風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

バイエルン放送交響楽団 @ミューザ川崎(11月26日)

2016-11-30 23:09:18 | クラシック音楽



「コンサートの最も大切な目的は、聴いてくれるお客様に天国にいるような2時間を体験させること。そのために演奏していることを絶対に忘れてはならない」
(マリス・ヤンソンス @インタビュー)


結局3日連続でヤンソンス×バイエルン放送響を聴いたのですが、本当にこの言葉のとおりの気持ちで演奏してくださっているのだなあということがその音楽からずっと伝わってきて、ずっと温かくて幸福で、、、そういう意味で、本当に天国にいるような3日間でした。

以下、ド素人の備忘録のためだけの感想です。


【ハイドン:交響曲第100番「軍隊」】
あ、この音・・・
フレーズが空気を伝わるうねり?膨らみ?ふわっと広がるというより、もう少し重くうねるような。これは、、、バレンボイム×SKB@サントリーで一瞬感じてとても感動したアレだ!それが今回は初っ端から何度も!アンサンブルの精度の見事さはもちろんですが、私はこの音のうねりの方により惹きつけられました。でもSKBと比べると、音はずっとこちらの楽団の方が明るく柔らかい(でも暗さも出せてしまうところがスゴイ)。
そして楽団全体がまるでヤンソンスの楽器のよう。タクトが魔法の杖みたい。でも全然支配的じゃなくて、息詰まる感じは皆無。今まで聴いたことのある中では、指揮者とオーケストラの間に感じる温かな親密さはこのコンビが断トツ!です。
そんな彼らによる「軍隊」。すんごくよかった・・・
品があって、明るくて、軽やかで。弾むような楽しさがある一方で、適度な厚みと重みとキレがあって。そして何より温かい。
そしてこの演奏の奥行の深さ、豊かさはなんだろう、と思わず考えてしまった。バレエでも歌舞伎でもそうですが、重く壮大でドラマティックな大作より、こういう一見軽やかでシンプルな小品の方が実はパフォーマンスとして難しいのではないかと思う時があります。技術ではどうにもならない何か、その文化圏の人には意識せず自然に身に付いている何か、そうでない人にはどうしても表現できない何かが必要とされる気がする。長年の歴史の上にある軽み、とでも言ったらいいでしょうか。
本当に楽しくて、第一楽章が終わったとき、まだあと三楽章聴けることがとても嬉しかった。

しかしミューザは本当にいいホールですねぇ。全ての音がこもることなく上方でふわっと混じり合う感覚が気持ちいい。上階席に座っていると、それが目の前で感じられる。ヤンソンスさんもミューザの音響がお好きなのだそうですね。今夜のプログラム2曲も「最愛のミューザで是非」と選ばれたのだとか(by チラシ)。


最終楽章で客席を練り歩いたパレードで使われた『WE  JAPAN』のドラム。ドラム、シンバル、トライアングルによるパレードの先頭の方が持っていた飾り物のような楽器は、“シェレンバウム”というのだそうです。R側からは、彼らが舞台袖で待機していたところも見えました^^

この「軍隊」を聴き終わった時点で、「帰宅したら最終日を買い足そう」と決めました(マーラーはもう買ってありました)。


【R.シュトラウス:アルプス交響曲】
実は演奏が始まってすぐに、ちょっと困惑したんです。私にはその音から「夜」を感じられず。。始まりの弱音がちょっと大きめに感じられたんですよね。
次第に盛り上がって、輝かしい日の出になって、登山が開始され。それでも、夜明けや、小川や、滝といった具体的な風景は私には思っていたほどには感じられなかったんです。
「夜」→「日の出」も太陽そのものの描写というより、そうですね、あえて言うなら、これから大好きな山登りだぜ!超楽しみだぜ!な少年のような高揚する気持ちの表れ、といった方が私にはしっくりきました。「日の出」から「登山」への移行にはっきりとしたトーンの違いがなかったのも、よりそういう印象をもった理由かもしれません。
なので哀歌も嵐で急いで下山するところもさほど深刻さや暗さは感じず、山のそういう部分も含めてきっとこの人(登山者)は登山が好きなのだろうな、とそんな風に感じた今夜の演奏でした。
この楽団の清潔感のある音は、この曲にとても合っているように感じられました。清々しいアルプスの風を感じられた。
ところで音楽というのは耳で聴くべきものであることは百も承知ではございますが、貧民席担当の私からあえて言わせてくださいまし。
登山者が頂上に登りきったときにヤンソンスが見せた全開の笑顔
あれを見た瞬間、私、思いっきり笑顔になっちゃいました。山を登っていた少年はアナタでしたか、と。
あと、どこだったか一度サッと勢いよく楽譜をめくった仕草がひどく楽しそうというか鮮やかで、見惚れちゃいました。綺麗な指揮姿。

今回Rサイドの席だったので、Lサイドに置かれたウィンドマシーンやサンダーマシーンのような変な楽器をじっくり見られたのも、すんごい楽しかったです。遠隔操作のオルガンさんも。
サンダーマシーンの雷の音は、あまりに上手くて本物みたいで、つい笑ってしまった。

