2日目は、高知市内の坂本龍馬博会場から観光が始まる。駅前の広場に龍馬博の特設会場があった。一旦会場に入ったが、面白くなかったので外に出た。駅ビルの本屋がすでに開いていた。地方の本屋には、その地方だけでしか入手できない本がある。その中には優れたものも少なくない。本屋の目立つところに龍馬に関する本のコーナーが設けられていた。その裏の棚にジョン・万次郎や岩崎弥太郎の本があった。数冊買った。龍馬博より私には嬉しかった。
桂浜を観光し、バスは四万十川(写真参照)へ向かった。
家の近くの干物屋に去年の夏、四万十川の鮎と書かれた干物が売られていた。一尾300円だった。私は、眉に唾をつけたくなった。あんなに遠くから運ばれてきた鮎にしては安すぎると思った。店のおばさんに「これ本当に四万十川で獲れた天然鮎?」とは聞けない。ちかごろ産地偽装は、日常茶飯事となっている。多分おばさんの答えは「養殖した鮎を四万十川の水で泥抜きして加工したんよ」あたりだろう。いつか四万十川へ行ってみようと思っていた。行けば、真実がわかるかもしれない。こんどの旅はそういう目的もあった。 四万十川、名前そのものが魅力的だ。バスガイドによると語源は、アイヌ語のシマント(美しすぎる)からという説と、たくさんという意味で使う“ごまんと”を五万十として、最初五万十川にしたが、五万は多すぎるので遠慮して五を四にして四万十川にしたそうだ。私にとって語源はどちらでも良い。シマントという語感が心地良い。そして四万十川が、日本で最も汚染されていない、漁業資源が豊な川であることに興味を持っている。
私が観光船に乗ったのは、河口近くの流れが実にゆったりしたところだった。観光船の船頭は、普段は漁師として川で漁をしているという。年齢は、40歳ぐらいの働き盛りである。痩せてはいるが、いかにも筋肉質の体つきをしている。生活が豊かなのだろう。言動にも体の動きにも余裕がみられた。船頭は、ひとりで20名ぐらいの観光客が乗った観光船を一人で操舵もするし、ガイドもする。観光専門ガイドと違って、普段漁をしている漁師である。説明が具体的で、尚且つ面白い。ツアーはガイドで決まる。このガイドならと、私の住む町の干物屋の鮎のことを質問した。彼は「四万十川の鮎でありえない。理由は、値段が安すぎることと四万十の鮎は、干物にするほど大量には獲れない」と言った。なぜか私はほっとした。
観光船には靴を脱いで乗船していた。気がつくと私以外のほとんどのおじさんたちは、5本指ソックスだった。健康志向というか金太郎飴というか、世間を知るのに、とても参考になった。
バスは足摺岬の近くの2泊目のホテルに到着した。1泊目でツアー料金とホテルの質を思い知らされたので覚悟していた。ところがである。2泊目は、思いの他良いホテルだった。さすが旅行社は、心理的作戦をこうじている。最初に「お客様、料金をご確認ください。これが精一杯です」と客をねじ伏せる。2泊目はそこそこのところ。そうすると3泊目は、「こんなに立派なホテルに泊まれるのか!」と言わしめるようなきっと立派なホテルで、次回ツアーの参加につなぎとめる。「旅行会社、おぬしもワルよな~」と考えた。結果はその通りだった。
ジョン・万次郎のことは、あらためて『ジョン・万次郎』と題して書きたいので今回はあえてジョン・万次郎のことは書きません。私は、足摺岬のホテルの屋外でジョン・万次郎が見た夜空を見上げ、太平洋を眺め、今まで知り得たジョン・万次郎像と対峙し思いをめぐらせた。私は「来てよかった。旅行のプレゼントありがとう」と風呂から戻ってきた妻に言った。