風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

バイエルン放送交響楽団 @サントリーホール(11月27日)

2016-12-03 23:39:23 | クラシック音楽




【マーラー:交響曲第9番 ニ長調】
前日のミューザに続き、ヤンソンス×バイエルン放送響のサントリー公演に行ってきました。本日はマチネ。
一番最初に買ったチケットはミューザのみだったのですが、何かと話題に上ることの多い「マーラー9番」って一体どういう曲?と何気なくyoutubeで聴いてみて。
・・・・・これは「絶対に生で聴きたい系の曲」ではないですか。そして「いい指揮者&上手いオケ以外では聴きたくない系の曲」ではないですか。
ヤンソンス×バイエルン放送響がどういうオケかはこの時点ではわからなかったわけですが、少なくとも下手なオケではないことは確実そうでしたので、チケットを追加購入。さすがに迷わず、とはいきませんでしたが (^_^;)。なにせ1曲のみであのお値段(P席なので一万強ではありますが)。
で、実際に行って。

はぁ・・・・・・・・・・・・・・行ってよかった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

pricelessな公演だった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

今回ヤンソンスは「特別なものを演奏したい」とマーラー9番を選んだとのこと。曰く、「この作品は何かトランス状態に陥る、深く重要なもの」で、先月ミュンヘンで演奏し「バイエルン放送響となら高い結果を出す自信があった」と。
前日のプログラムと比べるとオケも指揮者も最初から緊張感といいますか空気が全く違っていて。やっぱりこの曲って演奏者にとって特別な何かがあるのだなぁ、と実感しました。
第一楽章。解釈なのか他の理由によるのか、不穏な色の少ないその演奏はこの楽章に持っていたイメージと違っていて最初は少し戸惑ったのですが、段々演奏に引き込まれてそういうことを頭で考えることができなくなって。考える必要がないように思われて。二楽章、三楽章と進むと、息をするのも忘れるほどオケの熱にのまれていました。
二楽章、三楽章のような曲想は、ヤンソンスさんは本当に魅力的に聴かせてくれますねぇ。特に三楽章のラストの聴かせ方!決して美しさと均衡を失わないのに突き抜けていて熱もあるって、すごい。大抵はどれかが犠牲になったりするものだけど。三楽章を終えたときのオケの人達、高揚した良い顔をされていました!
ただどの楽章だったか、ヤンソンスが片手で胸を押さえるようにされていた時があって、昨年心筋梗塞になった父を思い出して少しドキッとしました。帰宅してから知りましたが、体の調子がよくない部分って心臓だったんですね。無意識に気にされてるところもあるのかもしれませんが(父も倒れてからよくそういう仕草をするようになった)、どうかお大事になさっていただきたいです。

そして、最終楽章。
ヤンソンスは精神を集中させようとしていたのか、或いは客席の雑音が完全に静まるのを待っていたのか、長い時間タクトを上げませんでした。頭を下げ左右の手を組んだ姿が、まるで何かに祈りを捧げているように見えました。大仰に聞こえるかもしれませんが、それくらい神聖な空気だったんです。これまでの三つの楽章では、始める前に必ずオケにニコッと懐こく笑いかけていたヤンソンスですが、このときはそれもなく。
この楽章の独特な空気って、仮名手本の四段目みたいだなぁと感じました。ビビりな私などは、見ているだけで緊張してしまう。目の前にマイクいくつもぶら下がってるし・・・。「いやいやヤンソンスさんは、こんなもんじゃない世界の舞台で振ってこられた方。こんな程度のプレッシャーなんて屁でもないはず」と何故か自分に言い切かせてリラックスさせるワタクシ。これほどの空気になってしまうと却って良い演奏ができなくなってしまうのではないかしら・・・なんて心配までしてしまったのですが(本当にビビリ)。

第一音を聴いた瞬間、この人達は私などとは全然次元が違うのだわ、と思い知りましたです。
なんという音でしょう。美しいとかそういう言葉では表せません。魂の音、といえば近いかもしれない。
この最終楽章を聴いて、この日のマーラー9番は、作曲家の心を演奏したというよりは、作曲家も含めた生きとし生ける者全てにヤンソンスが贈ってくれた慈愛の歌なのではないかと感じました。
この世に生まれ、やがて死んでいく、私達全てのために。そこにはもちろんご自身も含まれていて。
バイエルン放送響がフェイスブックでこの作品について「Lovesong to life and mortality」「Hymn to the end of all things」という表現を使っていましたが、まさにそのとおりの音であり、演奏でありました。
以前「死ぬときはマーラーの9番を聴きたい」と書かれている方がいて、でも私はこの曲は死をリアルに感じすぎるから死ぬときに聴くのは嫌だなぁと思っていたのだけれど。今日のマーラー9番なら、死ぬときに聴きたい。きっと怖くなく、温かく優しい気持ちでこの世にバイバイできる気がする。聴きながらそんな風に感じました。本当に、なんという演奏でしょう・・・。