そして、バンダ
美しかったぁ・・・・・・・・・・・・。本舞台の音もものすごく美しかったから、もうその掛け合いを聴く心地よさといったら・・・・・・・。バイエルンのFBで愛知でのリハーサル映像があがっていましたが、ヤンソンスさんは客席でのバンダの響き方をすごく入念にチェックされていましたね。だからこそのあの美しさなのだなぁ。バンダの演奏って初めて聴きましたが、めちゃくちゃ聴いていて楽しいんですね。帰宅してからご本人(福川さん)のツイッターで知りましたが、たった40秒の舞台裏での演奏のためだけに首席ホルンを始めとするN響のメンバーが参加協力されていたのだとか。なんという贅沢!ヤンソンスさん、ありがとう~。
バイエルンのホルン数人はバンダが終わった後に席に戻られていて、そういう様子を見るのもとても楽しかったです。
パイプオルガンも同様に、舞台のオケの音との奥行感がものすごく楽しかった。これは絶対生演奏で聴きたい曲だなぁ。

細かいことを言えば、今夜のアルペンの演奏については、もうちょっと抑えた音で聴きたいと感じる箇所があったり、もうちょっと全体で一つのストーリーを感じたく思ったり、個人的好みと少々違うところもあるにはあったのですが(あくまでド素人が感じたことを備忘録として書いてるだけなのでスルーしてくださいまし)、でもその濁りのない清々しく誠実で伸びやかな演奏からは、そういうの関係ない何か幸福なものをもらえたのです。
本当に久しぶりにオーケストラの演奏からこういうタイプの幸福感をもらえました。昨年秋のハイティンクさん以来。私は嬉しい!

今夜は、数名の方がフライング拍手。
そうはいっても最後の音を弾き終わって3秒くらいはしっかり間はあったのですが、指揮者がタクトを下ろしていない以上はまぁ、早いですよね。この曲は終わり方が終わり方だから特に(明日のマーラー9番もそうですけど)。楽器は弾き終わってても響きはまだ空間に残っているんですよ~。
ヤンソンスはそれでもタクトを下ろしませんでしたね。そして再び拍手が止んでしばらくしてから、下ろされました。その後は屈託のない笑顔でしたけど。
ただ、あの拍手は無神経な拍手というよりは感動した拍手のように聞こえたので、あまり責める気持ちにもなりませんでした。そしてこのとき以外は今夜の客席のマナーは完璧でした。

翌日はサントリーホールで『マーラー9番』を聴いてきました。感想は後日。

なおミューザの入りは7割くらいだったでしょうか。1階席前方の左右ブロックはほぼ空席。S席は30,000円ですもんね・・・。それでもサントリーよりは安いですが、普通は出せないよね・・・。台湾でのチケットは日本の半額近いんですよね。どうして日本だけがこんなに高いんだろう。インバウンドによる宿泊費の高騰とか為替とか色々理由はあるのだろうとは思いますが、本当にこのままでは日本から文化が消えますよ・・・。



"I was 3 or 4 years old and that is a pencil and a book. The whole thing was my fantasy. I even changed my shirt and trousers [depending on whether it was] a rehearsal, Sunday matinee or evening concert. I went every day to opera house, and that's how I got this idea. I did not only this, but I took two pieces of wood -- one was a violin and one was a bow -- and I pretended I was concertmaster. I would do it every day. This was my game. I did not play football or tennis."
(Pittsburgh Post-Gazette "Man of the hour, Jansons feted with a concert", February 15, 2003)

お父さんを真似て、鉛筆と本で指揮ごっこをする子供のヤンソンスさん(^-^)


※BRSOのフェイスブックより。今回のアジアツアーの日程と規模。



楽しい楽団(^-^)

※BRSO公式チャンネルより。名古屋でのバンダのリハーサル風景。


マエストロに愛される川崎シンフォニーホール
ミューザの素晴らしい点をあげましょう。(中略)3つめは言葉で説明するのは難しいのですが、「精神的なもの」とでもいいましょうか。例えるなら、ある部屋に入ったとき、もしくはある人と初めて出会ったとき、その瞬間とても温かな親近感を覚えたり、自分の気持ちに合う心地よさを感じることがありますよね。それをミューザに感じたのです。人間の内面のエネルギーの相性のよさ、とも言えるでしょう。演奏にも例えられると思います。上質の演奏とは別に、とても心を動かされる演奏、自分を別世界へ連れていってくれるような演奏というものがあります。単にいい演奏と心が動かされる演奏とは違うものです。同じことがホールにも言えて、ミューザは心が動かされるホールなのです。ミューザで演奏される音楽を聴くと、お客様は別世界へと誘われるような感動を味わえるでしょう。その感動は、もちろんステージ上にいる演奏家にも波及していきます。そんなミューザは、私にとって特別なホールなのです。ミューザで指揮する機会を与えていただけることは本当に嬉しく、いつも幸せに思っています。
(2012年11月 マリス・ヤンソンス)

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