風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

七月大歌舞伎 夜の部 @歌舞伎座(7月29日)

2014-07-30 20:51:47 | 歌舞伎



※1階5列目中央

ハイ、またまた一階席ですよ~。だってオペラグラス越しじゃなく玉さまの表情を見たかったんだもの・・・衣擦れの音まで聞きたかったんだもの~~~・・・・・・・・。


【悪太郎】

右近さんは先日よりだいぶこなれられてて、猿弥さんとの絡みは変わらず可愛く、楽しかった^^(作品的にどうしても中だるみはしますけど)。猿弥さんの智蓮坊は、ふんわりした雰囲気がとてもいいですね。
『素襖落』もそうだったけど、こういう狂言の登場人物たちってなんかいいよねぇ。松之丞(亀鶴さん)は酒癖の悪い甥に困りながらも決して嫌ってはいないし、悪太郎も寝てる間に突然坊主頭になっちゃってちょっぴりショックを受けながらも「仏のお告げ」と飄々と受け入れてるし、智蓮坊も道端で絡んでくる面倒くさい酔っぱらいに困り顔ながらやっぱり飄々と付き合ってあげて、最後は一緒に修行の旅にまで出ちゃう。
良いことも悪いこともそのまま受け入れて、いつも前向きで明るくて。
こんな風にいられたら、人生に大変なことなんてなくなるのではないかしら。


【修禅寺物語】

先日も書いたとおり皆さんお役にとても合っておられて、特に笑三郎さんの桂は本当にぴったりですねぇ。前回も今回も、とてもよかった。

今夜は、中車さんの演じ方が先日から随分変わられていて驚きました。
良くなった、と言ってもいいのかなぁ。。。うーん。。。歌舞伎から遠ざかったと言えばそうとも言えるような。。
なんというか、「客を笑わせない」演技をされているように見えました。よりリアルで直接的な演技をなさっていて、夜叉王という人がどういう人間なのか、はっきりと伝わってきました。
夜叉王のことを“狂気”と表現している感想をよく目にしますが、あれは決して狂気などではないですよね。芸術に全てを捧げた者の普通の姿だと私は思う(もちろん誇張はされているけれども)。芸術って本来そういうものだと思うからです。50%なんてない、常に100%でなければ、それは芸術とは呼べない。そういう風に生きているから、当然普通の人の感覚や常識とは異なる部分が出てくる。普通の人達には時に彼が異常に見えるかもしれない。でもそれは芸術に従事する者だったら当り前のことで、狂気などでは決してない(そもそも狂人には本当の芸術は生み出せないと私は思ってます)。もちろん、人の情だってちゃんとある。それらは決して矛盾していない。
そういう芸術家あるいは職人の姿が、今夜の中車さんからはとてもよく伝わってきました。
そういう演技が出来ること自体は、本当にすごいことだと思うのです。さすが香川さんだと思いました。・・・と、つまりはこちらのお名前で呼びたくなってしまうような演技だったのでございます。。
今日は例の笑いは起こりませんでした。理解力のない客にも“リアルに”夜叉王の想いが伝わったのでしょう。でもそれを素直に喜べない私がどこかにいる。いや、本当に素晴らしい演技ではあったのですけれど。“香川さんファンの私”は感激したのですけれど。うーん。。。
ていうかそもそも、まだこれからの中車さんに色々望みすぎですね、私^^;
とても好きな俳優さんなので(『坂の上の雲』の子規など絶品中の絶品でございました)。

