風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

東京春祭《ニュルンベルクのマイスタージンガー》 @東京文化会館(4月9日)

2023-04-11 01:49:59 | クラシック音楽




素晴らしかった。。。。。。。。。
なによりも、

ヤノフスキ&N響ぶらぼ~~~~~~~

1.5倍再生のような速度に結構面食らったけど(いくらなんでも速すぎと思う)、N響うまいな〜!!
どのシーンもあんなに速いのに、よくあれだけ濃密で表現豊かな音が出せるものだ。まるでヨーロッパのオケのよう。
良い演奏って時間の感覚が消えますよね。数時間が永遠のような一瞬のような、そんな感覚になる。
ヤノフスキさんってもっとドライな音楽を作る指揮者のイメージがあったけれど、こんなに濃密でスケールの大きい熱い演奏を聴けるとは嬉しい驚きでした。指揮姿も熱かった。84歳なんですね。30分間の休憩が2回入るとはいえ、5時間20分の長丁場をずっと立って指揮されていました。
あの速さなのに、音に忙しなさを一切感じさせないN響の技術も驚異的。
ヴァルターが資格試験で歌う曲、あんなに美しい曲だったとは。N響の演奏から森が見えて、鳥の声が聞こえて、風を感じた。
夜の音色もちゃんと出てたし、ヨハネ祭の前夜祭(笑)の大乱闘の場面も、決して美しいだけの音ではない、興奮と混乱が最高潮に達する街のしっちゃかめっちゃか具合がすごくよかったです。その後の、静けさを取り戻した街の透明な空気も素晴らしかった(照明効果も美しかった)。
コンマスはお久しぶりのキュッヒルさん
キュッヒルさんのときのN響の自由で官能的で突き抜けた音が大好きです

歌手陣も皆さんレベルが高く、満足。
ザックス役のエギルス・シリンスはホフマン物語で観たばかりだけれど、今回は初役だったとのことで、あの時の安定感に比べると、楽譜にかじりつき気味で余裕はイマヒトツ。でも相変わらず良い声で、声質がザックスという役にとても合っているように感じられました。
最後のクライマックスの演説場面で楽譜の歌っている箇所がわからなくなってしまったようで微妙な間があいてしまったけれど、楽譜からできるだけ視線を上げて客席に向かって演技しようと頑張ってくださっていたからだと思う。

エファ役のヨハンニ・フォン・オオストラムも、この役にピッタリ。夜の靴屋でのザックスとの絡み場面は、二人の空気にドキドキしました。この話って、エファ&ヴァルターよりもエファ&ザックスの関係の方がずっと感情の機微が繊細に描かれていますよね。不自然なほど。と思って調べたら、ワーグナーは自身の恋愛体験を二人に重ねて描いていたんですね。

ベックメッサー役のアドリアン・エレート。完全に役が板についていて、評判どおり最高でございました。今日の出演者達の中で唯一暗譜で全身で演技してくれていた。
正直ワーグナー唯一の喜劇であるこの作品って、喜劇場面は冗長であることを否めないように思うのだけれど、エレートのベックメッサ―はそれらの場面をことごとく時間の長さを忘れさせる上質の喜劇にしてくれていました。下品になっていないところも素晴らしかった。ずっと見ていたいと感じさせるベックメッサーでした。ブラボー

その他、デイヴィッド・バット・フィリップ(ヴァルター)、アンドレアス・バウアー・カナバス(ポークナー)、ダニエル・ベーレ(ダフィト)、カトリン・ヴンドザム(マグダレーネ)、日本人歌手陣のマイスタージンガー達も、皆さん高水準でした。
カナバスは夜警役も兼ねていたけれど、そちらの方はあまり合っていなかったような。優しく温かい声の夜警だった

東京オペラシンガーズの合唱もよかったです。騒乱具合の表現もお見事でした。
合唱指揮のエベルハルト・フリードリッヒはバイロイト祝祭合唱団の合唱指揮をされている方だそうで、音楽コーチのトーマス・ラウスマンもメトロポリタン歌劇場の音楽部門の監督とのこと。なんという贅沢でしょう。

