風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

没後50年 谷崎潤一郎展 ―絢爛たる物語世界― @神奈川近代文学館

2015-06-10 00:05:23 | 美術展、文学展etc



最終日の24日にようやく行くことができました。
この文学館の特別展は毎回中身が濃くて、今回も満足度200%でございました。

しかし文学展(というのか?)は見るのに時間がかかるので疲れますー。。
草稿の訂正箇所などはもとより、手紙もただの手紙じゃなく作品に密接に結びついた内容だったりするので、それを一つ一つ読んでいるとほんっとーーーーっに時間がかかる
幸い?ワタクシは草書が読めませんので、早々に解読を諦めた書簡もたくさんありましたケド。

会場入口で『痴人の愛』のナオミのモデルとなったせい子さん(谷崎の最初の妻千代の妹)が横浜の街を歩きながら谷崎について話している映像が流れていたのは、おおっと思いました。よく撮ってあったなぁ。
※谷崎自身の映像は今回展示されていなかったので残っていないのかと思っていたら、NHKアーカイブスで見ることができました。

谷崎がライカのカメラで松子(三番目の妻)、恵美子(松子の前夫との間の娘)、重子(松子の妹)、信子(松子の妹)の四人を平安神宮の桜と一緒に写した写真もアルバムの一頁として展示されていて、『細雪』の花見の場面そのままでした。
となると貞之助のモデルは谷崎となるわけですけど、位置関係だけですよね。性格は違う、と思う。
他にも、中絶手術後の松子が夜中に泣いたり(幸子は流産ですが@細雪)、恵美子(悦子@細雪)がお箸に何度も熱湯をかけて消毒するくだりが書かれた谷崎の書簡などもありました。

当時の新聞も色々展示されていて、震災後に神戸に引っ越しただけで記事になったり、大谷崎は違いますねぇ。
とはいえ細君譲渡事件のような一作家の私生活にすぎない出来事などは、今だったら「新聞」には載りませんよね。太宰の心中事件レベルならともかく。昔の新聞って今よりも週刊誌的というか、ユルい感じだったのかしら。

細君譲渡事件のときの離婚挨拶状。一体世の中の常識ってなんだろ?という気分になりました^^;
「我ら三人、この度合議をもって千代は潤一郎と離別し春夫と結婚することになりました。今後ともよろしく。谷崎潤一郎、千代、佐藤春夫」(一部意訳) この手紙をもらってしまった人はオメデトウと言うべきか、残念だったねと言うべきか、反応に困ったことであろう。

千萬子さん(松子の連れ子清治の嫁)。幾度も「あなたの沓(くつ)で踏まれたいという手紙を送ってくる義理の父親と笑顔で同じ写真に納まれる強さ、凄いです^^; 大谷崎の親類はそれくらいじゃないと務まらないのですね。。

1931年に発行された『吉野葛』の限定版の装幀が素敵でした。本物の葛の葉を薄紙にすき込んであるのです。欲しい~。
谷崎潤一郎は電子書籍じゃなく絶対に紙で読むべき作家だと私は思います。

余談ですが、源氏物語の現代語訳の中では、私は谷崎源氏が一番好きでございます。

更に余談ですが、片岡秀太郎さんが舞台『春琴』を観に行かれた際のブログにこんなことを書かれていました
「休憩無しの1時間50分でしたが、演出面ではドラマに乗ってきたところで水を注されたりしました。私は子どもの頃谷崎潤一郎先生には何度もお会いしているのですが、今回舞台に登場した谷崎先生とはキャラクター的にも品格的にも随分かけ離れたものでした。勿論「お芝居」の事であり、私がお目にかかっていたのは晩年の先生でしたが…、品格、男の色気をかねそなえた、とても素敵なお方でした。」

谷崎潤一郎が亡くなったのは1965年で、私が生まれる11年ほど前。漱石と時代が被っているので私などはつい歴史上の人物のように思ってしまうのだけれど、実はさほど昔の作家ではないのですよね。
ちなみにワタクシ、この舞台は観に行っておりません。興味があって公式HPを覗いたところ、こんな紹介文が載っていたからです。「日本では、日本近代文学の中では夏目漱石のほうが文豪として位置づけられ、お札の顔にまでなっている。が、日本以外の国ではほとんど話題にされていない。谷崎のほうが西洋の読者達に受け入れられ、共感されている(Dr. Stephen Dodd)」。・・・だから?西洋の読者に受け入れられる作家がイコール良い作家だとでも言うのか。これって漱石だけじゃなく、谷崎のことも理解していない言葉だと思うが、いかがか。こんな褒められ方をされても谷崎は全く嬉しくないであろう。
前述の秀太郎さんのブログ記事は、次のように続きます。
「それと出演の老優さんが七回忌(しちかいき)を「ななかいき」 と云っていたのは、こう言う作品だけにとても残念でした。最近は「七代目」が「ななだいめ」であったりします。ちなみに「一段落(いちだんらく)」を「ひとだんらく」と言うアナウンサーがいたりすると悲しくなります。言葉は時代によって変化していくのは是非もないことですが、守るべきところは守って欲しいと思います。…、これって「老いの繰りこと」なのでしょうか …。」
日本語の格調の高さに拘りをもった谷崎ですから、その作品を舞台化するのならこういう部分は大事にしていただきたいと私も思うのです。

次回の神奈川近代文学館の企画展は中勘助ですよ~。7月20日まで開催中。



今回の図録。
王朝風の表紙がステキ

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