「サイコトパス」山田正紀
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5a/c8/f7d43d70dcf0fe700ab47e8486e4a32a.jpg)
物語の冒頭は,本格推理小説風に始まります.
密室トリックもの?と思ってしまいました.
しかし,読み進めていくうちに様子がおかしくなります.
文章の主語が,突然はっきりしなくなる.「誰」が語っているのか?
主人公の女子高生「晴香」か?あるいは,その母で推理小説家でもある「静香」か?
そうかと思うと,前に出てきた場面とセリフが,出演者が変わってまた出てきたり.
わけがわからなくなります.
全体の3分の1くらいまで読み進めた時,ふと昔見た,ある映画を思い出しました.
デビッド・リンチ監督の「マルホランド・ドライブ」 です.
もちろん,ストーリーは全く違うのだけど,何というか,テイストが似ているんですね.
最後の落ち(まとめ方)は「マルホランド・ドライブ」に比べると,こちらの小説の方がずっと分かりやすい.
ただ,この分かりやすさは,小説としてのグレードをちょっと下げている気もする.
マルホランドドライブの場合,何も考えずに見ると,ストーリーは「ちんぷんかんぷん」で,「何?この映画!」のひと言で済まされかねないけど,ある「視点」に気付くと,謎の80%くらいが解けるようになっているんですね.
でも,それでも少しだけ謎というか解釈の揺れが残る.これがいいんだな.
この小説もそういう点を工夫すると,直木賞候補にもなるんじゃないかなと,思うくらい可能性を秘めた小説だと思いました.
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物語の冒頭は,本格推理小説風に始まります.
密室トリックもの?と思ってしまいました.
しかし,読み進めていくうちに様子がおかしくなります.
文章の主語が,突然はっきりしなくなる.「誰」が語っているのか?
主人公の女子高生「晴香」か?あるいは,その母で推理小説家でもある「静香」か?
そうかと思うと,前に出てきた場面とセリフが,出演者が変わってまた出てきたり.
わけがわからなくなります.
全体の3分の1くらいまで読み進めた時,ふと昔見た,ある映画を思い出しました.
デビッド・リンチ監督の「マルホランド・ドライブ」 です.
もちろん,ストーリーは全く違うのだけど,何というか,テイストが似ているんですね.
最後の落ち(まとめ方)は「マルホランド・ドライブ」に比べると,こちらの小説の方がずっと分かりやすい.
ただ,この分かりやすさは,小説としてのグレードをちょっと下げている気もする.
マルホランドドライブの場合,何も考えずに見ると,ストーリーは「ちんぷんかんぷん」で,「何?この映画!」のひと言で済まされかねないけど,ある「視点」に気付くと,謎の80%くらいが解けるようになっているんですね.
でも,それでも少しだけ謎というか解釈の揺れが残る.これがいいんだな.
この小説もそういう点を工夫すると,直木賞候補にもなるんじゃないかなと,思うくらい可能性を秘めた小説だと思いました.
「呼人」野沢尚
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/06/5a/4780297d8316ffdbd8cd2b82bbcfa619.jpg)
小学校6年生の呼人、潤、厚介の仲良しトリオ。
それぞれ、運命的な重荷を背負いながら、未来を信じて懸命に生きる物語.
出だしは、石田衣良の青春小説風に始まる。
おお,さわやか路線かなと思わせる.
ところが、呼人が半年間で全く身長が伸びなかったということがわかってから、話が奇妙に捻れていく。
成長ホルモンの異常かと思いきや、母親が昔飲んだ、あるいは飲まされた薬が原因という話になる。
その真相を探ろうとする呼人の苦闘と、それを助けようとして、新たな事件に巻き込まれる潤と厚介。
舞台は日本を離れ,朝鮮半島、アメリカ、ヨーロッパと世界中に飛び、国家、テロ、宗教の本質を問う壮大な物語に発展する。
いやはや、物凄い小説です。
基本的にはエンターテイメントですし、面白いお話であることは間違いないのですが、ここまで話を大きくしちゃうことに、違和感を持つ人もいるかもな、と思いました。
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小学校6年生の呼人、潤、厚介の仲良しトリオ。
それぞれ、運命的な重荷を背負いながら、未来を信じて懸命に生きる物語.
