風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

マリア・ジョアン・ピリス ピアノリサイタル @サントリーホール(4月17日)

2018-05-01 19:58:16 | クラシック音楽




モーツァルト:ピアノ・ソナタ第12番 ヘ長調 K.332
モーツァルト:ピアノ・ソナタ第13番 変ロ長調 K.333
シューベルト:4つの即興曲 Op.142 D.935
シューベルト:3つのピアノ曲 D.946より第2曲 変ホ長調(アンコール)

12に続いて、ピリスのリサイタルに行ってきました。

衒いのない素直な音のモーツァルトと、演奏家自身の主張を感じさせない無垢な音のシューベルト。
どちらも、それぞれの作曲家の演奏としてとても私の好みな演奏でした。

シューベルトの即興曲D935を聴くのは光子さんに続いて2回目。思いのほか速い速度で弾かれ始めたそれにすこし驚きつつ、ピリスの個性はシューベルトという作曲家と非常に合っているように聴こえ、ベートーヴェンと同じく、この曲を作曲したときのシューベルトがそこで弾いているような錯覚を覚えたのでした。いつまでも聴いていたかった。

アンコールで演奏されたD946-2は、先日のベートーヴェンと同じく、ピリスはきっとこの曲がとても好きなのではないかしら、と感じました。その演奏は、「色々あるけれど頑張りなさい」とピリスが言ってくれているようで、そしてきっと彼女自身も色々あったけれどこういう曲の存在に励まされて今日までピアニストという職業を続けてこられたのではないかな、と感じるような演奏でした。
12日のアンコールの選曲と同じく、即興曲D935よりも後に作曲されたシューベルトの最晩年の作品。この曲は以前にシフのアンコールでも聴いていますが、ピリスの方が優しく情熱的に歌いますね。
シューベルトもピリスも、最後までこの世界の美しさと優しさを私達に教えてくれるのだな、と思いました。
ピアニストという職業の人達は、いい演奏をするだけでなく、この世界にあるこういう美しいものの存在を教えてくれる人達でもあるのだなあ。
そして生きていればこういう新たな美しいものに出会う機会があるのだな、と駅への帰り道に思いました。生きてさえいれば。
ピアノを演奏しているピリスは、73年の人生を生きてきた大人の女性であり、同時に、私よりずっと年若い少女のようにも見えました。アンコールの後、涙を拭うような仕草をし、長い長いお辞儀で感謝を示してくれたピリス(感謝をしているのは私達の方!)。コンサートピアニストとしてはこれで引退だけれど、これからもきっと様々な形で音楽の、そして世界の美しさを私達に伝え続けてくれることでしょう。

ピリスのSNSにヤマハの練習室前で撮影されたレオンスカヤとのツーショット写真がアップされていましたね
日本でピアノを習う殆どの人達にとって、ピアノの音といえばヤマハの音なのではないでしょうか。
そんな私にとって最も親しみのある音で、それぞれの素晴らしいシューベルトを聴かせてくれたお二人に心から感謝。
 
ピリスの演奏は、21日のブロムシュテット×N響の協奏曲@NHKホールにも行ってきました。感想は追って。
 

Maria João Pires plays Schubert - Drei Klavierstücke - D.946

アンコールで演奏された第二曲は14:45~27:10。

以前の来日時のインタビュー

こちらの雑誌のインタビューで、ピリスがステージ活動から引退する理由について語っています(スペイン語を英語にgoogle翻訳して読みました。ネットに上がっているのは全文ではなく抜粋)。彼女の手はとても小さく、歳をとるに従いピアノという楽器との違和感が増してきている、と。今後は自分にとってより快適なフォルテピアノの勉強もしたいし、録音もしたいと。音楽はコンサートホールで演奏されるためにあるものではなく、より精神的なものであり、聴衆や場所の種類ももっと無限であり得るはず、と。また全てが勝ち負けで判断され、作曲家や音楽に対するリスペクトや謙虚さが失われている最近の音楽業界や教育現場に対しても思うところがあるようです。引退に際してネガティブな気分は一切なく、非常に喜ばしく感じている、とのこと。

Looking back, what How do you see your relationship with the piano throughout all these years?

Look, I have to tell you, the piano itself is probably the main reason I'm retiring. I've never really had a good relationship with him. I mean, there are multiple factors, of course: I need more time to myself and I want to live without having to play concerts, but the piano itself, the instrument, has never suited me. 
I have hands that are too small for their dimensions.  Of course I am not going to start studying violin, cello or clarinet right now, but I am going to start playing in a different way: to play for myself... and to play the fortepiano. Perhaps, as I said before, make some recordings with it, with which my hands can enjoy more. I am going to study him, I am going to study his technique and I am going to try to find a way to feel more comfortable in front of him than I have felt all these years at the piano, feelings that have worsened with age. Of course there is another great reason that leads me to retire: ...

Pianist Maria João Pires, A Conversation with Bruce Duffie
1991年のピリスのインタビュー。モーツァルトを好んで弾く理由として、自身の手の小ささと体重の軽さをあげています。この時点では「(鍵盤の幅は狭いけれど)フォルテピアノを弾きたいと思ったことはない」と仰っていますね。

YAMAHA インタビュー
同じくステージ活動を引退した理由について語っています。(インタビューされた方のこちらの記事も興味深い内容です)。
なお今回のツアーで使用したピアノについては、こんな風に仰っています。へぇ~。
 日本のファンにとって、ピリスさんの生の音に触れられる最後の機会となるかもしれない今回のツアー、彼女は滞在の最初に試弾したヤマハのCFXを気に入り、全公演でこのピアノを弾いた。
「私がピアノに求めることは、自分の音を生み出せること、音を通してすべてを伝えられることです。今回のピアノは、今まで弾いたCFXの中で一番すばらしいものでした。あたたかさと柔らかさがあり、同時にオープンで、軽すぎず重すぎないアクションもすばらしい。すべてを持ち合わせていたので、ピアノを信じ、自信をもって演奏できました。実は、1台のピアノで全ツアー日程をまわったのは今回が初めて。コンチェルトでもリサイタルでも、同じピアノが完璧に機能したので本当に驚きました。音楽を創る以前にピアノと戦わなくてはいけないときは、本当に辛いものです。その意味で、今回のツアーは楽な気分で本番に臨むことができました」

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