書く仕事

ご訪問ありがとう!!ミステリー小説の感想を中心に,読書,日々の雑感,映画の感想等を書き散らかしています.

「影法師」百田尚樹

2014年02月18日 13時30分43秒 | 読書
「影法師」百田尚樹



「永遠のゼロ」の百田尚樹さんが書いた時代小説.

素晴らしい.

時代小説だが,人の生きざまを感動を伴って描く力は,「永遠のゼロ」や「モンスター」と変わらない.

茅島藩筆頭家老の名倉彰蔵は,もとは最下級武士の家に生まれたが,高い志と努力で筆頭家老まで上り詰めた.

彼には,磯貝彦四郎という竹馬の友がいた.

しかし,磯貝は若いころ,藩内で狼藉をはたらき,出奔したまま姿を見せなかった.
その磯貝が,つい最近藩内の港町で死んだという知らせが名倉に入る.

悲報を聞いた名倉には,若いころ,学問の才に恵まれ,剣の実力も素晴らしいものがあった磯貝がなぜそのような悲惨な後半生を送ったのか,全く分からなかった.

この小説は,磯貝の悲報を聞いたことをきっかけに,名倉が過去の出来事を回想する形で進められる.

そして,名倉自身が気づいていなかった,磯貝の想像を絶する思慮と行動が見え始めるのだった.

一見何の変哲もない,出来事に,ものすごい深謀遠慮が隠れている.

磯貝の,一つ一つは謎に思える行動が,ある一つの目的を想定すると,すべてがピタッと,はまる.

う~む.と唸らざるを得ない.

すごいね.

よく,こんなストーリーを考え付くものだ.

やはり,百田さんという作家.只者ではない.

「火の壁」井野上裕伸

2014年02月17日 15時28分02秒 | 読書
「火の壁」井野上裕伸




火災保険金詐欺のドキュメンタリー風小説.ただし,実際は完全なフィクション.

火災保険の調査員,相沢はある火災について調査を依頼される.

その保険人,樋川は過去に4回も火災に会い,その全てで火災保険金を受け取り,火災のたびに自身が経営する寿司屋を大きく建て替えていた.
しかも,そのうち2回の火災では人が死んでいる.

まあ,いかにも怪しいわけです.

相沢が依頼されたのは,最後の5回目分だけだが,事件の全貌を知るためには,過去の4回も洗いなおそうと,相沢の地道な調査が始まる.

一通りの調査が終わり,状況証拠ながら,自作自演の火付けであるという確証を得た後に,いよいよ本人,樋川と対峙する.

しかし,相沢は樋川との面談で,ある奇妙な印象をもつ.
確かに,自分で火をつけたことは間違いなさそうだが,その動機が判然としない.
単に,保険金目当てなら,例えは悪いが,生命保険でもよい.

樋川の「火」に対する,異常な執念に,何か過去の亡霊を感じた.

そこで,改めて,樋川の過去を洗いなおしてみると.....

って,感じで蛇行しつつ,紆余曲折を経ながら,読者をあちこちに連れまわす.

微妙な小説だね.
一応,ミステリーなんだけど,最後の謎解きが唐突な印象を否めない.
「やられた」っていう爽快感がない.
なんとなく,後出しジャンケンで負けたみたいな感じかな.

ただ,この小説は.井野上氏としては初の長編らしいので,それを割り引けば,納得できる.
決して退屈な本ではありません.面白いです.

ただ,何かすっきりしないなあ,というのが印象.

第13回サントリーミステリー大賞読者賞受賞.

これは出版社への小言だが,行間が狭すぎて読みづらい.
文字の大きさは単行本としては普通だが,行間は文庫本くらいしかない.

「滅びのモノクローム」三浦 明博

2014年02月15日 12時13分05秒 | 読書
「滅びのモノクローム」三浦 明博



第48回江戸川乱歩賞受賞作.

コピーライターの日下は大の釣りマニア.
釣りそのものだけでなく,道具,特に骨董的な釣り具に造詣が深い.

彼が仙台の骨董市で買った古い釣り用リールと,それと共に入手した柳行李(やなぎごうり)に昔のフィルムが入っていた.
好奇心のままにその由来を調べていくと,最初からあったフィルムとは別に,リールの中から,古い16ミリフィルムが見つかったことを皮切りに次から次へと謎が湧き出てくる.
そして,ある政治家の戦争中のスキャンダルに行き当たったところで,二人の身に,とてつもない危険が迫ってきていることが判明する.

戦争という,人間が作り出した,巨大な悪の中で心を歪めてしまった人たちと,その犠牲になった在日外国人.

悲劇が悲劇を呼ぶ.

基本的にミステリーなので,謎解きの面白さの比重が大きく,上に述べたほどは戦争の悲惨さが伝わってくるわけではない.
戦争の悲劇はこんなものではない,という気もする.

ただ,やはり江戸川乱歩賞の特徴でもあるが,謎解きの構成の大きさは素晴らしい.
謎が小手先ではない,スケール感のあるものになっているのはさすがだ.