風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

七月大歌舞伎 夜の部 @歌舞伎座(7月13日)

2014-07-17 15:48:25 | 歌舞伎




一階席か幕見か、ぎりぎりまで迷いました。金欠なのです・・・・・・。

が、

椿姫と同じく、今これ↑を一階で観なかったら一生後悔する!!と言える自信が100%あったので、行ってまいりました一階席。

結果、一階で観て本当に本当によかった。。。。。。。。。。

※一階六列目中央花道寄り


【悪太郎】

右近さん(悪太郎)は、本当に酔っぱらっているようには見えなかった・・かナ(^_^;) 猿弥さん(修行者)との絡みは可愛かったです。
登場時の亀鶴さん(伯父)が目の前すぎて、一人ドギマギしてしまった。


【修禅寺物語】

やっぱり澤瀉屋系の舞台の空気は苦手かも・・と改めて思ったりもしたのだけれど、それはそれとして、笑三郎さん(桂)も、春猿さん(楓)も、月乃助さん(頼家)も、寿猿さん(僧)もお役にぴったりで、中車さん(夜叉王)も発声は今ヒトツながら、桂が傷を負って戻ってきた以降は意外とよかった。
しかし夜叉王って、難しそうな役ですね。芸術至上主義な職人気質を強調しすぎると単なる非情な人間になっちゃうし、人の情を強調しすぎると話のテーマが破綻しちゃうし。キャラの矛盾なくそれらを両立させなきゃいけないのですから、難しいだろうなぁ。
その点、今日の中車さんはちゃんと両立されていました。
「幾たび打ち直しても~」の長台詞はオーバーさがギャグにならないギリギリのところで踏みとどまっていましたし(よかったよ!)、「断末魔の面を写しておきたい」のところも初日は笑いが起きてしまっていたようですが、今日は数人がちょっと笑っただけでした。今日のような演技だったら、問題があるのはむしろ客の方だと思う。

またこの演目は、舞台セットが美しいですねぇ。秋の草花に埋もれるように建つ夜叉王の家、月明りに浮かぶ桂川。綺麗。。。


【天守物語】

この演目を観るのは、2009年に続いて2回目(シネマ歌舞伎を入れると3回目)。私が初めて観た玉三郎さんの舞台で、初めて観た海老蔵の舞台でもあります。
はっきり申し上げて、大っっっ好きな作品なのです。鏡花の原作の中でも、外科室かこれかというほど好き。
で、今回の舞台ですが。
もう――

 完 璧 


パーフェクト。
前回も十分に満足したけれど、それ以上の素晴らしさだった。

玉三郎さんの富姫は、言わずもがな。玉さまのためにあるようなお役でございますから。
十代の少女のようにも、何百年も生きている妖のようにも見えるこの奇跡。なにより玉さまは鏡花の男前な台詞がもっっっのすごく似合うのよ(>_<)!かっぱらった案山子の蓑(でもちゃんと返してあげるの)を肩にかけて、「似合ったかい?」。お姉(あねえ)様
そんな富姫が図書之助に出会い、本当の恋を知る。

「千歳百歳にただ一度、たった一度の恋だのに」

「前世も後世も要らないが、せめてこうして居とうござんす」

これ・・・!鏡花の何が好きって、こういう関係がたまらなく好きなの!!!
妖怪も人間も、過去も未来も、世間も常識もすべて消えて、生身の体さえなくなって、広い宇宙の中に二つの魂だけが存在しているような、限りなく純粋な。

二人の間のそんな空気が今回一層強く感じられたのは、海老蔵の図書之助が前回(2009年)より遥かに良くなっているから。
美しさ&純粋さ&真っ直ぐさだけでなく、図書之助という人間の大きさ、清廉な心の奥行が感じられるから、富姫が彼に魅かれる理由がよくわかる。彼が富姫に魅かれる理由がわかる。
そして私の大好きな台詞。

「姫川図書之助と申します」

さ、爽やか~~~~~ 私、海老蔵が言うこの台詞が好きで好きで好きで。仁左さまの「ごきげんさ~ん♪」(@吉田屋)とともに目覚まし時計にしたいくらい。
しかし64歳の玉さまと36歳の海老蔵が、「これは歌舞伎である」フィルターを全く必要とせず当り前に恋人同士に見えるとは、玉さまって一体。。。。。

右近(尾上ね)の亀姫。
合うだろうとは思っていたけど、予想以上。おっとりした妖怪ぽさ、年若い可愛らしさに加えて、堂々とした“姫系”な雰囲気もちゃんとあり。御付きの舌長姥&朱の盤坊が若い姫様を大事そうに見守っている様子が微笑ましい(*^_^*)
富姫との妖しく無邪気な戯れもとてもよかったよ。

