風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

マウリツィオ・ポリーニ ピアノ・リサイタル @サントリーホール(10月21日)

2018-10-26 22:04:23 | クラシック音楽




ムローヴァのヴァイオリン・リサイタルの後は六本木へ移動し、ポリーニのピアノ・リサイタルへ。
この公演はもともと11日に予定されていたものが、ポリーニの腕の疲労が回復しないためこの日に延期になったもの。ここ最近の彼のスケジュールを見ましたが、半分近くがキャンセルあるいは延期になっているのですね。来日直前に予定されていた北京公演もキャンセルされている。腕の調子が相当よくないのかな…。

私がポリーニを聴くのは、今回が初めてです。最安席でも14000円(S席27000円)という超高額チケットだったけれど、ツィメルマンや光子さんのように実演を聴いて初めて魅力がわかったピアニストも多いため、やっぱり生の音で聴いておかなければ、と行ってきました。しかしツィメルマンや光子さんの倍近い値段にもかかわらずあれだけ席が埋まるのだから、すごい人気だよねぇ。

サントリーホールに着いたらスタッフが「曲目変更があります!」と案内していて、ショパンのソナタ3番がノクターンop.27、マズルカop.56 、子守歌op.57に変更になったとのこと。18日(本来のベートーヴェンプログラムの日)も同様の変更があったので、残念ではありましたが、これはまあ想定内でした。

今回の日程変更&特にベートーヴェンについての曲目変更にはネット上で厳しい意見が多くみられましたが、76歳のピアニストに対して皆さん厳しいなぁ…。ピアニスト自身が今の自分の状態を鑑みて最もいいと思って選んだ曲目ならば、それが聴衆にとっても最もいい曲目だと私は思うのだけれど…。意に沿わない曲を無理に弾いてくださっても良い演奏会になるとは思えませんし、今回は梶本もちゃんと払い戻しに対応していましたし。コンセルトヘボウ(楽団ではなくホールの方)なんて、リサイタルのピアニストが変更になって、しれっと金額も安くなってるのに、「幸いなことに代役を○○が引き受けてくれました!皆さん喜んで!」な一文が届いただけで、払い戻しや差額返金についての案内ゼロだったんですよ。ヒドスギル。こちらから問い合わせたら直ぐに対応してくれましたが。

ショパン: 2つのノクターン op.27
ショパン: 2つのノクターン op.55
ショパン: 3つのマズルカ op.56
ショパン: 子守歌 op.57

(休憩25分)
ドビュッシー: 前奏曲集 第1巻(全12曲)
ドビュッシー: 前奏曲集 第2巻から 花火(アンコール)

前半はショパン
ポリーニはピリスと同じく演奏前にもP席にも頭を下げてくれるんですね(※29日追記:光子さんも下げてくれてた。ピアニストってみんなこうだったっけ?)
ポリーニが弾き始めてすぐに「あ、いいピアノだ」と感じました。上から目線な意味ではなく、「好きなピアノだ」と。難易度を下げた変更後の曲目でも技術面だけをみれば完璧とはいえない演奏だったかもしれないけれど(でも噂から想像していたよりは遥かに技術も維持されていた)、それでは完璧ってなんなのだ?といつも思うことを今夜も思う。どんな演奏会も自分の胸に響く何かがあるか否かが全てで、そしてこの夜のポリーニのショパンは、私はとても好きでした。
硬質で透徹な音の特徴はツィメルマンに似てるのかなと一瞬思ったのだけれど、ポリーニの方が軽やかというか華やかな音に感じられました。ポーランド人とイタリア人の違いだろうか、とか思ったり笑。
今夜は一つ一つの音をとても丁寧に弾いていて、それは慈しむようにといってもいいくらいで。もしかしたらこれは彼の従来のショパンの弾き方とは違うのかもしれないな、と思いつつ、でも音楽の流れも起伏もとても鮮やかで。そうして生み出される音のなんという美しさ。そしてその裏に感じられる確かな温かみ。
今まで聴いたことがない種類の、惹きつけられる音でした。そして音色のコントロールが鮮やかで素晴らしかった。一つ一つの音の表情がとにかく豊かで、かつ自然。この音色の多彩さは録音ではわからなかったものでした。世の中にこんな音でピアノを弾く人いたのか・・・。

