特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

哀愁のマットレス

2024-04-15 08:21:04 | 腐乱死体
時は4月下旬、晴天・春暖の心地よい季節のなか、その現場は発生した。
場所は東京都某所・分譲マンション2階の寝室。遺体の腐乱液はベッド上とベッド脇の家具・床に渡って染み広がっており、当然ながらかなりの悪臭もあり、かなり刺激的な光景だった。遺族によると故人は太った老人とのこと。
通常の作業チャートでは「現場検証見積」→「作業合意」→「代金前払い」→「作業実施」である。
しかし、この現場の遺族は、見積に行った私に「このまま作業をやってくれ!」と懇願。遺族の心情を汲むのも当社の大事な方針なので、結局、断りきれず作業用の装備がほとんどないまま作業にとりかかることに。
必要最低限の道具・備品を近くのホームセンターで調達。
ベッド脇の床の家具に溜まった腐乱液を吸い取り、拭き取るときは、場慣れした私もさすがに吐き気がして、何度も「オエッ」「オエッ」。
しかし!最も困難を極めた作業は、ベッドマットの運び出しであった。しかもダブルサイズで、タップリの腐敗液吸い込み済みの代物。
それを自分一人で一階まで降ろし、少し離れた路上にとめたトラックに積み込む作業は、体力的にも精神的にも困難を極めた(泣きたい気分)。
ただでさえ大きなベッドマットで、更に腐敗液をタップリ吸っている訳で、とても自分一人では持ち上げられるものではなかった(例え、持ち上げられても、持ち上げたくない代物)。もう、引きずって運び出すしかなかった。
一歩玄関を出たら、そこは公共の場所。
通りかかる通行人は、遠目には不思議そうに見ていたが、近づいて来た途端に強烈な悪臭パンチを浴びることとなってしまった。
人々は口々に「くせぇっ!」「何だこれ?」「キャー!」等と叫びながら逃げ去って行った。
心無い悪口を甘んじて受けざるをえない中、私は、独りの世界に入りたいような気分で、ひたすらマットを引きずった。
早々とトラックに積んで退散したいのは山々だったが、なにせその重さではズルズル・ノロノロと引きずっていくしかなく、その時間が長く感じたことは言うまでもない。
遺族は感謝してくれたが、私は作業の悲しみを背負って逃げるように現場を離れた。

1989年設立
日本初の特殊清掃専門会社
ヒューマンケア株式会社
0120-74-4949
 
コメント (11)
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