団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

伊勢海老まつり 南伊豆

2016年11月02日 | Weblog

  ご飯のお替りをした。いったい何年ぶりだろう。それは南伊豆町の民宿でのことだった。10月29日に泊まって30日の朝食が泊まった部屋に用意された。昨夜の夕食は正直期待外れだった。確かにあれもこれもと品数は多かったが、伊勢海老のお造り以外に舌鼓は鳴らなかった。

 10月はじめ、妻が伊勢海老好きの私に「南伊豆で伊勢海老祭りっていうのをやってるよ」と教えてくれた。ローカルテレビ局でコマーシャルを観たらしい。早速ネットで調べてみた。『静岡県一の漁獲量 伊勢海老まつり 開催期間9/29~11/30 南伊豆町の伊勢エビは活きがよく、漁獲量も静岡一番の水揚げ、この時期に海の王様・伊勢エビをご賞味ください。調理は鬼ガラ焼き、ボイル、お刺身を選択でき、お刺身の方には頭部を味噌汁にてお出しします。(お申し込みの際に、調理方法をお知らせください) お一人様料金8,500円(1匹付き) 料金10,500円(2匹付き) 【予約先】 (一社)南伊豆町観光協会 TEL0558-62-0141  http://www.minami-izu.jp』 早速電話してみた。申込金6千円を送ると民宿が指定されるという。妻と日にちを決めた後、私が手続きをした。

 私は長野県の生まれだ。子どもの頃伊勢海老は魚類図鑑で観たぐらいでもちろん食べたことはなかった。伊勢海老は関心もなじみもない異郷の地の食材だった。エビフライは食堂やレストランでしか食べられないあこがれの高級料理で数年に一回食べられればよかった。44歳で再婚して妻の海外赴任に同行した。アフリカのセネガルの首都ダカールに暮らした。市場にはロブスターが生きたまま売られていた。買って食べてみたが、また買って食べたいとは思わなかった。

 旧ユーゴスラビアにいた時、ネパールで知り合ったアメリカのボストンから来た友人の結婚式に出席した。ボストンで食べたロブスターは美味かった。セネガルは海の温度が高い。ボストンは海の温度が低い。寒いところの海産物のほうが暖かいところのものより美味いは本当かもしれない。こうしてだんだんに伊勢海老に近づいた。

 帰国して海に近い町に終の棲家を持った。長野県生まれの私たち夫婦は、新鮮な海の幸に毎日舌鼓を打っている。アワビや伊勢海老も手に入る。住む場所によって食文化は異なる。長野には長野の旨いものがある。流通の発達によりどこに住んでも何でも手に入れることができるようになった。それでもその産地で新鮮な特産物を食せることは贅沢なことである。

 大きな期待を胸に南伊豆町の伊勢海老まつりに出かけた。夕食の少し前に妻は窓から玄関に仕出し屋が給食センターのように軽トラックで配達に来たのを見た。合理化というか料金を抑えるためにみな努力をしている。何もかもに自分の理想やこだわりを押し付けることはできない。だから夕食はそれをふまえて我慢した。

 朝食に出た伊勢海老の味噌汁はすべての不満不平を消し去った。その美味しかったこと。一杯の味噌汁はこの旅を変えた。帰路は以前避けていた西伊豆の難所続きの国道136号線に挑戦する元気をくれた。あの味噌汁の味は、南伊豆でこその至福の難攻不落の域にある。


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