風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

ダニエル・バレンボイム ピアノリサイタル 第一夜 @サントリーホール(6月3日)

2021-06-03 23:58:17 | クラシック音楽




今夜はバレンボイムのピアノリサイタルに行ってきたんです。
直前まで気が気ではなかったけれど、無事来日してくださいました。ムーティと同じく、待期期間3日間とする代わりにバブルの中で過ごす特例のようです。ちなみにホールも、ウィーンフィルやムーティの春祭のときと同じく座席間隔は開いていませんでした(私はもう数回目なので慣れましたが…)。客席には音大生やプロのピアニストらしき方達も多数。

バレンさんのピアノを聴くのは5年ぶり。日本でのリサイタルは16年ぶりだそうです。
上のポスターにあるとおり、第一夜の今夜はベートーヴェンの「最初のソナタ」と題して第1~4番が演奏され、明日(4日)の第二夜は「後期三大ソナタ」と題して第30~32番が演奏される、予定でした。
が。

一曲目の演奏が始まった瞬間、私の頭の中は
「!?!?!?」
状態に。
第1番は悲劇的な短調の音で始まるはず。それが、明るく伸びやかな長調の音が聴こえてきたものだから。
これは明らかに予習してきた1番のソナタではない。2~4番でもない。
私はベートーヴェンのソナタをそれほど聴き慣れていないので、「一体バレンさんは何番のソナタを弾いてるんだろう…」と動揺し。
そのうち覚えのあるメロディで「30番だわ…」と。
バレンさん、もしかして今日を後期ソナタの日と間違えていらっしゃる…
ちなみにこの30番、大変よかったです。よかったのだけど、ワタクシかなり動揺していたので、曲を十分に堪能できる精神状態にはなく・・・。

演奏が終わり、ご満悦そうなバレンさん。
客席から拍手。
一度舞台袖に引っ込まれたときに、さすがに少しざわつく客席(皆さん行儀がいいからワーワー騒ぎはしないけど)。
きっと今頃スタッフがバレンさんに指摘していることだろうと思っていたのに、再び舞台に現れたバレンさんの表情に特に変わった様子はなく。
「ん・・・?もしやスタッフから指摘を受けていらっしゃらない・・・?」と嫌な予感がしたら、案の定、弾き始めたのは31番。
この時点で覚悟を決め、もうこうなったら後期ソナタに気持ちを切り替えよう!と思ったけれど。

ムリ〜〜~~〜😢😢😢

今夜は未来への夢と野望に溢れた若い青年の音楽を聴く心積もりで来たのに、突然何十年も時間が飛んで、死が近い晩年の心境が反映された音楽を聴くことになって、こんなに気持ちを入れ替えるのが難しいとは自分でも意外。通常のゴチャマゼ曲目のプログラムだったら問題なかったのだけど、今回はベートーヴェンの人生を辿るコンセプトのプログラムだったからね…。例えるなら、意気揚々とマーラー1番を聴きに来たら突然9番が演奏された、みたいな。
とてもいい演奏でした。いい演奏だったんだけど、ちょっと気持ちが切り替えきれないですーバレンさん。

(20分間の休憩)

「明日は何を弾くつもりだろうねえ(笑)」と話している、近くの席の年配の男性達。
ほんとにね。この流れで休憩後に32番以外の曲を演奏するとは思えないので、今夜はこのまま後期ソナタでいくのでしょう。
でも、明日もまあ間違いなく予定どおりの後期ソナタだろうな、二日連続で同じプログラムか、と思いながら通路に出ると、ホールのスタッフに問いただしている年配の女性達が。「休憩が終わるまでにアナウンスを流す予定です」と困り顔で答えているスタッフさん。お疲れさまです。。。
そして休憩が終わり、曲目変更のアナウンス。前半の変更には触れず、「後半は第32番を演奏します」と。

バレンさん、休憩時間中に今日予定されていた曲目と違うことを知らされたのではないかな。
休憩後に舞台に出てこられたときのお顔の表情、前半と違い硬かったもの。
そして第32番のソナタ。
まだ完全には後期ソナタモードに気持ちを切り替えきれてはいないものの、アナウンスもあったし、前半よりは落ち着いて聴けたのだけど、今度はバレンさんの方がやや動揺していたような。演奏、少し乱れてましたよね…?二楽章では音が迷子になっておられた。
とはいえ、それはそれとして。
バレンさんの32番、いいなあ
32番の曲自体が傑作ではあるのだけど、バレンさんの32番、私、好きです。
第二楽章はちょっと泣きそうになってしまったよ。
私の大好きなポリーニの32番は痛切な孤高の響きを感じさせるけれど、バレンさんの32番は「この世界の全てを包み込む」、そんな晩年のベートーヴェンの心の音楽に聴こえる。人類愛を感じさせる、大きな温かみ。

