風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

東京交響楽団『歌劇エレクトラ』 @サントリーホール(5月14日)

2023-05-16 12:28:00 | クラシック音楽




昨年のノット&東響の『サロメ』が非常に素晴らしかったので、迷わずチケットを買った今回の『エレクトラ』
今回も素晴らしい公演でした。
日本での全曲演奏は18年ぶりとのこと(ただ来年も読響が全曲演奏するようです)。

ノット&東響は官能性やしっとりとした情感はサロメのときと同様イマヒトツではあったけれど、「The殺人!!!」みたいな劇的な音はほんっっっと上手いですねえ
前半はクライマックスの連続みたいな途切れない大音量の演奏が少々平坦に感じられて意識が落ちかけたけれど(これはシュトラウスの音楽のせいもある気がする…)、後半のオレストの登場あたりからグッと前のめりで聴いてしまいました。
クリテムネストラが殺害される場面の断末魔の音、最高でした。ノットブラヴォー!と心の中で喝采してしまった。
エギストの殺害場面も、その緊迫感と言ったら。
そして、ラスト。
最初からあれだけ(良くも悪くも)クライマックスの連続なような演奏が続いてきて、それでもなおよくぞあの最後の&最大のクライマックスを築けたものだなあ。ブラボー!

エレクトラ役のクリスティーン・ガーキー
第一声からその迫力を見せつけられました。あんなに声量があるのに、発声にまったく無理がなく耳障りに感じない。先日のターフェルもそうだったけど、こういう声を聴いているだけでも感動してしまう(ターフェルといえば、英国の戴冠式で歌っていらっしゃいましたね)。
ガーキーは歌だけでなく演技も素晴らしくて。
復讐を成し遂げた後の「あれは私の中から生まれる音楽」というエレクトラの言葉は、今日の彼女の演技とオケの演奏を聴いて、初めて感覚として理解できたように感じました。その響きには狂気や不穏さや悲しみのようなものはなく(良い意味で)、エレクトラの晴れ晴れとした恍惚感をいっぱいに感じた。彼女はもうあちらの世界に半分行ってしまっている。
最後に再び姿を現したクリソテミスは、姉の様子が少しおかしいことに気付く。そして、エレクトラが踊る勝利の踊り。ここのガーキーも物凄い迫力だった…!
それはもちろん普通の人間の心理状態ではないし、観客としてはそこに物悲しさも感じるのだけれど、それ以上に、自分が一つのドラマティックな事件の完結を目の当たりにしているカタルシスのようなものを感じました。
またガーキーのエレクトラには妹や弟への親愛の情のような温かみも感じられて、それも今日のラストをより感動的にしていたように感じました。

クリソテミス役のシネイド・キャンベル=ウォレスもこの役にピッタリで、声もガーキーに負けていない。
この役って影が薄くなりがちな役だと思うのだけれど、ウォレスはクリソテミスの芯の強さも感じられて、とてもよかったです。

クリテムネストラ役のハンナ・シュヴァルツ
ネット情報によると往年の名歌手とのことですが、その情報を知らなくても、舞台に登場してその第一声を聴いただけで、その深みのある声と雰囲気のある佇まいに目と耳を奪われました。クリテムネストラという女性がただの悪役ではなく、その人生の複雑な奥行きも感じられた。
そのシュヴァルツさん、なんと今年80歳になられるそうで…!
すごい・・・・・。ひたすら感服です・・・・・。
なお、死の叫びは二期会合唱団の小林紗季子さんが担当されたとのこと。確かにシュヴァルツとは少し声質が異なるように感じられたので、納得。

エギスト役のフランク・ファン・アーケン
こちらも役にピッタリで、出番は少なかったのにその歌唱と細やかな演伎が印象に残りました。
毎度、海外勢の演技力には本当に感心する。
登場場面でコケそうになるところ、本当にそうなのかと思って「あ…っ」と思わず手を差し出しそうになってしまった。
下手扉から再び登場されての殺害場面も、渾身の演技と歌唱を目の前で堪能させていただきました

オレスト役のジェームス・アトキンソンも、優しく温かみのある、でも頼りがいもありそうな声と雰囲気が、この役にピッタリ。
帰宅してから知ったのですが、エレクトラとオレストの姉弟の関係は近親相姦的なものなのですね(ギリシャ神話あるある)。
オレストの復讐譚については、こちら様のブログの記事などが大変参考になりました。
このオペラの前日譚として、長女イーピゲネイアを生贄にしちゃうなんてアガメムノンをクリテムネストラが憎むのは当然じゃね?と思っていたけれど、イーピゲネイアはアガメムノンの娘ではなく前夫タンタロスとの間の娘なのだそうで。アガメムノンはタンタロスを殺してクリテムネストラを自分の妻にした、と。クリテムネストラは前夫タンタロスを愛しており、彼だけでなく彼との間の娘までも殺したアガメムノンを憎んでいた。結果として、アガメムノンとの間の子供であるエレクトラとオレストも愛することができない。
ほ~。奥が深い、、、いや浅いのかな

演出家は、昨年の『サロメ』と同じサー・トーマス・アレン
舞台の端から端までを存分に使い、単なる演奏会形式以上の演技を堪能できる彼の演出、大好きです。ラストの暗転は今回も非常に効果的でした。真っ暗な中でのブラボーと拍手の嵐も感動的だった。また来年も彼の演出だと嬉しいな。

カテコは皆さんニコニコ笑顔
ガーキーとウォレス、何度目かのカーテンコールで自分達は出ないでノットだけを行かせて、舞台袖からノットへずっと拍手を送ってくれていた
袖にはける前には、皆さんP席にも至近距離でニッコリ手を振ってくださいました。ありがと〜。
とはいえP席、オペラでは初めて座ったけれど(4000円と格安だったので)、わかってはいたけれどやはり人の声を聴くには向いていないですね。次回はまた正面席をとりたいと思います。LAとRAは、サー・トーマス・アレンの演出では端での演技が見切れるのでナシだな。


指揮=ジョナサン・ノット
演出監修=サー・トーマス・アレン
管弦楽=東京交響楽団
合唱=二期会合唱団

エレクトラ=クリスティーン・ガーキー(ソプラノ)
クリソテミス=シネイド・キャンベル=ウォレス(ソプラノ)
クリテムネストラ=ハンナ・シュヴァルツ(メゾソプラノ)
エギスト=フランク・ファン・アーケン(テノール)
オレスト=ジェームス・アトキンソン(バリトン)
オレストの養育者=山下浩司
若い召使=伊藤達人
老いた召使=鹿野由之
監視の女=増田のり子
第1の侍女=金子美香
第2の侍女=谷口睦美
第3の侍女=池田香織
第4の侍女/ クリテムネストラの裾持ちの女=髙橋絵理
第5の侍女/ クリテムネストラの側仕えの女=田崎尚美





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