富姫や薄のクールビューティー姫路城勢と、亀姫に従うお笑い担当な舌長姥&朱の盤坊の猪苗代勢の構図は、最高すぎる。
吉弥さん(薄)と門之助さん(舌長姥)は前回から極上パーフェクトだったけれど、今回は猿弥さんの朱の盤坊も適度にエロくて磊落で、いい味出されてました。昔話に出てきそうな妖怪。猿弥さんは修理よりこの役の方がいいな。ぼろぼん♪

中車さんの修理と右近さん(市川ね)の九平も、文句なし。

それと、獅子!見事な動きでございました。見惚れました。

そして忘れちゃならないのが、我當さんの桃六。
最後に一人で全部を収束させちゃう桃六に申し分のない存在感。安心感のある温かさがいい。
とはいえこのマイク効果はどうなんだろー・・と前回も思ったのだけれど、やっぱりこの作品に限ってはこれでいいように思います。
ところで我當さん、さらにお足が弱くなられた…?舞台袖で、ぎりぎりまで支えられていたのが見えました…。

通常の歌舞伎ではスッポンから出入りするのは異界の者ですが、この演目ではそれが人間。
あちらの世界とこちらの世界が逆転しているのですね。つまりこちらが妖怪達の世界で、そこに現れる人間の方が異界の者。
臨場感のある舞台セットのおかげで、一階席前方にいると自分も妖怪達と一緒に姫路城天守にいる気分になれました。自然と彼らの常識(露を餌に秋草を釣ったり、生首を玩んだり)が観客の常識になるので、図書之助が登場すると当然に“異界の者”に感じられる。この感覚、ゾクゾクわくわくいたします。

そんな感覚もひっくるめてこれほど完璧で極上の鏡花世界を、これ以上ないパーフェクト配役で見せてくれる今回の『天守物語』。
少しでもこの世界に興味があるなら、絶対に観ておくべき舞台ですよ。
これを超える天守物語は、おそらく私が生きているうちは観られないだろうと言い切れる自信ある(同じ配役で再演されない限り)。
最後の桃六の台詞に「泣くな、美しい人たち」というのがありますでしょう。それを聞くと、「うんうん、本当に美しい人たちだよねぇ・・・」と深~く頷いちゃうのです(これは心の美しさも言っているのだろうけれども)。これほど説得力のある富姫&図書之助は今後二度と現れまい。
鏡花が「上演してくれる劇団があったらこちらが御礼を用意する」とまで言い舞台化を強く望んだ『天守物語』ですが、彼の生前に上演されることはありませんでした。
今回の舞台、鏡花に見せてあげたいなぁ。

さて、これだけパーフェクトと繰り返しておいてなんでございますが、実は、不満もちょっぴりあるのです。
ひとつは、富姫と亀姫の乗り物のCGっていらなくね?と。空のCGは綺麗で素敵ですけど、あの絵は、ねぇ。。

もひとつは、カーテンコール@歌舞伎座。
前にも書きましたが、もったいないなぁ、と思うのです。カテコがないのは歌舞伎の特権なのに、最高にクールなのに、それを歌舞伎自らが放棄しちゃうのは本当にもったいない。このクールさが玉さま(や他の一部の歌舞伎役者さん達)にはわからないのかな。。これに関しちゃ心から松緑に大同意よ、わたしゃ。。。
とはいえ四月の曽根崎心中の藤十郎さんもそうですが、これだけ圧倒的な素晴らしい舞台を見せてくださったのですもの、やる以上は感謝の気持ちも込めて拍手させていただきました(同様の理由で染五郎の歌舞伎座カテコは100年早いっす)。それに玉さまや海老蔵の発言から、今回が一世一代になる可能性も高そうですし・・・(号泣) 
ちなみに客電を点けないのが押しつけがましいとは、私はさほど感じませんでした。バレエなどでも同じですから。通常はカテコをしない歌舞伎座でカテコをしたいなら、こうする以外になかったでしょうし。本当はするとかしないとか最初から演者が決めるものではないのですけどね・・・。
ただ、我當さんに拍手ができたことは嬉しかったな(*^_^*)

そして最後に、毎度のことですが、客席の意味不明な笑い。
もうね・・・・・・なんなんでしょうね・・・・・。
面白い場面では全くないのに(そもそもが笑わせる場面じゃないのだから、せいぜい「ちょっと面白い言い方に聞こえた」とかその程度のはず)、なぜ大声で笑うのでしょう。理解不能です。前半はともかく、後半で可笑しい場面なんて、(あえて言えば)富姫と薄の会話と討手達の場面くらいでしょうに。筋を理解していないのでしょうね・・。

以上、「歌舞伎座に来たら笑わないではいられない病」の病人達を完全無視できるなら、いいえできなかったとしても、今月の天守物語は鏡花ファンだったら絶対に観ておくべき。
私も千穐楽までに絶対もう一回行く!


7月29日の感想

Comments (2)
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