出だしは、石田衣良の青春小説風に始まる。
おお,さわやか路線かなと思わせる.
ところが、呼人が半年間で全く身長が伸びなかったということがわかってから、話が奇妙に捻れていく。
成長ホルモンの異常かと思いきや、母親が昔飲んだ、あるいは飲まされた薬が原因という話になる。
その真相を探ろうとする呼人の苦闘と、それを助けようとして、新たな事件に巻き込まれる潤と厚介。
舞台は日本を離れ,朝鮮半島、アメリカ、ヨーロッパと世界中に飛び、国家、テロ、宗教の本質を問う壮大な物語に発展する。
いやはや、物凄い小説です。
基本的にはエンターテイメントですし、面白いお話であることは間違いないのですが、ここまで話を大きくしちゃうことに、違和感を持つ人もいるかもな、と思いました。
「やっぱりミステリーが好き」雨の会
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3c/a8/9c5c5331dad94927a8ffefeaf6258c27.jpg)
クオリティの高い8編からなるアンソロジー.
アンソロジーといっても,寄せ集めの感はなく,きちんとしたポリシーのもとに,ミステリーのいろいろなテイストのものを集めている.
と思ったら,若手実力作家が集う〈雨の会〉というのがあって,そこが監修しているらしい.
なるほどね.
私的に気に入った理由として,ブラックなものとか不条理ものがなく,ユーモアに富み,エンディングが明るいか,若しくは,ほろ苦い程度に抑えている点があげられる.
入院中の身として気が滅入らなくて済むので有難い.
ほとんどすべての著者が,江戸川乱歩賞,日本推理作家協会賞等,ミステリ関係の受賞者で,直木賞作家もちらほら混じる.
井上夢人,大沢在昌,折原一,東野圭吾,高橋克彦,,,キラ星のごとく売れっ子作家が並んでいる.
いずれも傑作だが,ちょっと別の意味で印象に残った2編だけ紹介する.
第1編の「書かれなかった手紙」井上夢人と,第3編の「殺人計画」折原一は,どちらも手紙のやり取りの形をとった独立した短編ミステリーだ.
第1編も大変よくできて,あっと思わせるが,第3編を読み始めると,「え?,最初のと似てるなあ」と,必ず読者は思うはず.
しかし,....
この本も病院の図書コーナーで見つけました.
書名の,「やっぱり」が付いているってことは,付いてない「ミステリーが好き」というアンソロジーがこの前に出ているとのこと.
残念ながら,この書架にはなかった.T_T
著者は,上記の他,坂本光一,新津きよみ,矢島誠の計8人
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3c/a8/9c5c5331dad94927a8ffefeaf6258c27.jpg)
クオリティの高い8編からなるアンソロジー.
アンソロジーといっても,寄せ集めの感はなく,きちんとしたポリシーのもとに,ミステリーのいろいろなテイストのものを集めている.
と思ったら,若手実力作家が集う〈雨の会〉というのがあって,そこが監修しているらしい.
なるほどね.
私的に気に入った理由として,ブラックなものとか不条理ものがなく,ユーモアに富み,エンディングが明るいか,若しくは,ほろ苦い程度に抑えている点があげられる.
入院中の身として気が滅入らなくて済むので有難い.
ほとんどすべての著者が,江戸川乱歩賞,日本推理作家協会賞等,ミステリ関係の受賞者で,直木賞作家もちらほら混じる.
井上夢人,大沢在昌,折原一,東野圭吾,高橋克彦,,,キラ星のごとく売れっ子作家が並んでいる.
いずれも傑作だが,ちょっと別の意味で印象に残った2編だけ紹介する.
第1編の「書かれなかった手紙」井上夢人と,第3編の「殺人計画」折原一は,どちらも手紙のやり取りの形をとった独立した短編ミステリーだ.
第1編も大変よくできて,あっと思わせるが,第3編を読み始めると,「え?,最初のと似てるなあ」と,必ず読者は思うはず.
しかし,....
この本も病院の図書コーナーで見つけました.
書名の,「やっぱり」が付いているってことは,付いてない「ミステリーが好き」というアンソロジーがこの前に出ているとのこと.
