普段何気なく使っているものがなくなると、そのありがたさが身に染みる。私の場合寝ぐせ直しの“リーゼ”というスプレー式のものに助けられている。
私の父親は身だしなみに気を使う人だった。さほど残っていない頭髪をいつもきちんと整えていた。朝、寝ぐせがついた残り少ない髪の毛を丁寧に鏡を見ながら直した。その方法と言うのがタオルを熱い湯に浸し、それを素手で絞って、寝ぐせがついた毛の押し当てるというものだった。私は寝ぐせが気にならなかった。当時私と同じくらいの歳の子は、頭の髪になど注意を払う者などいなかった。大方は坊主頭なので寝ぐせとは無縁だった。どこかへ出かける時など、父は自分の髪の毛を整えると、タオルを熱いお湯につけなおして、私の頭全体にかぶせ、頭全体をタオルに押し当てた。熱いタオルだった。父のごつい手でぐっと抑え込まれた。最後にマッサージするように髪の毛をタオルでゴシゴシ揉みしごかれた。そして櫛で髪の毛を整えてくれた。あら不思議、ヤマアラシのように突っ立っていた髪の毛がおとなしくしなやかにペタッと艶やかになっていた。嬉しかった。もともと鏡が嫌いだったが、その時ばかりは、鏡の整髪ぐあいに見入った。それが今ではどんなに忙しいときでもリーゼを吹きかけてブラシを当てればハイ出来上がり。父の熱いタオルと比べたら物足りなさはあるが、自分一人で手軽にできる。
日本人の髪の毛は太くて固い剛毛である。カナダに渡ったばかりの頃、多くの学生に髪の毛を触らせてとせがまれた。触って言われたのは、「針金みたい」「髪の毛が立つ」であった。シャワー室で白人が髪の毛をシャワーの湯に当てると、彼らの髪の毛はまるでトロロコンブのように毛がシート状に頭の骨に張り付いた。細くて柔らかいらしい。オリンピックの水泳の競泳でも水から白人選手が顔を出すと、髪の毛がトロロコンブのシート状になっていてカナダ時代を思い出し笑ってしまう。日本人選手は髪の毛を短くカットしているせいもあるだろうが、水を弾き飛ばしているようで豪快に見える。
おそらく白人は、リーゼなど必要ないに違いいない。カナダの学校で寮の朝の洗面室はにぎやかだった。20くらい並んだ鏡付きの洗面台の前に陣取って、みな櫛で頭髪を整えていた。すこしブラシや櫛を水か湯につけ、ササッと梳かしてハイ出来上がり。私だけは父親が教えてくれたタオルを熱い湯につけ絞って頭にしばらく乗せた。最初の頃は私の周りに人だかりができた。みなが珍しそうに私の寝ぐせ直しを見物していた。
このブログを書いていた5時59分福島で地震があった。その直前に緊急地震速報があり、テレビから大きな警報が鳴り響いた。書斎から居間へ行ってテレビを観た。その直後、福島県で震度5弱の地震が観測された。さらに津波警報が出て「津波!避難!つなみ!にげて!」のテロップが流れた。東日本大震災の以後、地震観測の装置が太平洋の海底に設置されたと聞いた。それらの装置を総動員して、そこへ今までの地震データを分析した結果を活用しての警報につながったのだろう。災害はいつ起こるかわからない。備えあれば憂いなし。日々地道に研究を続ける方々のおかげである。NHKテレビのアナウンサーが繰り返し「今すぐ逃げてください」と言い続ける。科学進歩や報道の発展はありがたいが、どうか被害がありませんように。原発が心配。