書く仕事

ご訪問ありがとう!!ミステリー小説の感想を中心に,読書,日々の雑感,映画の感想等を書き散らかしています.

「ホテルローヤル」桜木紫乃

2015年08月28日 23時02分19秒 | 読書
「ホテルローヤル」桜木紫乃



「硝子の葦」に続き、2冊目の桜木紫乃作品

人生に対する絶望や、屈折した愛情など、どこか捻じれた人間の思いを、北海道の寂れた地にあるラブホテルを舞台に描いた文芸作品。

舞台が舞台だけに、そういうシーンはたくさん出てくるけど、エロティシズムとは程遠い乾燥した描写になっている。

これから大人になろうとする青少年には、逆の意味でよろしくない。
逆の意味というのは、恋愛とかセックスとはなんてつまらないものなんだろうと思わせてしまうかもしれないから。

いずれにしろ、夢を持て、社会にはばたけと日頃言っている教師が若者に薦める本ではないな。

ただ、こういう人生を送らざるを得なかった人が、もしかしたら世の中には居るかもしれないという社会勉強の教科書にはなるかもしれない。

2013年の直木賞受賞作。

「6 シックス」早見和真

2015年08月24日 23時02分27秒 | 読書
「6 シックス」早見和真


カバーの白いユニフォームからもわかるように、テーマは学生野球。
学生野球で「6」と言えば?
そう、東京六大学リーグです。

東大、法政、明治、立教、慶應、早稲田の野球部員あるいはその関係者が一人ずつ主人公となり、6編の短編集を形作る。

関係者とは、野球部員の場合もあるが、マネージャーだったり、母親だったり、彼女だったり...

つまり、野球部員を取り巻く周りの人にも、それぞれの人生があり、挫折がある。

また、一見栄光に包まれたヒーローのような野球部員にも、実は悲しい過去の出来事があり、追い詰められるような思いで、心の中で泣きながらエースピッチャーを務めていたりするわけね。

一人一人の人生に寄り添いながら、野球という舞台を通して「青春」と「幸せ」について問いかける珠玉の短編集というところ。

ただ、野球は素材に使っているだけかというと、そうでもない。

たぶん、サッカーだとこんな感動の物語にはならないんじゃないかな。
もっと、ドライな話になりそう、、、かな?

「サウンド・オブ・サイレンス」五十嵐貴久

2015年08月21日 08時32分03秒 | 読書
「サウンド・オブ・サイレンス」五十嵐貴久



聴覚障害を持つ高校生2人と大学生1人の計3人の女子ダンスチームの奮闘.
語り部は彼女らの友人である健常者の夏子.

彼らが知り合って,反発しあい,理解しあうまでが前半.
後半はダンスのコンテストに向けての特訓の模様.

還暦を過ぎたオヤジの読む本ではないかもと思いつつも,若いっていいなあという想いと,若いって疲れるよなあという想いが交錯した.

もう一度あの青春時代を繰り返したいかというと?

まっぴらごめんだね.

ま,小説自体は熱い熱いお話で,とても楽しめましたけどね.

「誰もいない」 小手鞠 るい

2015年08月14日 19時53分03秒 | 読書
「誰もいない」 小手鞠 るい



2つの異なる恋愛物語が並行して進展する構成。
一方の話の中に、他方の話がちょこっと出てくるので、これは何かあるなと思ってしまった。
最近、イニシエーションラブを読んだばかりなので、今回は騙されないぞ!と意気込んだのだけど、、、

しかし、その点については、完全に私の一人相撲でした。

2本とも、どっぷりの恋愛ものでした。
ただ、ここまで純粋な恋愛ものを読むのは久しぶりでしたので、何ていうか、ある意味新鮮な感じです。
読み始めはミステリー的なものを期待していたので、つい結末を急ぎがちになりましたが、自分の勘違いに気付いてからは、恋愛小説は結末ではなくプロセスを楽しむものだということを思い出し、以後は楽しく(!)読み進めることができました。
良かった、良かった!

「秋の牢獄」恒川光太郎

2015年08月10日 18時15分41秒 | 読書
「秋の牢獄」恒川光太郎



久しぶりに読んだホラー小説
ホラーと言っても,強制的に不条理な状況の元に置かれてしまった主人公の苦闘と運命を描いた物語.
ちょっと変わってるのは,その不条理な現状を,主人公は必ずしも嫌がっていない雰囲気があることかな.
70ページくらいの中編が3編収録されている.

特定の1日を何度も繰り返す時間のループに入り込んでしまった女子大生の交友関係とループから脱出するまでを描く 「秋の牢獄」

一人だけ人間を住まわせて日本中を動き回る,奇妙な家に囚われてしまった若者の運命を描いた 「神家没落」

異常に霊感が強く新興宗教の教祖になるべく運命づけられた少女の物語 「幻は夜に成長する」

いずれも良く練られた不思議な雰囲気をもつ小説です.

3作とも超能力や超常現象を扱っているのだけど,それらの現象はあくまで場面というか設定であって,それがすべてではない.
あなたなら,どうする?という問いかけでもない.
実に淡々として,こんな物語があるんだけど,それが何か?
みたいな,乾いた情念というか,読者を突っぱねるようなところを感じる.
好みが分かれそうな作者ですね.

「ザ・ベストミステリーズ2015 (推理小説年鑑)」 日本推理作家協会編

2015年08月09日 10時10分34秒 | 読書
「ザ・ベストミステリーズ2015 (推理小説年鑑)」 日本推理作家協会編



2014年に発表された短編ミステリーのベストセレクション.
選んだのは,推理作家協会なので,選者の個人名はわからないけど,いろいろなジャンルからまんべんなく,良質な作品を選んだなという感じ.バランス感覚を大事にしているよう.
少し冷えてきた秋の夜長に,温めたブランデーを片手に読みたいけど,なんせこの猛暑,,,

愚痴は,さておき,
ピリッとスパイスの効いた作品がずらっと並んでおり,飽きることなく読み進めることができます.
どの物語が面白いかというのは,どのジャンルが好きかに大いに依存するような気がしますが.,,
そんな中でも,個人的に気に入ったのは,

出所したばかりの受刑者をゆする少年たちと,出所受刑者との関わりを描いた「死は朝,羽ばたく」

コンプレックスの塊のような女子大生と,妻を失った老人との心の交流を描いた「自作自演のミルフィーユ」

の2つが特に良かった.
ミステリーというスタイルを保ちながら,心の中に潜む邪悪さや,逆に心の成長を見つめる視線を穏やかに描いている作品だ.
また,ちょっと異色の作品として,「カレーの女神様」も面白い.これは評するとネタバレになるので,「面白い」ということだけ報告しておきます.