書く仕事

ご訪問ありがとう!!ミステリー小説の感想を中心に,読書,日々の雑感,映画の感想等を書き散らかしています.

「バタフライ」平山 瑞穂

2017年06月28日 21時35分33秒 | 読書
「バタフライ」平山 瑞穂




なかなか面白かった。
一見、全く繋がりのない4つの物語から始まる。
義理の父から邪な扱いを受ける女子中学生。
定年を遥かに過ぎ、妻も失い、一人過去の思い出とともに余生を送る老人。
リストラによってホームレス状態になった若者。
工務店を経営しているが不景気で青息吐息の若い社長。
ここまでは、???という感じで一気に進む。
しかし、5人目以後の登場人物は、以前の4人の誰かと繋がりがあり、なるほど、あの人ね、という話になる。
さらに、後から登場した人同士が繋がったりして、気が付くと全部の登場人物が繋がった瞬間は快感である。
基本的には勧善懲悪、ハリウッド映画的で、読後感は悪くない。

「カササギたちの四季」道尾秀介

2017年06月20日 22時48分10秒 | 読書
「カササギたちの四季」道尾秀介




「リサイクルショップ・カササギ」の店員、日暮正夫(ひぐらしまさお)が主人公のミステリー短編集。
店長というか、店のオーナーは華沙々木丈助(かささぎじょうすけ)で、正夫の親友でもある。
この華沙々木が探偵気取りでいろんな事件に首を突っ込んでは、迷推理を企てて周りに迷惑を振りまく。
しかし、正夫はそんな華沙々木に振り回されながらも、結局その迷推理の欠陥を暴かずに、そっとしたまま、事件の解決を図るという至難の技を強いられることになる。それには、この探偵事務所、否、リサイクルショップに入り浸っている近所の女子中学生、菜美の存在が関わる。
ある理由があり、菜美にとって、華沙々木はヒーローでなければならないのだ。

今までの道尾作品とは一風味わいの変わった、ユーモアとペーソスの入り混じった心温まる短編集だ。
もちろん、推理のヒネリは効いているが、他の作品のような複雑な構成は影を潜める。
中高生の夏休みの読書感想文の題材に良いかもしれない。
時を忘れて楽しく読めることは間違いない。

「まともな家の子供はいない」津村記久子

2017年06月10日 21時17分56秒 | 読書
「まともな家の子供はいない」津村記久子


親兄弟との折り合いが悪く、家に居場所がない女子中学生の屈折した日常を綴った小説。
若い頃の私なら、「このひねくれもの!!」と、叱りつけたくなるような独白が延々と続く。
確かに、働かない父親やそれを簡単に許してしまう母親に腹をたてる気持ちも分からなくないが、家族なら、ある程度は仕方ないなあ!と思える部分もあるはず。
しかし、この小説に出てくる女の子達は、潔癖であることが、自分のアイデンティティーであるかのように、心の交流より、正義を優先する。
読者は、心の広さ、寛容さは、他人のためでなく、自分を救うテクニックでもあることを、反面教師として、この小説から学ぶことになる。
さらに言うなら、女子中学生という、この世で最も不安定な生き物の生態を、いやらしいまでに再現して見せた作者の筆力にも脱帽するだろう。

「嗤う闇」乃南アサ

2017年06月04日 19時43分35秒 | 読書
「嗤う闇」乃南アサ



直木賞を取った「凍える牙」と同じヒロイン、音道貴子が活躍するのですが、こちらの小説は4つの物語からなる短編集です。
巡査部長に昇進して、所轄の刑事として隅田川東署に移動した貴子の奮闘記。
場所柄か、発生する事件は殺人や強姦など、目を背けたくなるようなものばかりなので、純粋にエンタテイメント小説として、万人が楽しめるかというとそうではなさそう。こういうハードボイルドなのが好きな人じゃないと楽しめないかな。
ただ、今回は、貴子の恋人の昴一君が折々に顔を出して、貴子の相談相手になり、このシーンが小説全体の「閑話休題」的な一息つく雰囲気を醸し出し、良い感じで陰惨な事件の救いとなっている気がします。
最後の物語が、本の表題ともなっている「嗤う闇」で、やっぱりこれが出色の面白さですね。
連続強姦魔事件なのですが、恋人の昴一君が、事件に巻き込まれる展開になり、ありゃりゃって感じですが、恋の行方にどう災いするかあるいは...
乞うご期待です。