風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

コンセルトヘボウ管弦楽団 『マーラー 交響曲第9番』 @Het Concertgebouw(6月10日)

2018-06-22 23:22:16 | クラシック音楽




8日夜に舞台上でハイティンクが転倒した後、10日午後の公演については一切の続報がないまま当日の朝を迎えました。
本日の公演は14:15から。さてそれまでどうしましょう、と特に予定もないのでゆっくり朝食をとり、宿から徒歩2分のmuseumpleinまでお散歩に出かけてみると、、、


午前早い時間のこの広場のなんという清々しさ
いつもの”観光広場”とは別世界ではないですか~
観光客の姿は殆ど見えず、地元の人達がわんこのお散歩にきています



広場の一画にこんな綺麗な花が咲いていたことも、この日初めて気づきました。
人・人・人の市街中心部まで出る気持ちはすっかり消え、旅も終盤で足も疲れ切っていたので、このままここでのんびり過ごすことに
お、ちょうどいいところにベンチが


この眺め~。
コンセルトヘボウとゴッホミュージアムとmuseumpleinを一望する最高席で、青空の下クリスマスマチネのマーラー9番を聴く贅沢といったら 

このうえなく平和で穏やかな6月のアムステルダム。

ああ、幸せだ・・・

でも、


やっぱりこの曲はすこし寂しいね・・・


最後まで聴き終えた頃には、広場の観光客もすっかり増え。
お腹が空いたので国立美術館前のストールでチーズバーガーを購入。tripadvisorでは割と評判のよい店だったのだけれど・・・不味かった 前日に街で食べたニシンの塩漬けパンが最高だっただけに。
それでも完食し、ミュージアムショップで買い残しのお土産を買い、宿に戻ったのは正午頃でした。
そしてタブレットを確認すると、コンセルトヘボウからこんな新着メールが↓↓↓



・・・覚悟はしていたけれど、やっぱりショックでしたよ。
ハイティンクのマーラー9番、もう一度聴きたかった……。しばらく他の指揮者でこの曲は聴きたくなくて今日の公演に行こうかどうか一瞬迷いましたが、メールによると代役を任されたハサンはハイティンクのアシスタント・コンダクターとのこと。その彼の公演に空席があったらきっとハイティンクも悲しむ・・・と、服を着替えて出かけました。

ホールの入口に指揮者変更の貼り紙はなし。
日本だったら絶対に貼り紙をだすよなあ、と思いつつ、席へ。


8日は音響重視で2階の後方サイドでしたが、本日はP席。
ああ、本来だったらこの角度でハイティンクのお姿を拝めるはずだったのに
後ろには、厳しい顔で舞台を見て話しこんでいるオランダ人らしき男性二人。ハイティンクの降板について話してるのだろうか。

やがて客が全員席について、客電が落とされ、奏者が出揃って、コンマスさんも出てきて、音合わせも済んで、鑑賞時の注意のアナウンスが流れても、まだ指揮者変更についてのお知らせはなし。
(・・・いくらなんでもこのまま予定と違う指揮者が突然登場して演奏を始めるなんて暴挙はないわよね
と思っていたら、徐に舞台袖から男性が。
そのコンセルトヘボウのディレクターさん(だったかな?)曰く「名誉指揮者のベルナルト・ハイティンクが金曜の夜に舞台で倒れたこと。目下のところ状態は安定していること。本人は今日の指揮をすることを強く望んでいたが、やはり不可能である旨の報告が今朝本人からあったこと。彼の指揮で二回の素晴らしいコンサートを持てたことを我々は幸せに思うこと。今日代わりに指揮をするKerem Hasan(ケレム・ハサン)はイギリス人で、ハイティンクのアシスタント・コンダクターとしてハイティンクと何度も公演を共にしていること。昨年のネスレ&ザルツブルク音楽祭Young Conductors Awardで優勝した将来有望な指揮者であること」などの紹介がありました。
それからすぐにハサンが階段から登場。
指揮台で客席に礼をして、指揮棒を上げて・・・の間にも、席を立って退場する人がぱらぱらと。私の斜め前の高齢の男性も、話を聞き終わるや否やハサンが今おりてきたばかりの階段を上がって、第一楽章の第一音が鳴るのとほぼ同時に扉を閉めて出て行かれました。「ハイティンクだから聴きに来た」ということなのでしょうし、まあ正直わかります、その気持ち・・・。これは運営側が悪いよねぇ。2時間前には決まっていたのに、こんなにぎりぎりまで指揮者変更のアナウンスをしないんだもの。それもただのコンサートではなく、客にとってもオケにとっても特別な意味を持つコンサートで。

