書く仕事

ご訪問ありがとう!!ミステリー小説の感想を中心に,読書,日々の雑感,映画の感想等を書き散らかしています.

「言ってはいけない」橘玲(たちばなあきら)

2018年03月28日 22時09分01秒 | 読書
「言ってはいけない」橘玲(たちばなあきら)



「残酷すぎる真実」という副題が付いている。
新潮新書なので、啓発本でもある。
タイトルからして、何かの暴露本か?と思うかもしれないが、極めてまじめな、遺伝学の本である。
遺伝というと、身長とか体重とか、病気とか、一般には身体的な特徴や性質、いわゆる形質に関するものが議論されることが多いが、この本で主として取り扱っているのは、知能や感情など、脳の中身に関するものである。
人間が頭の中で何をどう考え何を選び、何を捨てるか、これらのメカニズムがすべて遺伝子の中に組み込まれていると考える。
もちろん、遺伝子だけですべてが決まるわけではなく、環境が大きく影響するのは周知のとおりであるが、「環境から何を学ぶか」は遺伝子に書き込まれているという説である。

説明は極めて論理的で、感情に流されることがない。

残酷すぎる真実というのは、子育てにおける、親の影響が、我々が想像しているのとは全く異なり、極めて小さいものであるという事である。

親が良かれと思ってやっていることは、ほとんど子供に影響を及ぼすことはなく、親が子育てで悩む大部分のことは、最初から遺伝子に書き込まれている、という事で説明がついてしまうのである。

子育てに悩みのある方は一読をお勧めする。

自分はどう子供と向き合うべきか、一筋の光が見えることは間違いない。

「食べる女」筒井ともみ

2018年03月23日 21時30分22秒 | 読書
「食べる女」筒井ともみ


派手な表紙のせいで、電車で読みづらいったらありゃしない。
カバー掛けて、こそこそと。

美味しい食事と優しい男との情事があれば、どんな忙しい毎日だって乗り切れる。
なんて、書いてて恥ずかしくなるような書評だが、そういう小説なんだから仕方ない。

しかも、めちゃめちゃ面白い。

人は一生懸命働き、好きな人と美味しいものを食べる。これだね。
「好きな人と」ってところが、小説なんだけど、ここが大事。この小説の重要ポイントだ。

面白いのは、結構濃厚な濡れ場にも拘らず、食べ物の話がじゃんじゃん出てくる。
医食同源ならぬ、性食同源。

よくわからんが、とにかく面白いお話が詰まっている短編集でした。


「カネと共に去りぬ」久坂部 羊

2018年03月19日 21時38分29秒 | 読書
「カネと共に去りぬ」久坂部 羊




こんなふざけたタイトルの本が面白いはずがない、と思ってスルーしようと思ったのが、出会いの最初。
しかし、タイトルの脇にちらっと見えた作者の名前が、久坂部 羊ではないか!
久坂部 羊といえば、このブログでも紹介した、「第五番」の作者。
むむむ。あの名作の著者がこんな怪しからんタイトルの本を書くのか???

で、思わず手に取ったのが、この本という次第。

やはり、人は見かけ、いや、本はタイトルではわからない。

スルーしなくてよかった。

面白かったですよ。

もともと、お医者さんなんだけど、海堂尊さんなんかとは本質的に違うタイプの作家です。
どう違うかは、読めばわかるので、省略しますが、とにかく、「第五番」とも共通するのが、表現が、『エグイ』
単なるグロではなくて、人の醜さを徹底的にあぶり出す手法がエグイ。

わずかに筒井康隆とも通じるものがあるかもしれないが、筒井ほどの狂気は感じない。久坂部氏の方が、冷静さがある。
冷静なだけに、深部を確実に抉り出すメスさばきがすごいです。

カミュ、カフカ、夏目漱石、文豪たちの古今東西の名作のパロディになっているんですが、いずれもパロディの姿を借りつつも、医療や介護の偽善を痛烈に批判しています。
お医者さんが読んだら怒るだろうな。

ま、フィクションですから。

あ、でも、久坂部さんは元医師なんだよな。むむむ。