演奏が終わって舞台袖に引っ込んだ後で、通訳の方と一緒に戻ってきたバレンさん。
「皆さんが他のプログラムを聴きに今夜いらしていたことが、休憩時にわかりました。本当に申し訳なく思っています」と。
「私は1966年に初めて日本に来たとき以来、日本の聴衆の素晴らしさ、音楽への熱意に心から敬意を抱いてきました」と。ここで客席から笑いが起きていたけど、ここ、笑うところじゃないよね…?ここで笑うのってバレンさんに失礼じゃない?クラシックの音楽会で来日アーティストが英語で挨拶するときによくこういう客席の笑いに出会うのだけど、なんなんだろ。。。
「次回の来日時にはきっと期待されていた曲を演奏します」
客席拍手
お元気な再来日をお待ちしております~~~(リップサービスであろうけれども)。

今回の曲目変更、twitterでバレンボイムの確信犯じゃないかと言っている意地悪な人達がいるけど、バレンさんの表情や後半の演奏の動揺ぶりからすると、確信犯ではないと思うな。違約金も発生しかねないのだし。

最後はスタオベ。私は「突然のハプニング、バレンさんもお疲れさまでした(ご本人が一番衝撃だったと思う)。そしてコロナ禍の日本に来てくださってありがとう」な気持ちを込めて拍手を送りました。まあ演奏が素晴らしくなかったらスタオベしませんでしたが。
明日の第二夜も伺います。落ち着いて聴けなかった今日でもとても好きな演奏だと感じたので、明日は落ち着いて聴けるはずなので、楽しみ。でもバレンさんの前期ソナタも聴きたかったな。。。では明日どっちを聴きたいかと言われると、やはり後期ソナタなのだけども。

そういえばバレンさん、最初も最後も、ピアノの周りをグルリと歩いて周って、360度全ての方向の客席に挨拶してくれてた。こんなピアニストは初めてだ。P席だったので、にっこり笑顔が目の前でした。

※第二夜(6月4日)の感想はこちら


ピアノは準備万端だったかもしれないけどね。。。
ところで今回のリサイタルのために空輸されたこの特注ピアノ(正面に「BARENBOIM」の印字あり。今夜は譜面台は外されていました)、とてもいい音色で、聞き惚れてしまった。
ベルギーのピアノ製作者クリス・マーネ氏がバレンボイムと共同製作したピアノ。一般のピアノの低音弦が他の弦の一部と交差する配置になっているところ、このピアノでは全ての弦が平行に張ってあり、これにより響きの混濁を抑え、透明感を増して各音の特性を明確にする効果があるそうです。
また、バレンボイムの手に合わせ既存のグランドピアノより鍵盤の幅が狭く作られているとのこと。
純度が高く、でも冷たくない音色。
数年前にシフで聴いたベーゼンドルファー280VCの音に少し似ているように感じました。
※素人耳の覚書です









Questions and Answers on the Chris Maene Straight Strung Grand Piano - English subtitles
今回バレンさんが持って来たのは2015年作とのことなので、この動画で言っている二つの愛器のうちの一つなのでしょうね。
ところで3:09~、「バレンさんはデュプレのときもきっとこんな感じで、、、」と思わず想像してしまった。。。下のBBCの動画の1:53~も。。。

The 'radical' Barenboim piano unveiled


What is a Straight Strung Piano?


Daniel Barenboim's bespoke piano is an absolute stunner - here's why
バレンボイム自身による従来のピアノとの弾き比べが聴けます。ニューピアノの方がチェンバロぽく響きますね。

バレンボイム・メーン・スタインウェイ
ダニエル・バレンボイム 16年ぶりのピアノリサイタル 「マーネ・ピアノ」を調律して

この本、面白かったです♪広渡さんとクライバーの交流(広渡さんによるハイティンクとクライバーの親友エピソードも再び😊)、メータ&広渡さん&バレンボイムの三兄弟ぶりも楽しい。バレンさんの性格は、天真爛漫な末っ子属性とのこと。

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