ところで最後のザックスによる愛国的な演説場面ですが、予習のときはさほど違和感を覚えなかったけれど、実際に観るとやはり唐突な印象を受けますね。いきなりどうしたザックス!?的な。
1867年1月31日付でルートヴィヒ2世に宛てたコジマの手紙によれば、ワーグナーは第3幕第5場の「ザックスの最終演説」を取りやめ、ヴァルターの詩で締めくくることを考えていたが、コジマはワーグナーと丸一日議論してこれを翻意させたと報告している。(wikipedia) 
ワーグナー自身もこの演説の場違いさを認識していたということかな。
私はこの作品を今回初めて観たけれど、最近の殆どの舞台演出では、この演説やベックメッサーの描写について「現代の価値観に合わせた」改変が行われるのが通常だそうで。
今回は演奏会形式なのでそれは行われていなかったけれど、正直なところ、改変しなければならない必要性が私には感じられず…。ワーグナー自身のユダヤ人への差別意識や、この作品がナチスの宣伝に大いに利用されたという歴史的事実を忘れて純粋に作品だけを観た場合、ザックスの演説も「いきなり愛国演説!?」とその唐突さには面食らいはするけれど、内容は「ドイツ芸術を外敵から守れ!ドイツ芸術よ永遠なれ!」と言っているだけのことで、至極真っ当な演説よね…。ベックメッサーにしても、『ヴェニスの商人』のように露骨にユダヤ人として差別されているわけではないし(ヨーロッパ人が観るとユダヤ人への揶揄がわかりやすいのかもですが)。
でもこの程度さえも改変しなければならないほど、ドイツにおけるユダヤ人の歴史というのは大きな大きな傷を残し、今もデリケートな問題であり続けているのだな、と改めて感じました。
なんて書くと、他人事のように言うな!日本人だって同じだ!と言われてしまうかもしれないけれども…。

第1幕 15:00~16:20 [約80分] 
―休憩 30分― 
第2幕 16:50~17:50 [約60分] 
―休憩 30分― 
第3幕 18:20~20:10 [約110分]
終演 20:20





今回の演奏はかなりの大音量で聴こえたのですが、私も「東京文化会館って良いホールだ」と感じました。特にオペラを聴くと、とてもいい。ムーティのお気に入りのホールであることも頷ける気がする。


ラトヴィア大使館からシリンスへの応援メッセージ。シリンスはラトヴィア出身なんですね。

Die Meistersinger von Nürnberg - Suitner - Tokyo 1987
今回の予習はこちらの動画のお世話になりました。

【録画・日本語字幕付】『ニュルンベルクのマイスタージンガー』特別鼎談 ゲスト:大野和士、ハイコ・ヘンチェル、舩木篤也
こちらの大野さんの解説、大変参考になりました。


指揮:マレク・ヤノフスキ
ハンス・ザックス(バス・バリトン):エギルス・シリンス
ファイト・ポークナー(バス):アンドレアス・バウアー・カナバス
クンツ・フォーゲルゲザング(テノール):木下紀章
コンラート・ナハティガル(バリトン):小林啓倫
ジクストゥス・ベックメッサー(バリトン):アドリアン・エレート
フリッツ・コートナー(バス・バリトン):ヨーゼフ・ワーグナー
バルタザール・ツォルン(テノール):大槻孝志
ウルリヒ・アイスリンガー(テノール):下村将太
アウグスティン・モーザー(テノール):髙梨英次郎
ヘルマン・オルテル(バス・バリトン):山田大智
ハンス・シュヴァルツ(バス):金子慧一
ハンス・フォルツ(バス・バリトン):後藤春馬
ヴァルター・フォン・シュトルツィング(テノール):デイヴィッド・バット・フィリップ
ダフィト(テノール):ダニエル・ベーレ
エファ(ソプラノ):ヨハンニ・フォン・オオストラム
マグダレーネ(メゾ・ソプラノ):カトリン・ヴンドザム
夜警(バス):アンドレアス・バウアー・カナバス
管弦楽:NHK交響楽団(ゲストコンサートマスター:ライナー・キュッヒル)
合唱:東京オペラシンガーズ
合唱指揮:エベルハルト・フリードリヒ、西口彰浩
音楽コーチ:トーマス・ラウスマン

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