さてハサンの指揮ですが、コンセルトヘボウ大ホールでRCO×マーラー9番をハイティンクの代わりに振るわけですから(しかも最終日)プレッシャーは相当だったでしょうし、リハーサル時間も殆どとれなかったはず。そんな条件下で、よく頑張ったと思います。ぎこちないところはあっても90分の大曲をちゃんとまとめていましたし、笑顔を絶やさない生き生きとした、かつ落ち着いた指揮姿も好印象。マーラー9番にしては笑顔全開過ぎな気もしないではなかったが、まあ若い彼には合っていましたし、オケとコミュニケーションをとろうという気持ちが伝わってきました。今回の状況と26歳という年齢を考えれば十分以上ではないかと思います。
でも前々日に聴いたばかりのハイティンクのものと比べてしまうと・・・、やっぱり難しいなあ・・・。アシスタントコンダクターなので基本はハイティンクの解釈をもとに振っていると思うのだけれど、なんだか今日の演奏は指揮者の「形になるように」と頑張っている意識が所々の演奏に出てしまっていて(状況を考えれば当然ですが)、音楽が自然に歌っているのびのびした感じがなかったように聴こえた。
なので演奏自体に感動したかと言われるとイエスとは言い難いのだけれど、それ以外のところでは印象に残る体験が色々できました。

まずこの公演は今回私が聴いた3つのうち唯一のマチネだったのだけれど、「一流オーケストラの演奏を昼の自然光の中で聴く」という夢がようやく叶った\(^〇^)/ しかも曲はマーラー9番。このホールの一番高い位置のアーチ型の窓って、夜のコンサートでは閉じられているけれど、昼のときは開けるんですよね(もちろんガラス窓ははめ込みですが)。
それでね、この曲の第一楽章を聴きながら窓から射し込む白い光を見ていたら、それが神様の光に見えたんです。とても自然に。まるで教会にいるように感じられた。あれはちょっと忘れ難い体験でした。それにこのオケ、不意にとてつもなく美しい音を出すのだもの。加えてあの音響。

次に印象的だったのが、コンセルトヘボウのオーケストラがハサンに対して非常に真摯で温かで協力的だったこと。
急遽指揮をすることになった無名の26歳の指揮者に対して、世界一流オーケストラの奏者達がこれほど素直にその棒に従い支える演奏をするものなのかと、ちょっと驚きました(当然といえば当然なのですけど、ほら、オーケストラの世界って色々コワい話も聞くから)。コンマスさん(8日も10日もLiviu Prunaruさんという方)の視線はしっかりハサンを追っていて、見下す感じはゼロだった。そこには間違いなく、彼に指揮を託したハイティンクに対する敬愛の念もあるのだろうな、と強く感じました。ハサンはツイートでこんな風に書いています↓




そう、本当にwarmでsupportiveなオーケストラだった(少なくとも私にはそう見えたし、聴こえた)。
それまでゆっくりめだった割に何故か突き進み気味だった第四楽章は「もうちょっと落ち着きましょう」とオケがハサンに対して言っているように聴こえたが、それは私の心の声かも笑。
このコンサートに限っていえば、ハイティンクの代役は他のベテラン指揮者ではなく、26歳のハサンでよかったと思っています。そこから生まれていく新しい何かがあるように思うから。

さて、このオケにとってマーラーという作曲家がいかに重要なものであるかは、ホールに掲げられたその名前の場所からもわかります。このホールは古今の作曲家の名前が金文字で描かれたプレートが客席の周囲をぐるりと囲んでいるのですが、そのうちオケから見た正面ド真ん中(客席の真後ろ中央)にその名のプレートが掲げられているのがマーラーなのです(写真は前回の記事に載せてあります)。そしてマーラー自身もしばしばこのホールの指揮台に立ったそうです。


ちなみに指揮者がおりてくる階段の上に掲げられた作曲家はバッハで、その隣はハイドン。
私は歌舞伎座には過去の役者さん達などの神様がいると思っているのですが、同じことをコンサートホールにも感じています。もちろんそれはこのホールに限ったことではないのだけれど、私達の人生に美しく優しい光を与えてくれる作曲家達の名前に囲まれながら美しい生演奏を聴く体験は、ちょっと圧巻でした。このホールの客席にそういうプレートがあることは知識として知っていましたが、マーラー、ブルックナー、チャイコフスキー、ラヴェル、バッハ、ハイドン、シューベルト、ブラームス、ワーグナー・・・といった名前に囲まれて音楽を聴くことがこれほど心に訴えかけてくるものだとは予想外でした。これもアムステルダムの聴衆にとっては当たり前の日常なのでしょうが。

演奏後はものすごいスタオベ&ブラヴォーの嵐。演奏後即全員スタオベはまあよいです。このホールの慣例なのでしょうし(今回行った3つのコンサート全てでそうだった)、特に今回は急遽の代役を頑張ったハサンに沢山の拍手を送りたいでしょう。でもねえ。この演奏にブラヴォーはどうなのでしょう。。。とちょっぴり複雑な気分で宿に戻ることになったワタクシでございました。。。

これから夜のコンサートが始まる20:15まで、しばし休息。
夜はアルカディ・ヴォロドスのピアノリサイタルです。私が買っていたのはペライアのリサイタルだったのですけどね。感想は追って。

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