残念ながら,この書架にはなかった.T_T
著者は,上記の他,坂本光一,新津きよみ,矢島誠の計8人
「金閣寺」三島由紀夫
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/25/fc/bc685915ab7b9016864ef06ee0803331.jpg)
昭和25年に起きた金閣寺(鹿苑寺金閣)放火事件を題材に,鹿苑寺に起居する若き禅の修行僧を主人公とする物語.
彼は将来鹿苑寺の住職になってほしいという母の願いで鹿苑寺に預けられた.
今の住職も,彼の能力を買い,順調に成長すれば跡取りにしてもいいと思っている節があった.
しかし,彼の心情の内面は,大人しい(彼には吃音のコンプレックスがあった)外面とは裏腹に,常軌を逸するものがあった.
善悪を超えた,彼独自の精緻な論理が交錯し,並みの人間が感じる喜怒哀楽とは次元の違う世界を彷徨していた.
その独自の論理の行き着く果てが金閣への放火となる.
文章のもつエネルギーは凄いです.
さすがノーベル文学賞の候補に挙がるだけはある.
しかし...ですよ.
僕が「純文学」系の作品に対していつも感じる不満を,やはりこの小説にも感じる.
川端康成とか,村上春樹の小説にも似た印象を持った.つまらない.
ただし,三島の文章力には圧倒される.
ある結論を導くのにそのプロセスとなる論理展開には目を見張るものがある.
しかし,その結論は何?って思うのです.
たとえプロセスが完璧でも,そんな結論が出てくること自体がおかしいだろ?
と,思うわけです.
香り立つ文章の格調はたしかに高い.
高いけど,その結論?
という印象.
圧倒されるけど,違和感も大きい.
変な例えで恐縮ですが,誰も気が付かない,すばらしいトリックなんだけど,その動機じゃ殺人までしないだろう?という探偵小説を読んだ時の違和感に近いものも感じる.
価値観の違いですかね.
あ,でも純文学でも,芥川龍之介や武者小路実篤は好き.
価値観に共感できる.
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/25/fc/bc685915ab7b9016864ef06ee0803331.jpg)
昭和25年に起きた金閣寺(鹿苑寺金閣)放火事件を題材に,鹿苑寺に起居する若き禅の修行僧を主人公とする物語.
彼は将来鹿苑寺の住職になってほしいという母の願いで鹿苑寺に預けられた.
今の住職も,彼の能力を買い,順調に成長すれば跡取りにしてもいいと思っている節があった.
しかし,彼の心情の内面は,大人しい(彼には吃音のコンプレックスがあった)外面とは裏腹に,常軌を逸するものがあった.
善悪を超えた,彼独自の精緻な論理が交錯し,並みの人間が感じる喜怒哀楽とは次元の違う世界を彷徨していた.
その独自の論理の行き着く果てが金閣への放火となる.
文章のもつエネルギーは凄いです.
さすがノーベル文学賞の候補に挙がるだけはある.
しかし...ですよ.
僕が「純文学」系の作品に対していつも感じる不満を,やはりこの小説にも感じる.
川端康成とか,村上春樹の小説にも似た印象を持った.つまらない.
ただし,三島の文章力には圧倒される.
ある結論を導くのにそのプロセスとなる論理展開には目を見張るものがある.
しかし,その結論は何?って思うのです.
たとえプロセスが完璧でも,そんな結論が出てくること自体がおかしいだろ?
と,思うわけです.
香り立つ文章の格調はたしかに高い.
高いけど,その結論?
という印象.
圧倒されるけど,違和感も大きい.
変な例えで恐縮ですが,誰も気が付かない,すばらしいトリックなんだけど,その動機じゃ殺人までしないだろう?という探偵小説を読んだ時の違和感に近いものも感じる.
価値観の違いですかね.
あ,でも純文学でも,芥川龍之介や武者小路実篤は好き.
価値観に共感できる.
「ロシア紅茶の謎」 有栖川有栖
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3c/cc/5bc9129aafd9986e5337c56e89b0ef75.jpg)
エラリークイーンの国名シリーズを意識した構成に見えるけど,クイーンとは違って,短編集であり,国名が入っているのは6つの短編のうちの一つだけ.
また,エラリークイーンは同名の名探偵が活躍するが,この本では,名探偵は「火村英生」であり,有栖川有栖は彼の友人兼,記録係の役.
この点では,むしろシャーロックホームズのワトソン役が有栖川有栖だ.
とまあ,講釈はさておいて.