ところで、天守物語の桃六を中車さんだと勘違いしているレビューをいくつも見ましたが、この夜叉王と外見が似ているせいかしら。


【天守物語】

世は戦でも、胡蝶が舞う、撫子も桔梗も咲くぞ。――馬鹿めが。ここに獅子がいる。お祭礼だと思って騒げ。槍、刀、弓矢、鉄砲、城の奴等。

我當さんっっっ(>_<)!!!
ああ、我當さんの桃六、本当に好き。。。。。。この全てを包み込むような神々しさ、温かさ。。。。。。

一方千穐楽の主役のお二人は、私の好みから申しますと、気合いが入りすぎでございました・・・・・。13日の通常営業ver.の方が私は断然好きだった。。。 
いや、玉さまはまぁいいのです。力は入ってたけど、役が破綻していなかったのは流石だった。熱演と言ってもいいかもしれない。
問題はそのお相手ですよ。海老蔵クン・・・・・・・・・・・。一つは、中車さんと同じく「客を笑わせない」演技を意識しているように見えた。そんなことしなくていいのに。駄目な客に合わせてしまったら、芝居の質は下がる一方よ。
しかしそれはまぁいいのです(よくないけど)。なにが悪いって、今夜は思いきり役が破綻してた・・・・・・・。13日はちゃんと出来てたのに、あんなに良かったのに、どうしてそうなっちゃうかなぁぁぁぁ!
これはいつも海老蔵の演技で気になる部分なのだけれど、改めて海老蔵って“その役を演じる”ということがどういうことなのか解ってないのかもしれない、と思ってしまった・・・
富姫への恋情が今日は早々に出てしまっていて、涙さえ浮かべてて、そんな激しく濃ゆく演じなくていいのよ図書は!下界に未練があるって言って帰るくらいなんだから!
あの包容力のある表情は一体どういうつもり?なんであんな表情しちゃうかなぁ。まるで麻央さんを見るように愛おしそうに富姫のことを見ていたけれど、図書はそんな表情しなくていいの!ただまっすぐに富姫に惹かれていればそれでいいのに。役の性格を理解できていないというか、結局自分を捨てきれていないんだろうな・・。今日の彼は図書之助ではなく、海老蔵だった。ファンの方ごめんなさい、でもはっきり言ってしまいますが、今日の海老蔵は「人生最後かもしれない図書之助を熱演してるオレ」に酔っている風にしか私には見えませんでした。今月後半の(残りのカウントダウンを始めた頃からの)海老蔵はずっとこうだったのでしょうか。それが熱い演技でいいと感じる人もいるようだけれど、私は13日に観ておいてよかったと心の底から思いましたよ。あの日の海老蔵は文句なく素晴らしかったです。

今日は右近クン(亀姫)もなんか力入っちゃってた。人間っぽかったぞー。

猿弥さん、門之助さん、吉弥さんは今日も安定でした。素晴らしい。もちろん我當さんも。

再び玉さまについて。
亀姫が帰った後、夜になった真っ暗な天守に一人でいる場面がひどく印象的でした。富姫の孤独と、彼女が下界の人だった頃のことと、天守を支配する者の気高さと、更には玉三郎さんご自身のお姿とも重なって、、、見入ってしまった。とてつもなく美しかったです。

カーテンコールは4回。1~3階までほぼスタオベ。
千穐楽なので予想どおりといいますか、出演者の皆さんが勢揃いでした。陰陽師のときに書いたことと矛盾してしまいますが、どうせカテコをするのであれば、脇役も含めて勢揃いの方が絶対にいいですね(あ、松緑がカテコ拒否したこととは別の話ですよ。あれは絶賛支持しております!)。客それぞれ拍手を送りたい役者さんは違うはずですし、舞台上では拍手をもらえないチョイ役の方達にこそこういう時に拍手を送りたいですから。
しかし今日のカテコの玉さま、すごく清々しい表情をされてたなぁ。隣のおば様達が「綺麗ねぇ」って呟いていたけど、本当にとても綺麗だった。やっぱりこの方は立女形なのだなぁと改めて思いました。私はといえば前回と同様、これほどの富姫を作り上げてくださった、演じてくださった玉さまに心から拍手をいたしました。そして玉三郎さんと海老蔵がずっと我當さんをたててくれていて、それがとてもいい光景でした。また我當さんがいい表情されるのよ・・・。カテコ大反対派の私ではありますが、我當さんに真ん前で拍手を送れたことは心からよかったなぁと思いました。 

4回目のカテコは玉さま&海老蔵で、最後に玉さまが袖にいた中車さんを呼んで(なかなか出てこられなかったのは、遠慮されていたのかな)、三人で。中車がんばれー!の掛け声がありました。
中車さんはこういう時に出しゃばらない感じが好感持てますよね。頭のいい方なのでしょうね。

以上、ちょっぴり残念な部分もありましたが、終演後の可愛い図書&富姫さまの楽屋ツーショット@ABブログにキュンキュンさせてもらえましたし、最後かもしれない大好きな玉三郎さんの富姫を目に焼き付け、感謝の拍手を送ることができたので、やっぱり奮発して行ってよかったなと思いました。





終演後外に出ると、「五日初日」の幟が。来月の納涼歌舞伎のものに掛け替えられていました。
夢のような舞台の後、すこしの寂しさも感じつつ。
勘三郎さんが「舞台は水に字を書くようなもの」とその儚さを表現されていましたが、本当にそうだなぁと思いました。でも私は、そういうものだからこそ一層、ひとつひとつの舞台が宝物のように大切に思えるのです。


7月13日の感想

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