またこれは個人的な事情ですが、ポーランド旅行の前と後とではショパンの音楽から受けるものの強さが全く違い、そのことにも驚きました。音楽からあの国の空気ごとリアルに伝わってくるというか。
ポリーニの演奏を聴きながら、ショパンは今も生きているんだな、と感じました。あの国で生まれて、沢山の音楽を作曲して、そして最後は心臓があの教会に帰って。でもこのピアニストの中で、東京のサントリーホールで、世界中で、今も生き続けているんだな、と。
いい演奏だったなあ。。。
なお18日と両日聴いた人の話では、今日のショパンの方がポリーニの調子はよかったとのこと。

(休憩は25分間と、少し長め)

後半は、ドビュッシー
ポリーニのドビュッシー、すごくいいですね!この人の音の個性にとてもよく合ってる。ポリーニが弾くとこの曲の魅力が引き立って、この曲を弾くとポリーニの魅力が引き立つ、そんな組み合わせに感じました。なんて表現豊かでドラマティックな演奏だろう。よく完璧主義といわれるポリーニだけど、完璧主義って突き抜け感のない演奏になるイメージがあるけれど、この人のピアノはスケールの大きい風景も見せてくれるのだなあ。ツィメさんにもそういうところがありますが。
「アナカプリの丘」の華やかさ。「雪の上の足あと」の胸をつかれる澄んだ孤独感。「亜麻色の髪の乙女」の甘やかな優しさ。「沈める寺」の幻想的なスケール感(ポリーニって低音もすごくいいんですね)。実に実に素晴らしかった。硬質なクリスタルのようなのに、決して冷淡にならないポリーニの音。好きだなあ

アンコールは、前奏曲集第2巻より『花火』。
カーテンコールで舞台袖に退場する度に厳しい表情で右手首を押さえていたので大丈夫だろうか…と心配したのだけれど、本当は無理してほしくはないけれど、この曲で「これぞポリーニ!!」とファンの方達が湧きたった理由がわかります。ポリーニの従来の演奏を知らない私が、これぞポリーニ!!と感じたくらいだもの。
ショパンからアンコールのドビュッシーまで、ポリーニがこんな聴く喜びをくれる演奏を聴かせるピアニストだったとはなあ。生で聴かないとわからないものって本当にありますね。

twitter情報で知りましたが、客席にはツィメさんや吉右衛門さんご夫妻もいらしていたのだとか。お二人ともお忙しいでしょうに、よくこの振替公演の日にご予定が空いていましたねぇ。ツィメさんは真っ先に立ち上がって拍手をされていたそうで。ていうかツィメルマンって本当に普通に東京にいるんですね。先月のロンドン響公演からずっとこっちに滞在されてるのかな。吉右衛門さんはクラシックがお好きなんですよね。バレンボイム×SKBのブルックナーツィクルスのときもコメントを寄せていらしたものなあ。先月の歌舞伎座の俊寛の感想、早く書かなきゃ…

そしてポリーニが現在76歳であることを思うと、ペライアやフレイレの演奏を私はあと何回聴けるのかな…と考えてしまうのでした…。ペライア、その後続報がないので心配です…。公式ページのスケジュールも空白になっているし…。

そうそう、ピアノはポリーニ特別仕様のものだそうで(ポリーニの調律師アンジェロ・ファブリーニ氏が監修したピアノで、側面に「Fabbrini」と金色のサインが入ったスタインウェイ)、そのマークの部分をお客さんがみんな写真に撮っていました。アクション部分だけでなく、外側も持ち運んでいるということだろうか。だとするとツィメさんの上を行くこだわりぶりですね。




ポリーニ専用ピアノ。2016年来日時の梶本ニュースより。
「いつもアンドラーシュ・シフの専属調律師として来日するロッコ・チケッラさんも、ファブリーニ社の同僚です」とのこと(同ニュースより)

※追記


おお、バレンボイムも「Fabbrini」のサイン入りのスタインウェイを弾いている。このサイン入りのスタインウェイ=ポリーニ専用というわけではないんですね。

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