風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

漱石 『硝子戸の中』 初版本復刻版

2015-02-09 23:22:34 | 

私の罪は、――もしそれを罪と云い得るならば、――すこぶる明るいところからばかり写されていただろう。そこに或人は一種の不快を感ずるかも知れない。しかし私自身は今その不快の上に跨がって、一般の人類をひろく見渡しながら微笑しているのである。今までつまらない事を書いた自分をも、同じ眼で見渡して、あたかもそれが他人であったかの感を抱きつつ、やはり微笑しているのである。
 まだ鶯が庭で時々鳴く。春風が折々思い出したように九花蘭の葉を揺(うご)かしに来る。猫がどこかで痛く噛まれた米噛を日に曝して、あたたかそうに眠っている。先刻まで庭で護謨風船を揚げて騒いでいた小供達は、みんな連れ立って活動写真へ行ってしまった。家も心もひっそりとしたうちに、私は硝子戸を開け放って、静かな春の光に包まれながら、恍惚(うっとり)とこの稿を書き終るのである。そうした後で、私はちょっと肱を曲げて、この縁側に一眠り眠るつもりである。

(夏目漱石 『硝子戸の中』)

とどきました~。
これで欲しい漱石復刻版はほぼ全て揃いました
あと『道草』と『明暗』が揃えば完璧だけれど、とりあえずは十分満足♪
今回のこの復刻版揃えに費やした合計額は五千円くらいでしたが、今日ぴあから公演キャンセルの連絡があったスコティッシュバレエ団のチケット代が返ってくるので、トータルでは計画外の出費は抑えられたということで(^_^)




『こころ』とこの『硝子戸の中』の2冊は、漱石自らによる装幀なのです。
いい色!



内側はこんな感じ。



旧字体、総ルビです。
このルビについても、初出・初版・全集の違いについて色々漱石研究がなされているらしいですね。

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