書く仕事

ご訪問ありがとう!!ミステリー小説の感想を中心に,読書,日々の雑感,映画の感想等を書き散らかしています.

「誘拐児」 翔田寛

2016年02月27日 16時12分50秒 | 読書
「誘拐児」 翔田寛



終戦直後のどさくさの中で、子供の身代金目的の誘拐事件が発生。
犯人が指定した受け渡し場所は有楽町駅前の闇市広場。
多くの警察官による厳戒態勢にも拘らず、身代金は奪われ、子供は戻ってこなかった。
事件は迷宮入りし、子供もおそらく殺害されたものと思われた。

その15年後、とある若い女性が被害者となる殺人事件が起きる。
こちらも目撃が少なく、迷宮入りが心配されたが、被害者が15年前の誘拐事件の証拠となる新聞記事を持っていたことが分かり、両者が結びつく。

殺されたものと思われていた誘拐された子供は、実は生きていて、微妙な形で後の殺人事件に関わってくるところがドキドキハラハラさせる。
彼は20歳になっており、幸子(さちこ)という年上の彼女がいるが、この幸子が探偵役となって事件解決の原動力となる。

この幸子さんが、イケてます。
恋人というより、母親のような慈愛で彼を助ける。

中盤から終盤にかけての緊迫感はなかなかのもの。

最後はアクションもあり、エンターテイメント的にもよくできた小説だと思う。

2008年の江戸川乱歩賞受賞作。

「カラマーゾフの妹」高野史緒

2016年02月21日 14時54分21秒 | 読書
「カラマーゾフの妹」高野史緒




パロディでもオマージュでもない。
「続編」です

「カラマーゾフの兄弟」を「前作」と言い切るところがすごい。

作中に再三出てくる「前任者」という言葉。
もちろん、世界の大文豪ドストエフスキーのことだが、高野史緒さんは、
前任者で済ましている。

挑戦的野心作と言えるだけでなく、「前作」での構成上おかしな点や不合理な点にすべて明快な解決を与えている。
よっぽど、「前作」を読み込んでからこの小説を書いたに違いない。

また、ロシアが数学や科学技術に対して貢献した種々の発明が盛り込まれ、帝政ロシアからの近代化を図ろうと苦闘するロシアの動きも見え、近代史の一つの切り口としても興味深い。

いやはや大変な小説を知ってしまった。

これもまた、江戸川乱歩賞受賞作。

私には、直木賞、芥川賞よりずっとヒット率が高い賞です。

「闇に香る嘘」 下村敦志

2016年02月10日 01時04分01秒 | 読書
「闇に香る嘘」 下村敦志



27年間も兄と信じてきた男は、偽物なのか?

戦後満州から母と引き上げてきた村上和久には兄がいたが、満州で引き上げ途中にはぐれてしまう。
兄はそのまま中国残留孤児となり、中国人の手で育てられる。

ようやく日本政府が重い腰を上げて孤児の調査を始めたおかげで、兄は身元が判明し、無事に再会を果たすことになる。

しかし、その兄は、和久の孫娘が腎不全のため、腎移植に適合するか否かを確かめる検査をかたくなに拒否する。
疑惑が疑惑を呼び、日本に渡りたいがために日本人孤児と偽っている別人ではないのか?

そうこうするうちに、老いた母親が不審な死に方をする。果たして事故死か、殺人か?

村上和久は帰国後長年の無理がたたり、失明している。
北海道の極寒の中で、不審さを重ねる兄と、目の見えない不便さと闘いながら、謎を追及していく和久。

隅々まで張り巡らされた伏線。

最後には、意外なというより、とてつもない痛みを伴う真実が明かされる。

中国残留孤児の悲惨な体験描写も胸を打つ。
苦悩と謎が駆け巡る、本当に骨太で素晴らしい小説だ。

「株式会社 タイムカプセル社」 喜多川泰

2016年02月06日 22時30分53秒 | 読書
「株式会社 タイムカプセル社」 喜多川泰




10年後の未来の自分にあてた手紙。

その手紙を預かり、指定された10年後に本人に届けるサービスを提供する会社、それがタイムカプセル社だ。
この小説の主人公は、手紙を届けるタイムカプセル社の新人社員、とはいっても40代後半のバツイチ男の英雄。
手紙を受け取った顧客は一様に、不機嫌な様子でそんなものはいらないと言う。
人生に挫折し、未来への希望が持てない状況の中で、日常の中に自分を埋没させている人ばかり。
しかし、そこを説得し、手紙を読んでもらうのが英雄の仕事。
しかし、ひとたび、自分からの手紙を読むと、かつての瑞々しい自分を思い出し、再度チャレンジしようと奮い立つ。


そんなにうまく行くなら、人生楽なもんだ、と言ってしまえばそれまでだが...
しかし、この小説からは、それでもなお、人生への応援歌としての暖かいメッセージを感じるのも確かだ。

何通かの手紙を届けたのち、最後に、英雄自身にまつわる、サプライズが泣かせる。

人生に希望が見つけられずに悩んでいる、全ての人に読んでも貰いたい小説です。

いや、小説というより、真の哲学書と言ってもいいかもしれない。