書く仕事

ご訪問ありがとう!!ミステリー小説の感想を中心に,読書,日々の雑感,映画の感想等を書き散らかしています.

「あつあつを召し上がれ」小川糸

2014年10月28日 08時00分18秒 | 読書
「あつあつを召し上がれ」小川糸



人は生きるために食べるのか? 食べるために生きるのか?

この究極の2択問題に第3の選択肢を与えてくれる短編集.

第3の選択肢は,「食べることは生きることである」 かな.

人は一生のうちに,沢山の出会い,別れ,見送りを繰り返す.

その度に,喜びの光と悲しみの嵐が心を翻弄する.

その光と嵐の中で,光はより明るく,嵐には避難小屋の暖かさを与えてくれるもの.
それが「美味しい料理である」

7つの小さなお話からなる短編集だが,私のお気に入りは,「親父のぶたばら飯」
食べることの喜びが心の底から伝わってくる.
付随する物語がハッピーなのも良い.

悲しい物語は,やっぱり悲しいからね.

最初の「バーバのかき氷」も良い.
食べ物という範疇からはちょっと微妙だけど,死が近いおばあちゃんが,目で訴えたリクエストを孫娘がひらめきで感じ取る場面にグッと来た.

いずれも,佳作だ.
喜びか悲しみかの差はあるけれど,人の一生の大波小波に必ず寄り添ってくれている「料理」

この本を読んだ後で,カップ麺を食べる気には決してならないだろう.

「楽園のカンヴァス」原田マハ

2014年10月24日 19時58分36秒 | 読書
「楽園のカンヴァス」原田マハ



私はクラシック音楽についてはわずかな知識もあり,バイオリンを少し触れることもあって,好みの曲について薀蓄を語りだすと止まらない方ですが,こと美術についてはからっきしダメです.
マネとモネの区別もつかない美術オンチです.
(ただし,ダリだけは好きなんですけどね.)

そんな僕に,読書通かつ美術通の友達が教えてくれた一冊がこの「楽園のカンヴァス」
目から鱗というか,1枚の名画にこれほどの深い謎や物語や恋愛が隠されていようとは...

考えてみれば,音楽でも,例えばベートーヴェンのシンフォニー1曲にだって,ベートーヴェン自身の人生の数ページが関わり,その間の出来事と喜怒哀楽が込められていることは,容易に想像できるわけですから,美術作品だって同じだと思えば,当たり前なんですけどね.
今までそういう目で美術作品を見たことがなかったことが迂闊でした.

あらすじを語るのはここでは控えます.

是非,読んでいただいて,ご自身の感想をかみしめていただければと思います.

ただし,一言申し上げておかなくてはなりません.

この小説自体には大いに感動しましたが,残念ながら,小説中に出てくる絵画を眺めても,そこまでの感動は得られませんでした.
これは,私の感性の問題であり,美術作品のせいではありません.

この小説の評としては,素晴らしいという推薦を惜しみませんが,アンリ・ルソーの絵を見て,全ての人がこの小説の主人公と同じ感動を得られるかは,残念ながら保証できないことをお断り申し上げておきます.

著者は関学の文学部の日本文学科と早稲田の文学部の美術史科を卒業した後,国内の美術館勤務を経て,ニューヨークの近代美術館(MoMA)勤務を経験している,と書けばこの小説を書けそうな人だという気がしてくるでしょう?

親父

2014年10月23日 21時16分32秒 | 日記
10月20日の夜,父が亡くなりました.
21日に通夜,22日に葬儀と初七日を済ませてきました.
昭和3年生まれの86歳で,まあ天寿を全うしたと言っていいのではないかと思います.
高等小学校を出て,中学には行かずに新聞社に勤め始め,結局定年まで勤め上げました.
私の嫌いな某新聞社ですけどね.
私とはかなり人生観の異なる人でした.
趣味を生活の第一に置き,仕事はあくまで生活の糧を得るためのものと割り切っていた感があります.
その趣味ですが,「釣り」と「カメラ」でした.
実家の2階は釣り道具置き場と化し,足の踏み場もない状態.
腕の方は,僕には理解できないですが,岸釣りと船釣りと両方好きで,若い頃はほとんど毎週末に釣り道具を持って出かけてました.
カメラの方は機械に凝る方で,上から覗き込むタイプのライカを始め,最新のデジカメまで沢山持っていたようで.
とにかく凝り性でした.
写真雑誌にもよく投稿して,たまに掲載されては喜んでいました.
僕が毎日遅くまで仕事をしたり休日出勤したりするのを,批判することはしませんでしたが,不思議そうにしてましたね.
こいつは何が楽しくて仕事してるんだろう?みたいな.
昭和と平成の86年間を思い切り,好きなことだけをして謳歌し,83歳のお袋さんを残して冥途に旅立ちました.

「才輝礼讃」松任谷由実

2014年10月13日 11時53分03秒 | 読書
「才輝礼讃」松任谷由実



昭和の天才少女とも,平成のモンスターとも言われ,日本の音楽界をリードしてきたユーミンこと松任谷由実の対談集.

こういうことができることが,ユ-ミンの素晴らしいところであり,ちょっとおこがましい言い方だけど,こちら側の人である証明にもなっている.

こちら側というのは,常識が通用する人くらいのニュアンスなんだけど.
人間オンチの天才じゃないということね.
しかも,微妙なニュアンスを言葉で表現する巧みさが素晴らしい.

対談はいずれも面白いが,共通しているのは,メディアが伝える(伝えたい)有名人の姿と実際に本人が考え,悩んでいることは違うよ,ということね.

だから,面白い.

有名人だって,天才と言われる人だって,同じ人間なんだね.
悩みだってある,というより,むしろ平凡な人生を送っている大衆より,はるかに深くて,しかも「逃げられない」悩みに晒されて生きているのではないかという気がするのです.

彼らのつらさは,その「逃げられない」感にあるような気がする.

才能があればあるほど,成果を出せば出すほど,次を求められる苦しさ.

そして,新しいものが出てこなくなったとたんに,「あの人はもう終わったのね」と言われる恐怖心と常に戦っているわけ.

この対談が面白いのは,その恐怖心をユーミンと相手が共有しており,その共感を土台に,しかも,その恐怖心を露わには表現せずに,いろいろな話題でユーモアたっぷりに盛り上げる巧みさがあるからだ.

「推定脅威」須本有生(みすもとゆき)

2014年10月06日 19時12分42秒 | 読書
「推定脅威」須本有生(みすもとゆき)




航空工学科出身で航空機設計の技術者から作家に転身した未須本有生(みすもとゆき)の航空サスペンス.
処女作にして松本清張賞受賞.

面白かったね.

着想が奇抜なのと,あまりえぐい人格の人が出てこないので,僕のような気の小さい人間でも安心して読める.
過激な表現や,人がバタバタ死ぬのは勘弁してほしいという人には,最適なストーリーです.

航空技術者ならではのアイデアが随所に盛り込まれており,飛行機の専門家でなくても十分にワクワク感を楽しめるエンタメ系サスペンスになっている.
濡れ場シーンも「穏やかな」ので,私のような奥手のお坊ちゃまも顔を赤らめずに読めます.

読み終わって,ああ,面白かった.っていう感想ですね.