今月は昼も夜も、たっぷりと泣かせていただきました!
鑑賞順に、まずは夜の部の感想から。
7日は夜の部を通しで(1階5列目)、10日は『木の実』『すし屋』のみの鑑賞でした(幕見)。
楽日までに、もう一回行く予定です。
今後半年分、仁左さまのお姿を観だめしておくのだ。あのお声を聴きだめしておくのだ。
【木の実/小金吾討死/すし屋】
父と子(弥左衛門、権太)に、泣いた。。
母と子(お米、権太)に、泣いた。。
父と母と子(権太、小せん、善太)に、泣いた。。
義経千本桜という壮大な狂言の中の、小さな“家族”の物語。
7日は月曜の夜だったせいか一階席は空席が目立ちましたが、にもかかわらず仁左衛門さんは素晴らしい熱演でした。
仁左衛門さんのこういう、状況を読んで手を抜いたりしないところ、大好きです。
勘三郎さんも「絶対に客をだましたりしない人」って言っていたものなぁ。。
右肩を怪我されているため、木の実を落とすときも、煙管を吸うときも、床几を片付けるときも、博打遊びも、子供を背負うときも、全部左手でされていましたが、それがとても自然で、何も知らずに観た友人は「左腕しか使っていないなんてまったく気付かなかった」と言っていました。
プロ、ですね。
ですが、今度は左腕を傷めてしまわないか心配です。。。
あんなに片腕を酷使したら、絶対に傷めると思うの。。。
あの5月下旬の三人吉三と吉田屋を観て、仁左衛門さんには体調が悪いから適当にお芝居をするなどということはできないことは重々承知しております。あのときも、最後まで全力でお芝居してくださいました。そんな仁左衛門さんだから好きなのですが、だからこそ、休むべきときは思い切って休んでいただきたい。。。ここで無理してさらに悪化させてしまったら、ファンを悲しませることになるのですよ。。。
…さて、気を取り直して、いつもの感想とまいりましょう。
この権太。私の大好物な色気系仁左さまではありませんが(といっても仁左さまは何をしていても色気は隠せませんが)、きゅんきゅん場面がいっぱいですね。
まず、小せん(秀太郎さん)とのじゃらじゃら。
「ちょっとだけこっち向け」 「イヤじゃ」 「向け」 「イ・ヤ」
じゃらじゃら!
じゃらじゃら!
「今夜はうちに戻って」って小せんが子供に頼ませる場面も、あったかくて大好き。
博打の真似事の場面も可愛い。「大人んなって役立つやないかぁ~」
この場面、7日に観たときは、慣れない左手で器を回したせいかサイコロが地面に散らばっちゃったのですが(ニザさま…泣)、それはもう自然に「もっかいやろな~」って子供に優しく笑って、付いた土をふッて吹いたのですよ。
出た、仁左さまの超ナチュラルハプニング対応!
このリアルさ!舞台に土なんかないのに!
『四谷怪談』でもそうでした。隠亡堀で小箱が落ちたとき、壊れていないかをゆっくりとひっくり返して確かめたのですよ。舞台の上で。この自然さ、この余裕。ハプニングでさえも魅せてくれる仁左さまでございます。
もう一つ思ったのが、アスファルトの時代に育った若手世代には、きっと今回のような反応は出来ないのではないかな、と。それだけ私達は、作品が作られた時代からどんどん遠ざかってしまっているのだな、とも。。
他の配役も、みなさん過去に演じられているだけあって安定していて、呼吸もピッタリでした。
秀太郎さんの小せん。
文句なしです。秀太郎さんがぶつぶつ言ってる姿、大好き!