ヤンソンスはこの4楽章でも、そしてこれまでのどの楽章でも、微笑を浮かべて指揮をされていました。振っているヤンソンスも、オケの人達も、とても幸せそうだった。
ヤンソンスさん、バイエルン放送響の皆さん、そして驚異的な集中力であの空間を作ってくださった客席の皆さん、本当にありがとう。最終楽章ラストで静かに4音からなる旋律が同じリズムで繰り返され、それが一番最後に下降で終わり。そして、その後の長い長い静寂。そこにあったものは脆く儚い一人一人の人間存在すべてを包み込んでくれるこの世界の、宇宙の安定であり、平穏であり、安らぎでした。

――というわけで私にとっては、そして会場にいた殆どの人にとっては(そしておそらくオケにとっても)名演であったろう演奏でありましたが。私の前のカップルは第一楽章から最終楽章までほぼずっと眠りの国の住人になっておられまして(ーー;)。二人とも体がどんどん傾いていって、途中からは遠目で見てもわかるであろうほどの思いっきり「爆睡してます」状態で(ーー;)。寝ること自体は構わないんです、イビキさえかかなければ。感性は人それぞれだし。でもね・・・、ここ、P席なのよー。客席といっても舞台上。P席を買った以上は眠るのは我慢しろー、我慢できないならもうちょっと寝相を気にしろー、と言いたい。P席のそういうのって意外と正面席からも気になるし、指揮者にそんな余裕はないでしょうけど、一部奏者の方の視線が痛かった・・・(ただこっちを向いていただけかもしれないが気になった・・・)。

話は戻って、ヤンソンスさん。二楽章の前だったか三楽章の前だったか、額の汗をハンカチで拭いていたら脇の髪がピコンッと寝癖のように立っちゃって。「あ、マエストロ、お髪が・・・」と思ったけど団員は特に指摘せず(そりゃそうだ)、そのままニコッと笑って演奏開始。・・・可愛すぎます、マエストロ・・・。指揮の間に自然に戻ってましたけど(よく動かれるから)。

翌日もヤンソンス×バイエルンの来日ツアー最終日に行ってきました。感想は後日。
結局首都圏公演をコンプリートしてしまった。
でもいいの。星野道夫さんが言っていたもの。「短い一生で心魅かれることに多くは出合わない。もし見つけたら大切に」って

なお本日は満席でした。今回のバイエルン来日公演の首都圏3公演のうち、この日のみが完売でした。


BRSO twitterより。こちらこそ、あなたへの感謝の気持ちでいっぱいですマエストロ!
It was a "historical concert for our orchestra," says concertmaster Florian Sonnleitner. (PNP)
オケもそう思ってくださって、嬉しい

※この日の終楽章冒頭の動画がBRSOの公式チャンネルで公開されていました。映像かCD、販売してくれないかなぁ・・・。続きが聴きたい・・・・・。死ぬときに聴きたい曲がまた増えてしまった。


※11月29日のヤンソンスのインタビュー(ドイツ語からのgoogle翻訳)。
Tokyo | 29.11.2016 | 18:57 clock
Symphonies like a "I love you": Mariss Jansons in an interview

Every evening almost sold out, every evening overwhelming ovations - or tears of emotion. As an excellent cultural ambassador of the Free State in the world, the Bavarian Radio Symphony Orchestra is still on tour in Asia until 5 December. After five concerts in Japan, the musicians and their chief conductor Mariss Jansons traveled to Taiwan. During the interview on the 19th floor of the Palace Hotel high above the Imperial Palace of Tokyo, we tried to track down the emotional mystery of the 73-year-old chief conductor.

Mr. Jansons, you and your orchestra have made people cry in Tokyo with Mahler's Ninth. You, too, have been taken very seriously. Can you feel death in this piece?
Mariss Jansons:Absolute! You can imagine the music in such a way that a person lies in bed and knows that his death is coming soon. He does not know when, but he comes. And then he remembers almost his entire life: moments that made him happy, moments that were difficult and tragic for him. It's a retrospective to the end. I feel that death comes sooner than the end of the fourth sentence. The cellos play their last notes, then I take a big break, and then the strings play this incredible music, where you can really cry. For me, this music is no longer on earth, there Mahler's soul is already in heaven - and we feel his spirit and his genius that remain for us on earth.

Their orchestra musicians say they feel a very strong emotional bond to you when you conduct and read a lot in your face. Can you describe what happens there?
Jansons: I do not know what I do with my face. All I know is that when I conduct, I not only direct notes and notes and dynamics and ensemble sound. I'm trying to show what kind of atmosphere there is, what's going on, what the composer wants to express - or what I want to express.

How do you convey this emotion to the orchestra?
Jansons: It does not matter if you conduct a little longer or continue, or communicate with your hands or with your eyes. But the conductor has to feel the charisma and character of the music, it has to come, you understand? Instinctively! And if it does not come instinctively, it means that he has no connection to this music. If you tell someone, "I love you," then you can not say it neutral, it demands something different from human beings. It's absolutely the same in music!

Passsauer Neue Presse "Jansons in Japan", November 29, 2016)

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