読書
「平面いぬ」乙一




GOTHに続き,乙一さんを読むのは,これが2作目だ.
「石の目」,「はじめ」,「BLUE」,「平面いぬ」
4つの中編からなる文庫本.

たぶんストーリーを書いてもちっとも面白くないと思う.
乙一ワールドとも言うべき独特の雰囲気で読ませる作家だから.

いずれも,設定はオカルト的あるいはホラー的だが,この本を読んで怖いと思う人はいないはず.
むしろ,ファンタジーやメルヘンに近い.
ただし,ただの童話的メルヘンではもちろんなくて,「本当は怖いイソップ童話」みたいな雰囲気があり,さらに善悪を超えた独特の美意識を感じさせる作家だ.
悪意,いじめ,憎悪などの否定的な感情を描いておきながら,なぜか読者には一種の安らぎに近い香りをかがせる才能がある人だ.

汚いものを,美しく見せる技術(?),これは天賦の才と言うべきだろう.

「高杉晋作」三好徹

2010年09月04日 15時46分39秒 | 読書
「高杉晋作」三好徹




三度の飯より小説が好きである。
No book, no life!

しかし,歴史小説は苦手だった.
いままではね.

それは、歴史的事実とフィクションとの境目が不明瞭で,自分の頭の中に知識として残す部分と,文学として感性で読み取る部分との切り分けができないからだ.
特に、主人公の思考とか性格の描写が、ともすれば恣意的に流され、同じ歴史上の人物が、作者によって、天才に描かれたり、日和見主義者に描かれたりするのには我慢がならない。
徳川家康なんかその最たる存在だろう。

家康という人物は歴史上に1人しか存在しないのに、歴史小説によってもたらされた家康像は、『歴史のうねりをつかむ天才』 から 『風見鶏のような日和見主義者』 まで、何通りもある。
これはおかしな話だ。

しかし,この「高杉晋作」はすばらしかった.

まず,資料がすごい.
殆どが書簡,手紙であるが,よくぞ集めたというくらい膨大な資料を集めている.

そして,その資料と,歴史学的に明らかになっている事実とを照らし合わせ,高杉晋作の人間像に迫っていく.
ここからはもちろん作者の三好徹氏の創作となるが,その筆致がすばらしい.
文章自体は大げさな表現はなく,むしろ感情を抑えたクールな文章だ.
しかし,高杉晋作の人生自体がドラマであることを逆手に取り,あえて淡々とした文章で綴るところが心憎い.

高杉晋作の魅力は,長州藩の重役の嫡子として生まれながら,権力や自分一人の名誉に固執することなく,長州の未来を切り開いた点にある.
同時に,桂小五郎(木戸孝允)や坂本龍馬といった幕末の志士達との交流の中で,自分の立ち位置というか役割をしっかりと判断し,自分にできることと他の志士に任せるべきことを見事に判断しきっている点がすばらしいと思う.

そのすばらしさを恣意的でなく,客観的事実の集積で描いて見せたのがこの「高杉晋作」ということになるかな.

歴史小説に対する評価を一変させてくれた一冊である.

応援してるぞお!

2010年09月04日 10時11分41秒 | 日記
今,大学は夏休み中なので,学生達の姿はあまり見かけないけど,昨日の夕方,教えているクラスの男子が肩を落として,疲れた表情で廊下を歩いていた.
「○○君,暑いね」と,声をかけると,
「あ,coollife先生,いよいよ明後日試験なんすよ.」
「え?何の?」
「電気主任技術者」
とのこと.
そう,国家試験です.
最後の追い込みで連日遅くまで勉強しているので,そんなにくたびれているというわけです.

また,別のクラスの子らは,「基本情報技術者試験」を目指した補習授業で問題を必死に解いている.こちらは試験が10月なのでまだ多少は余裕があるかな.

いずれにしろ,私が暑い暑い,とグチをこぼしている時に,こうやって,将来のために一生懸命頑張っている若者達がいるわけで.

世の中見渡してみると,この猛暑の中で甲子園で戦った球児たち(地区予選で敗退した子らも含めてね)とか,NHKのロボコン目指して徹夜している高校生,大学生,高専生,はたまた昨日のテレビでやっていた高校生クイズの出場者達.

他にも,音楽とか演劇とか,成功する保証がなくても必死で頑張る彼らがいる.

いっぱいいるんだね.頑張っている若者が.

日本も捨てたものじゃないよね.

おじさん達もがんばんなきゃ.