出の瞬間から上方の空気が舞台に広がって、これを感じるだけでも楽しい。
基本的に兄弟や親子で夫婦や恋人を演じるのがあまり好きではない私ですが、ノープロブレムアットオールでした(そういえば『一條大蔵譚』でも夫婦役でしたね、このお二人)。
10日に観たときはちょっとお声が掠れていたけれど、大丈夫かな。松竹座でもそうだったので、お疲れが声に出やすいのかも。
中日の秀太郎さんのブログで、『「ワル」でいて「情のある」可愛い権太が善太を可愛がるシーンを見ているのがとても幸せです。そんな権太を演じている仁左衛門と、このあと半年さきまで一緒に芝居出来なくなると思うととても寂しいです。』と。。。あったかいご兄弟だなぁ。。。そんなあったかさが舞台からも伝わってきます。
また、『小せんは二度花道を引っ込みますが、初めの幕では楽しく、後の「すしや」では哀しみと喜びの入り交じった引っ込み…』とも。二度目の引っ込みに哀しみだけでなく喜びも交じっているというのは、深いですねぇ。
梅枝の小金吾。
なんだろ、この年齢不相応な落ち着きは。このメンバーにも違和感なく溶け込めちゃうとは、貴重な若手ですねぇ。若葉の内侍(東蔵さん)&六代の君に後のことを話して聞かせる場面、苦しげな呼吸の中にも凛とした空気が出ていてとてもよかった。若くて美しいので、死んでいく姿が一層涙を誘います。立役、もっとやってほしいなぁ。
時蔵さんの弥助(維盛)。
最初の出からステキです。空桶でのヨロけ方にときめきました、笑。
体の動きがそれは美しく、時折入る舞踊もどきの振りにはうっとり。
菊之助にしても、梅枝にしても、時蔵さんにしても、女方の立役は眼福ですねぇ
東蔵さん&六代の君の出のときに片肘をついて横になった体勢でじっと静止している姿も、あまりに綺麗で艶っぽくて、花道よりも舞台の時蔵さんに目がいってしまった。
弥助→維盛の変化も素晴らしかったです。
それと、「梶原殿がまいられます」の知らせが来たとき、孝太郎さんと二人でさっと片手を上げて決めた形、痺れました!先代萩の沖の井を思い出す~。
孝太郎さんのお里。
可愛い*^^*
最初の出の場面で、お米と弥助が話をしているときに、上手からねっとりと濃ゆく弥助を見つめている視線が最高でした。
「仮の情け」ということは、この二人はすでに関係があるのですね。まぁ、よくあることか。
「お月さんも寝々してじゃえ~♪」
我當さんの梶原。
悪役かそうでないのか読めない雰囲気が、素晴らしかったです。
とても短い出にもかかわらずあの存在感はさすが。威厳あるなぁ~。
首実検の松明は本火なのですね!それも盛大!煙もくもく。権太の「煙いなぁ」にリアリティが出ます。
今回は松嶋屋三兄弟が同じ舞台に勢揃い。孝太郎さんもいるし、仁左衛門さんの状態が状態なだけに、そういう意味でもよかったなぁと思いました。
竹三郎さんのお米。
あいかわらず仁左衛門さんへの情をたっぷりと見せてくださるので、嬉しい限り。
コチコチ!「器用な子やな~^^」
膝枕!!「アイアイ~」 竹さん、その場所代わって!!!
歌六さんの弥左衛門。
実直で毅然とした父親で、優しい竹三郎さんのお米とのバランスがよく、泣けました。
権太が弥左衛門の着物の胸の部分を掴んでもたれかかるところ、よかった。。。。。キュンとした。。。(←オイ)
ただ、丁寧なお芝居は好ましいのですが、熊谷のラスト同様、歌六さんは重い物を持つときの演技がやっぱりちょっと極端だと思うのです。。。
帰宅した時はさほど重そうに持っていない首が、桶に移す時にはすごく重そうで、さらにその桶を持ち上げる時はもっっっのすごく重そうで。空桶にも重さはあるとはいえ、あの比重はどうなのか。。。そしてそこまで重い桶を、権太は後から軽々持ってるし。。
7日は中央の席だったので、最後のシーンの仁左さまが目の前で、流れてる涙まで見えてしまって、もう……もう…・・・・泣
また歌六さんが、しっかり仁左さまを抱いてあげるんだよ~……泣泣泣
最後に掌を合わせてどこか明るさを含んだ安らかな表情になるのは、やっと父親に認めてもらえたからなんだよね。。。長い間、ずっと望んでいたこと。。。
そしてあちらの世界で遠からず小せんと善太に再会して、また家族三人で小言を言い合ったりしながら、睦まじく暮らすのだろうな……(本人として現れてしまった以上、頼朝も助けるわけにはいかないですものね…)
仁左衛門さんの他の多くの舞台と同じように、仁左衛門さん以外の権太が考えられなくなる、あったかくて情の深い、悲しいけれどそれだけじゃない、『木の実』 『すし屋』でございました。
本当に…、無理しないでいただきたい………。
ところで梶原と頼朝は、結果的にほぼ思い通りに事が運んだわけですが、そもそもの計画では一体あの陣羽織をどう使うつもりだったのだろうか。。
本人が現れたら直接渡すつもりだった、なんてことはないですよねぇ。
でも、匿っている者が代わりに偽首を差し出すことまで読めていたとも思えないし。
そもそも陣羽織の歌の謎を維盛が解けなかったらどうするつもりだったのか。それならそれで仕方ない、ということなのかな。借りを返すことが目的なわけだから、チャンスを与えたという事実が大事なのかも。
いずれにしても、『熊谷~』にしろ『盛綱~』にしろ、相手からの暗喩バリバリなメッセージを正確に受け止められることが、歌舞伎世界のよい武士たる第一条件ということですね。まったくまだろっこしい生き物ですな、武士ってやつぁ。
→夜の部②
※海老蔵が10月6日のブログで「仁左衛門の兄貴」って言っていましたね。 勘三郎さんのことをそう呼んでいるのは知っていたけど、仁左衛門さんのこともそんな風に親しく呼んでいるのか。ちょっと意外。……てか幕切れの手前で帰ったりせずに、ちゃんと幕切れまで観なさいよ!ジムなんか行くより、この偉大な先輩の至芸を生で観ておく方が、何千倍将来の自分のためになるかしれないのに!!!はぁ……
※東京新聞インタビュー(仁左衛門)
※10月25日千穐楽夜の部の感想