書く仕事

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「曼荼羅道」坂東 真砂子

2014年02月20日 11時51分43秒 | 読書
「曼荼羅道」坂東 真砂子




富山の薬売り・蓮太郎は,太平洋戦争中にマレー半島に渡り、薬の仕入れをする傍ら,現地妻サヤと暮らした.
戦争後はサヤを捨てて,帰国したが,しばらくすると,サヤは苦労に苦労を重ね,戸籍まで偽装して日本に渡り,富山の蓮太郎を訪ねる.
サヤの訪問によって,崩壊の危機に直面する蓮太郎の一家.

しかし,その裏には,単なる痴話げんかをはるかに超えた,戦争によって抉り出された人間の業が隠されていた.
蓮太郎とサヤ.そして蓮太郎の孫にあたる麻史とその妻・静佳.
2組の男女の葛藤が、時空を超えて「曼荼羅道」ですれ違い,立体交差しながら,螺旋的に絡み合っていく.

戦争という不条理の世界で,自らの蛮行を戦争のせいにしてしまう愚かな男達.
その男達によって平穏な幸せを奪われ,悲惨な人生を余儀なくされる哀れな女たち.

しかし,男を恨みながらも,恨むことに徹することができない女たち.

戦争によって正常な精神を奪われた男女だけでなく,平和な時代に生まれた男女も,自身の戦争体験はないものの,目に見えない心の病のDNAに苦しめられる.

痛いです.

ただ,頻繁な性描写が,人間の業を描くためにそれほど必要なものなのか,私にはわからない.
少なくとも,あんな極限状態の中で欲情する神経は,私には理解できない.
ま,小説だからな.

しかし,圧倒的な場面描写力には打ちのめされる.

さすが,第15回柴田錬三郎賞受賞作.