風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

歌舞伎座新開場 こけら落五月大歌舞伎 『三人吉三巴白浪』(5月16日)

2013-05-16 21:44:01 | 歌舞伎



月も朧(おぼろ)に白魚の 篝(かがり)もかすむ春の空

冷てえ風もほろ酔いに 心持ちよくうかうかと

浮かれ烏(がらす)のただ一羽 ねぐらへ帰る川端で
竿の雫か濡れ手で粟(あわ) 思いがけなく手に入(い)る百両

ほんに今夜は節分か 
西の海より川の中 落ちた夜鷹は厄落とし 
豆だくさんに一文の 銭と違って金包み 
こいつあ春から 縁起がいいわえ

(『三人吉三巴白浪』)


今日は『三人吉三』の幕見に行こうと昨夜から決めていたのですが、二度寝してしまい、起きたらなんと10時20分。
大慌てで支度をし、歌舞伎座に到着したのは発売開始から30分も過ぎた11時45分。
それでもなんとか、立ち見を買うことができました。153番だったのでギリギリセーフ。
はぁーーー、よかった。。。
しかしたった30分間の上演のためにせっせと東銀座へ通う自分。我ながら健気だ。。。

さて、幕見席。
4月にも思ったのですが、どうして皆さん下手側に集中されるのでしょう・・・。台の上に乗ってまで・・・。
下手の方が花道に近くていいと勘違いしているのだろうか?下手からだと花道は役者の後ろ姿かせいぜい横顔しか見えないのに・・・。
おかげで私は最後から数人目くらいだったにもかかわらず、悠々と上手の手摺越しのベストポジションをゲットできましたですよ。。


【三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ) ~大川端庚申塚の場】

いやぁ~~~、いいもん観させていただきました!!

案の定、幕見席からはお月様は見えませんでしたが、見えない月を役者の演技で見せてもらう、そんな楽しみがありました。

菊五郎さんのお嬢吉三。
名台詞の「月も朧に~」は、春の夜のどこか気だるい雰囲気のなか唄うように言ってほしいなと私は勝手に思っているわけですが、やはり江戸っ子調なのですね。
しかしそこは菊五郎さん。存分に聞かせてくださいました。
でもこの台詞以外のところの菊五郎さんも、ゆったりとした空気感が出ていて素晴らしかった。
お坊から「(和尚の兄弟分になりたいが)おいお嬢、おめぇはどうだ」と聞かれたときに、「ん?」って微笑むところとか、すごくよかったなぁ。
このお嬢吉三は、弁天小僧よりも退廃的な色気が漂っていて、そこがなんとも魅力的。
背後の垣根越しの紅梅が、お嬢の黒と赤の振袖に美しく映えます。

仁左衛門さんのお坊吉三。
ぼんぼん育ちだけど、有名なチンピラ(笑)
正直言って、これまでに観た仁左さんの役の中で、一番好みなタイプの格好よさかもしれない!
あいかわらず一つ一つの所作が美しく、すっと動いてピタリと止まる動きがとても綺麗。血盃に使った小刀を仕舞う仕草にさえ、目を奪われてしまった。
薄紫の着流しが、背後の白梅とともによく似合う。菊五郎さんが紅梅なら、仁左衛門さんは白梅です。
そしてあくまで強気なお嬢に向かって言う、「貸されぬ金なら借りめえが、なり相応に下から出て、許してくれとなぜ言わねぇ」。
あ、甘・・・! やばすぎ。。。。。
それをじっと聞くお嬢。ここの二人のしっとりとした色気がたまらない。。。。。
あと100回くらいリピート再生したい!

二人とも名を馳せたチンピラですから、ただのチンピラじゃありませんよ。でも、チンピラです(笑)
その辺、お二人とも、自然で余分な力の抜けた、なのに深みもある雰囲気が素晴らしかったです。
春の夜更けにふらりと出会った感じがよく出ていて。
なのにこの短時間の間で、お嬢やお坊という人間のそれまでの人生も後ろに見える。役者、だなあ。。。
また、二人の間でポンポンと飛び交う七五調の台詞の気持ちいいこと。お二人とも声がいいので、聞き惚れます。
もうね、仁左さんもいいけど菊五郎さんもいいので、オペラグラスを右に左に大変でした(基本位置はもちろん仁左さん)。

幸四郎さんの和尚吉三。
うーむ…、やっぱり私はこの方の演技が苦手なのだと改めて痛感してしまいました。。。(ときどき弁慶のラストのような変化球がくるが)
三人吉三のような演目は案外イケるのではないかと少なからず期待していったのですが、私にはこの和尚が、菊五郎さん&仁左さんほどの男達が「兄貴になってほしい」と惚れ込むような男にはどうしても見えず。。。
團十郎さんの和尚吉三にはそういう雰囲気があったなぁ・・・と改めて思ってしまいました。今回の幸四郎さんは團十郎さんの代役なので、あまり色々言うべきでないのは承知しているのですが、この役はどちらかといえば吉右衛門さんの方が合っていたのではなかろうか。

ところで和尚の「そんならこれは預かっておく」のところ、ここはもう笑いポイントということで演出が定着してしまっているのでしょうかね。
和尚も明らかにそういう演技をしてるし(これは團十郎さんも)。観客も大爆笑だし。
あそこはお嬢とお坊の命を和尚が預かったという意味も含まれた重要な美しい場面だと思うのだけれど・・・。決して和尚はお金が欲しいちゃっかり者じゃないのに、なんでちゃっかり者な演出になってしまっているのだろう。
そうしてしまってはこの幕全体がぶち壊しではないの。

と、幸四郎さんの和尚や演出に多少の不満はあれど、三人の見得の美しさは無類でした。
youtubeで見ているとなんだか気恥ずかしくなってしまうのですが(戦隊ヒーロー物の決めシーンそのまんまで///)、実物を観ると感動しますね!
すごいや、カッコよすぎる!
真ん中に立つ幸四郎さんの左右に菊五郎さんと仁左さんが膝をついて片手を上げたままの姿勢でぴったり静止している美しさ。錦絵なんて言葉ではとても足りない。
そして、最後の見得でパッと照明が明るくなり(これは上階席から観るのが断然いい!)、幕引きとともに三人が悠々と上手へ歩き去るところでは、なんだか泣きたくなってしまいました。
歌舞伎って素晴らしいなあ。

これで1500円は全然高くない!
絶対にもう一回幕見行きます。

※5月23日の三人吉三の感想

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