風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

東京春祭プッチーニ・シリーズ《トスカ》 @東京文化会館(4月16日)

2023-04-21 00:15:47 | クラシック音楽




春祭の『マイスタージンガー』があまりに素晴らしかったので、急遽翌週の『トスカ』にも行ってしまいました。
マイスタージンガーのヤノフスキ&N響に続き、

シャスラン&読響ぶらぼ~~~~~~~

やはりオペラって生で聴くと音楽の迫力や美しさが全然違いますね。
トスカの音楽がこんなに美しかったとは。
読響の音にはN響のような艶はないし、マイスタージンガーのときのような「完璧…!天才…!」という感覚はなかったものの、盛り上げるべきところは思いきり劇的に盛り上げて、ppはしっかり美しいppで、大変よかったです。
フレデリック・シャスラン(新国立劇場で時々指揮されているそうですね)はリハーサルで「来日直前まで指揮していたスカラ座のオケより素晴らしい!」と読響を絶賛したそうですが、お世辞ではないだろうと頷ける演奏でした。

歌手陣も、大満足。
クラッシミラ・ストヤノヴァのトスカ。
素晴らしかったです。声質もザ・トスカでしたし、何よりこの人のトスカだとストーリーに説得力が感じられた。
予習の映像で観た他の方のトスカでは、最後の牢でカヴァラドッシに死んだ演技を勧める場面や、その後の銃殺場面で、「スカルピアの死体が見つけられたら一巻の終わりなのに、なぜこんなに呑気で楽観的なのだろう・・・」と主人公二人がバカっぽく感じられてしまったのだけど、今日のトスカは知的そうだったのでそういう風には全く感じさせず、しっかり悲劇のストーリーになっていました。

「なぜこの二人はこんなに呑気で楽観的なのだろう・・・」と感じさせなかったのは、イヴァン・マグリ(ピエロ・プレッティの代役)のカヴァラドッシによるところも大きかったと思う。
代役のせいもありマグリだけが譜面台を使用していて、声もしっかり出ているとは言い難かったけれど、それでも後半の歌は胸に迫ったし、役作りがプレイボーイ的ではなく、いよいよ処刑という時に眼鏡を外す演技も効果的でした。

そしてスカルピア役のブリン・ターフェル
さすが、頭抜けて凄かった。
演技は本当に嫌な奴だし、いやらしさも人を平気で殺せる冷酷さもばっちり出ていて、でも下品ではなく、The スカルピア。
歌声ももちろん最高で、ffのオケと合唱の中でも彼の声が美しいままはっきりと聴こえてくるってすごい・・・・・。一幕ラストの迫力といったら!!

今回は演奏会形式なのでスカルピアもカヴァラドッシも客席に背を向けて立つことで死んだことを表していたのだけど、その動きの流れがどちらも全く違和感がなくて、素晴らしかったです。結構難しいと思うんですよね、ああいうの。
一方、ラストのトスカは身を投げた後も正面をじっと見つめたままで、そのストヤノヴァの表情に強く心動かされました。
この夜明けの処刑場面は、読響の音色も、ブルーの照明もとても美しかった。

一幕の合唱団の子供達も、演奏会形式だけどちゃんとわちゃわちゃ演技していてよかったです

この作品に関して、トスカは敬虔なキリスト教徒なのになぜ大罪とされている自殺を選んだのか?という議論があるそうだけど、そこは私は特に疑問には感じませんでした。
第一幕でスカルピアに騙されてアッタヴァンティ夫人への嫉妬に燃える場面でスカルピアから「教会の中ですよ」と諭されたとき、トスカは「神はお赦しくださいます。私の涙を見てらしたもの!」と答えている。
ラストで「スカルピア、神の御前で!」で叫んで自殺していくときの彼女も、同じ気持ちだったのではないかしら。殺人も自殺も、自分には他に選択肢がなかったことを神は見ていてくださるはずだ。スカルピアがした所業も。だからあとは神のご判断に任せよう、ということなのだと思う。

カヴァラドッシの解放と引き換えにスカルピアから関係を迫られたトスカが、絶望の中で歌うアリア『歌に生き、愛に生き』(ストヤノヴァは指揮台の端に腰かけてポールに縋るようにして歌っていたのが印象的でした)。
「これほどあなたに祈りを捧げて生きてきたのに、主よ、なぜこのような報いをお与えになるのですか?」と彼女は歌う。
ここ、遠藤周作の『沈黙』を思い出しました。次々と拷問を受けて殉教していく敬虔な信者達を見ておられるはずなのに、なぜあなたは沈黙しておられるのか?なぜ救ってはくださらないのか?と神父ロドリゴは絶望の中で神に問いかける。
最終的に彼が出した答えは、「神は沈黙していたのではなく、常に自分とともに苦しんでいたのだ」というもの。そして彼は踏み絵を踏む。
たとえ教会から裏切り者とみなされようと、神はこれからも自分と共にいてくださると信じて。
トスカに話を戻します。トスカはロドリゴと異なり、「なぜ?」と神に問いかけはしても、神の存在まで疑うことはしていない。
これほど敬虔なキリスト教徒である彼女が無神論者であるカラヴァドッシをあれほど深く愛することができるというのは、彼女の中で葛藤はないのだろうか(ちなみに政治思想も正反対。トスカは王政支持でカラヴァドッシは反王政)。愛してしまったものはしょうがない、神はわかってくださる、ということかしら。それとも神を信じるのも男性を愛するのも自分側の問題だから、相手がどうであるかは大きな問題じゃないという感じかしら。
南部バプティストでは「キリスト教を信仰しない=人間じゃない」ぐらいの勢いだったけども。

ムーティは、「私はカトリックの教育を受けましたが…祈りのカードの金髪のイエスは信じていません」と言っていたな。
キリスト教も色々ですね。

春祭ライブラリー「血生臭い《トスカ》のドラマを動かす あまりにも隔たった恋人同士の考え方」


指揮:フレデリック・シャスラン
トスカ(ソプラノ):クラッシミラ・ストヤノヴァ
カヴァラドッシ(テノール):イヴァン・マグリ※
スカルピア(バス・バリトン):ブリン・ターフェル
アンジェロッティ(バリトン):甲斐栄次郎
堂守(バス・バリトン):志村文彦
スポレッタ(テノール):工藤翔陽
シャルローネ(バリトン):駒田敏章
看守(バス):小田川哲也
羊飼い:東京少年少女合唱隊メンバー
管弦楽:読売日本交響楽団
合唱:東京オペラシンガーズ
児童合唱:東京少年少女合唱隊
合唱指揮:仲田淳也
児童合唱指揮:長谷川久恵








演奏会前は久しぶりに上野動物園へ。激しいお天気雨のなか、レイレイとシャオシャオが追いかけっこしていました。観覧は40分待ち。


終演後はパンダ橋を渡って、夕食へ。


久しぶりの上野藪そば。5分待ちくらいで入れました。
春の山菜蕎麦。
相変わらず美味しいけれど、初めて食べた頃から比べるとだいぶお値段が上がったなぁ。

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