シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

マグダレンの祈り

2009-02-25 | シネマ ま行
舞台は1964年のアイルランド。いとこにレイプされたマーガレットアンヌ=マリーダフ、孤児で美人であるがゆえに男たちから声をかけられてばかりいるバーナデットノラ=ジェーンヌーン、私生児を生み、その子を無理やり両親に養子に出されたローズドロシーダフィは、それぞれマグダレン修道院に連れて来られる。

マグダレン修道院とは…キリストによって改心した娼婦マグダラのマリアにちなんでつけられた名前を持つ修道院で、19世紀に“堕落した”女性や娼婦の避難場所として作られた。20世紀に入り、カトリック教会が運営するようになり、シスターたちの管理の下、収容された女性たちは洗濯場で働くようになった。(その収入は教会のものになる。シスターブリジットジェラルディンマクイーワンは嬉しそうに札束を数えている)

ここでの生活は修道院というよりも、完全に収容所、または刑務所だ。私語は許されず、10人以上がひとつの大部屋で暮らし、質素を通り越した粗末な食事に楽しみは一切与えられない。しかもそれだけではない、シスターたちや神父からのセクハラ、パワハラに満ちた世界。それが本当にこういった罰を受けるべき女性たちの収容所ならば、自由がないことなどはそれはそれである程度仕方ないことだと考えられるが、ここに入れられている女性たちのうち、本当にこのような罰を受けなければいけない女性はどれくらいいたのだろうか?

マーガレットはいとこにレイプされた被害者。それを親族に告げると、男のほうは何のお咎めもなく、家族は彼女を“恥”として、修道院に入れる。どうせ、この男が彼女が誘ったとかなんとか言ったか、親族の男たちが彼も若いんだからそれくらいしょうがないとかなんとか言ったに違いない。
バーナデットはただ美人だっただけ。確かに彼女も孤児院の柵越しにやって来る男の子たちをちょっとからかってみたり、楽しんでるふうではあったけど、それが“罪”だと言われてもって感じだし。
ローズは私生児を出産。もちろん、カトリックの世界では婚前交渉を結ぶこと自体が“罪”ではある。しかし、それを一族の恥とし、生まれた赤ん坊の顔すら見ずに養子の手続きをしてしまう両親もどやねん?そして、ローズの場合もどうせ相手の男はのうのうと何の罪も背負わずに暮らしているんだろう。
彼女たちの同部屋で少しオツムの弱そうなクリスピーナアイリーンウォルシュは神父ダニエルコステロがわいせつな行為をしてきたのを告発すると精神病院に入れられる。

舞台となっているのが、1964年ということで、これがついこないだのことかと思うとビックリなんだけど、こういった修道院が1996年まで存続していたというのだからこれまた驚きである。

こういうのを見るたびに宗教ってなんやねん?って考えさせられますね。人を救うはずの宗教が弱者を教義で縛りつけ、裏で金を儲ける。彼らこそ、“堕落”した人間なのだけど、宗教が権力を得たとき、アンタッチャブルな存在になってしまう。そして、それを助長する男尊女卑と貧困の社会。そういったアイルランドの暗部をこの映画は克明にうつしだします。

監督は自身も俳優であるピーターミュラン。淡々とした演出ながらも、マグダレンシスターズに優しいまなざしを向けている。