いずれも突っ込みどころ満載の不可解な殺人事件が起き,「警察から」捜査を頼まれた火村と有栖川が,首を傾げるしか能のない刑事たちを横目に,快刀乱麻の活躍をするというお話.
トリックはいずれも現実にはかなり無理があり,「偶然うまくいった」みたいな殺人事件なんだけど,ゲームというかパズルとして考えれば,まあ,面白いのではないでしょうか?
私などは,小説に人生観とか哲学を求めがちだけど,たまには,こういう知的ゲームに徹した小説もあっていいと思う.
特に入院中とか,あまり,余計なこと,後ろ向きなことを考えたくないときは,こういう小説の効用は大きいと思います.
6作の中では,第2作目「屋根裏の散歩者」が出色の出来だと思う.
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3c/cc/5bc9129aafd9986e5337c56e89b0ef75.jpg)
エラリークイーンの国名シリーズを意識した構成に見えるけど,クイーンとは違って,短編集であり,国名が入っているのは6つの短編のうちの一つだけ.
また,エラリークイーンは同名の名探偵が活躍するが,この本では,名探偵は「火村英生」であり,有栖川有栖は彼の友人兼,記録係の役.
この点では,むしろシャーロックホームズのワトソン役が有栖川有栖だ.
とまあ,講釈はさておいて.
いずれも突っ込みどころ満載の不可解な殺人事件が起き,「警察から」捜査を頼まれた火村と有栖川が,首を傾げるしか能のない刑事たちを横目に,快刀乱麻の活躍をするというお話.
トリックはいずれも現実にはかなり無理があり,「偶然うまくいった」みたいな殺人事件なんだけど,ゲームというかパズルとして考えれば,まあ,面白いのではないでしょうか?
私などは,小説に人生観とか哲学を求めがちだけど,たまには,こういう知的ゲームに徹した小説もあっていいと思う.
特に入院中とか,あまり,余計なこと,後ろ向きなことを考えたくないときは,こういう小説の効用は大きいと思います.
6作の中では,第2作目「屋根裏の散歩者」が出色の出来だと思う.
「つくられた明日」眉村卓
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/48/e5/8874dee4e958a88e0be4b2119623da7b.jpg)
私の昔の趣味に走って読んだ本ですので,強くお勧めするつもりはありません.
実は中学~高校の間SF小説に凝っていましてね.
ハヤカワのSFマガジンなんてのを読んでいた.
当時,アーサーCクラーク,アイザックアシモフ,ロバートAハインライン,日本では小松左京,筒井康隆,星新一,等を夢中になって読んでいたのです.
眉村卓さんの本は上記のビッグネームのような大向うをうならせる大作はないのですが,ピリッとスパイスの効いた小気味良いSFを書いていらっしゃって,よく読みました.
ただ,この本は今回が初読です.
読みながら,でも,ああ,こういうのを読んでいたなあという感慨をもったしだい.
物語は,中学3年生で新聞部員の永山誠一クンが,未来から来た,悪人のタイムトラベラーを,同じく未来から来た善人のタイムトラベラーと力を合わせてやっつけるというもので,何とも...という内容なのですが,昔を懐かしむ気持ちで楽しく読んでしまいました.
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/48/e5/8874dee4e958a88e0be4b2119623da7b.jpg)
私の昔の趣味に走って読んだ本ですので,強くお勧めするつもりはありません.
実は中学~高校の間SF小説に凝っていましてね.
ハヤカワのSFマガジンなんてのを読んでいた.
当時,アーサーCクラーク,アイザックアシモフ,ロバートAハインライン,日本では小松左京,筒井康隆,星新一,等を夢中になって読んでいたのです.
眉村卓さんの本は上記のビッグネームのような大向うをうならせる大作はないのですが,ピリッとスパイスの効いた小気味良いSFを書いていらっしゃって,よく読みました.
ただ,この本は今回が初読です.
読みながら,でも,ああ,こういうのを読んでいたなあという感慨をもったしだい.
物語は,中学3年生で新聞部員の永山誠一クンが,未来から来た,悪人のタイムトラベラーを,同じく未来から来た善人のタイムトラベラーと力を合わせてやっつけるというもので,何とも...という内容なのですが,昔を懐かしむ気持ちで楽しく読んでしまいました.