風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

ミハイル・プレトニョフ  ラフマニノフピアノ協奏曲全曲演奏会<第一夜、第二夜> @東京オペラシティ(9月13、21日)

2023-09-28 22:52:55 | クラシック音楽



【第一夜(9月13日)】
ラフマニノフ:

ピアノ協奏曲第1番 嬰へ短調 Op.1
ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 Op.18
10の前奏曲 op. 23より 第4番 ニ長調(アンコール)

【第二夜(9月21日)】
ピアノ協奏曲第3番 ニ短調 Op.30
ピアノ協奏曲第4番 ト短調 Op.40
パガニーニの主題による狂詩曲 Op.43


二夜にわたるプレトニョフのラフマニノフピアノ協奏曲全曲演奏会。

いやぁ、物凄いものを聴いてしまった。。。。。。
今年はヴィルサラーゼのシューマンとこのプレトニョフのラフマニノフを聴けただけで、もう1000%満足です(新シーズン始まったばかりですけど)。

プレトニョフのピアノはスクリャービン、ショパンと聴いてきたけど、ラフマニノフ、よかったなぁ。
演奏は常にクールなイメージのプレトニョフだったけど、今回、とても人間的な体温を感じさせてもらえたような気がする。
低音は決してロシア系の重厚音ではないのに、あの暗み。どういうテクニックなんだ。
緩徐楽章の音が空間に溶ける美しさ。
決して力を入れて弾いていないにもかかわらずの、スケールの大きさ。
自然さ。
軽やかなのに深い深い美。
その指から生み出される異次元の音響空間。
今回も時々鼻歌歌ってた

カワイの音、プレトニョフが惚れ込んでる理由が改めてよくわかる。足すものも引くものもない、とても素直な音色。なのにとてつもなく美しい。
ただ前回のリサイタルよりも響きが「柔らかさ>透徹感」気味に調律されていた気がするのは、ラフマニノフバージョンだったのかな

高関さん&東フィルも、キレよく濃厚で素晴らしかった。
特に第二夜は、弦のこの世ならざる音の美しさにしばしば息をのみました。
プレトニョフも時折ウンウンと笑みを浮かべて頷いて、満足そうだった
高関さんのSNSによると、プレトニョフの自由奔放さに相当振り回されたようで(入念なリハをしても本番では全く違う演奏をしたり)、ピアニストとの間の即興的な対話が目に見えるような演奏でした。なので決してキズのない”完璧”な演奏ではなかったけれど、では”完璧”って何なのかと今回も思う。
でもって、高関さん、謙虚で良い人&良い指揮者だなぁ。
入退場時も後ろからプレトニョフに拍手をされてて、完全にプレトニョフを立てておられました。

プレトニョフは以前海外のインタビューで「指揮者としてピアノ協奏曲を振るとき、ピアニストの意見は尊重しますか?」と質問されて、こんな風に答えていました。

How do you feel as a conductor when you conduct another pianist in a work you normally play yourself? Do you give him full freedom? 

I do. A soloist is a god. He has worked on this music for a year or two, he has prepared his own interpretation. I can help him to understand what he wants to say, what his view is. If I don't like his interpretation, I won't call him again. But while we're on stage together, I will be a part of his world. 
(RIO)

間違いなく今回も、オケの演奏にはプレトニョフの解釈が強く反映されていたのだろうと推測する(高関さんも「リハは指揮者が二人いるようだった」と仰っていた)。
ただyoutubeでプレトニョフのピアノ協奏曲の最近の演奏を色々聴くと、たとえばマケラとの2番などは、オケの演奏が今回とは全然違うのよね。マケラの方がずっと大人しい感じ。そして演奏後のプレトニョフの表情も、今回の高関さんとの方が満足そうに見えた。マケラはまだ若いから、ベテランピアニストに遠慮気味になってしまったのかな。

今回二夜にわたってプレトニョフの演奏で一番~四番、パガ狂と聴いてきて、ラフマニノフの人生をその音で辿ってきたように感じられました。
彼がそのときに見ていた景色、そのときに感じていた感情を、音楽作りの変遷を、ロシアからアメリカまで一緒に辿ったような。
そして「ラフマニノフ」という作曲家とその音楽の本質を、ストレートに強烈に感じさせてもらえたように感じた。ラフマニノフってこういう作曲家だったんだ、と初めて知ったような気がした。
第二夜の休憩時間に廊下で若い男性二人が「いままで聴いてきた三番はなんだったんだろう。ラフマニノフってこうだったんだな、って。ラフマニノフはこういう風景を見ていたんだな、って」と言っていたけど、全くの同感。

先ほども書いたとおり、オケにもピアノにも決してキズがなかったわけではなく(特に3番の前半)。
でも最後には、そんなことは感動には全く関係ない、と感じさせてくれる演奏会だった。
キズがあることはその音楽の美しさや感動を損なうことにはならないのだと。人間もきっと同じ。
音楽は本当に人生の色んなことを教えてくれる。

一夜目のアンコールの前奏曲、プレトニョフはこんなに優しい音を紡ぐ人だったのか、と。。。
そしてパガ狂の18変奏には、トリップ状態で陶酔してしまいました。音楽に酔わされた。

二夜にわたってプレトニョフのラフマニノフを聴きながら、「音楽は私なんかよりずっと大きい」と感じました。
今の悩みとか全てが小さなことに感じられてきて、その瞬間、自分と音楽だけになっていた。別世界にいた。
そう感じさせてくれたプレトニョフに、ただただ感謝の気持ちでいっぱいになりました。

そして、私なんかがこんな演奏を聴かせてもらっていいのだろうか、とも感じた。
私はこの美しさを聴かせてもらうに値する人間だろうか・・・?と。
それは道徳的に正しく生きているか?という意味ではなく、この音楽の美しさに対して恥ずかしくない自分だろうか?ということ。
私はこの美しさに値するような人間でいたい、と強く感じた。
卑屈になんかなっていてはこの音楽の美しさを冒涜することになる、この美しさに感動した自分を冒涜することになる、と。
そんな風に心から感じさせられました。

そしてBCJの古楽器を同じ会場で聴いたばかりだったので、それが今は楽器がこういう音を出すようになって…と、クラシック音楽の歴史にまで思いを馳せたりもしました。

本当に、なんて夜だろう・・・


Verbier Festival 30 Anniversary Gala. 10 pianists play Rachmaninov's Preludes, op.23/ 1-10
👆今年のヴェルビエ音楽祭より。プレトニョフは今回のアンコールと同じ4番で、13:22~。ピアノはスタイウェイ。

Nelson Freire | Rachmaninov: Rhapsody on a theme of Paganini, op.43 - LIVE 2004

👆フレイレのパガ狂もとってもいいので、ぜひ聴いて!

Rachmaninov - pianoconcerto nr 4 (Nelson Freire live London )

👆ラフ4も!





以下は、shigeru kawaiの調律師の山本有宗さんのSNSより。
アルゲリッチ、フレイレの追悼コンサートで弾いてくれたんですね…。



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