書く仕事

ご訪問ありがとう!!ミステリー小説の感想を中心に,読書,日々の雑感,映画の感想等を書き散らかしています.

「レイクサイド」東野圭吾

2014年05月09日 13時25分31秒 | 読書
「レイクサイド」東野圭吾


東野圭吾さんは久しぶりかな?
調べてみたら、去年の5月に「カッコウの卵はだれのもの」を読んで以来だった。
外さないですね。やはり。
面白かった。

今回は物語の設定がちょっと変わっている。
中学のお受験のための合宿が舞台になっていて、登場人物は4組の親子と講師の先生、それに被害者となる一人の女性だけという、ある意味、密室的というか、限定された空間内の出来事になっている。そういう意味では、舞台化に向いた作品かもね。

ある湖畔の別荘に4組の家族と講師が、中学受験勉強の合宿に来ていた。
その合宿に、一人の父親の会社の女子社員が書類を届けるために訪れる。
しかし、書類を届けた後、その女性は謎の死を遂げてしまう。

誰が何のために殺したのか?
実は、早々にある母親が、自分が殺したと名乗り出るのだが、どうも不自然。
で、。。。
という風に話が始まる。

現在のお受験事情とか、学歴偏重社会とかの時代批判も盛り込みつつ、やはり最後は、読者の意表を突く、東野マジックが待ってます。

東野ファンの方はどうぞ!
あ、ファンだったらもう読んでるか。失礼しました。

「プリズム」百田尚樹

2014年05月05日 18時28分50秒 | 読書
「プリズム」百田尚樹


書評をする時、その内容は、過去に読んだその作者の小説の評価が高かったか否かに大きく影響される。
過去に読んだ小説に感動したなら、これから読もうとする小説にも、それと同じかそれ以上の感動を期待してしまう。
百田さんの場合、今までに私が読んだ小説は、、、
「永遠の0」
「モンスター」
「錨を上げよ」
「幸福な生活」
「風の中のマリア」
「影法師」
いずれも深い愛情や、人間の業、並外れた知性等を、綿密な取材をもとに、独自の視点で鋭く切り込んだものであった。
ただし、そこには、読者が主人公等の登場人物に深い共感を覚えることができるという共通点があった。
しかし、このプリズムは...
読んでて感じたことは、ものすごい「違和感」であった。

夫を持ち、32歳になる梅田聡子は、専業主婦の息苦しさから逃れるために家庭教師を始める。
教え子の家には離れがあり、そこにはちょっと変わった青年、広志が住んでいた。
広志は多重人格(解離性同一性障害)を病んでいた。
教え子宅の庭で時々広志と話をすると、複数の人格がランダムに現れる。
紳士的な卓也、明るい純也、乱暴者のタケシなど5人の人格が存在している。
彼(ら)と話をするうちに、聡子は多重人格の一人、卓也に恋をしてしまう。
卓也以外が広志に現れているときは、顔を合わせないようにする聡子だった。
しかし、卓也への想いが募るにつれ、教え子やその家族、広志の主治医との関係も複雑に捻じれてしまうのであったが...

というようなお話であるが。
コメントしづらい。

小説の帯には次のような広告が印刷されている。
「どうしてもこのラストシーンが書きたかった-百田尚樹、いま最も泣かせる作家が放つ衝撃の恋愛サスペンス」

という広告は、はっきり言って詐欺だろう。
嘘というより、全くの的外れである。
ラストシーンは当然予想される内容だし、このラストシーンで泣く人なんているのかな?
それより、卓也にのめりこんでいく聡子がとっても気持ち悪い。

病んでいる広志の方が正常に見え、聡子のほうが病んでいるように感じてしまうことが違和感の原因のようだ。

ただ、この小説の価値は、解離性同一性障害という病気がどのようにして起こり、治癒するかということを、歴史的な経緯や現代精神医学の知識を交えてわかりやすく解説してくれる点にはあるような気がする。
この病気の苦しさもさることながら、この病気にならざるを得なかった患者の環境のつらさには涙と怒りを禁じ得ない。
せっかくこれだけ綿密な調査と取材をしたのなら、もっと別の演出の仕方があっただろうと、百田さんに突っ込みたくなるのは私だけだろうか?

「果つる底なき」池井戸潤

2014年05月02日 19時53分51秒 | 読書
「果つる底なき」池井戸潤



半沢直樹の原作者として大ブレイクし、今シーズンは3本の連続ドラマが放映中の超売れっ子作家、池井戸潤さんの初期の傑作ミステリー。
1998年、第44回江戸川乱歩賞受賞作。

最近の作風は、半沢直樹に代表されるように、部下や下請けなど、弱い立場をいじめる悪い役職者を、知恵と策略でぎゃふんと言わせる痛快サラリーマン小説っていう感じですね。
しかし、この「果つる底なき」はかなり違う。

銀行員が主人公である点は共通しているけど、いじめ、いじめられというドラマ性は弱く、真の黒幕は誰か?という犯人当てのミステリー要素がずっと強い。
また、主人公の銀行マンは度々正体不明の黒幕に雇われた刺客に殺されそうになり、命がけのアクションもあり、ハードボイルド小説としての側面もある。
また、金融のいろいろな仕組みや手形の割引など、一般人にはなじみの薄い経済行為も出てきて、経済の啓蒙的役割もしている。

そういう点で、半沢直樹のように、読んでスカッとする類の小説ではないが、間口の広い小説であり、多面的な要素をもつ「おとな」の小説だと思う。

私的には高評価。