団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

シンガポールの寿司屋

2011年12月09日 | Weblog

 伊豆の温泉旅館に泊った。15人しか泊れない、夫婦二人と数人のパートさんだけで経営する小さな旅館である。温泉と料理の評判が良いということでその旅館を予約した。川のほとりにたたずむ二階建ての小さな旅館だった。

 女将さんは、入館時にいろいろ指示をした。「夕食には浴衣のままで結構ですが、朝食の時は、服を着て来てください。お風呂は24時間いつでも入れますが、必ず出たら電気を消して下さい。靴は下駄箱に入れてください」などなど、延々と述べられた。早めに運転の疲れを温泉で癒そうと風呂に入った。かけ流しの温泉風呂に私だけという贅沢を満喫した。湯の温度が高く、私には熱過ぎたが、慣れるとその熱さを心地良く感じた。タオルを頭に乗せて、浪曲でも唸りたくなる心境だった。ふと窓を見ると大きく「マドを絶対に閉めないで下さい」と書いてある。女将さんが入館時に注意したことあちこちにこうしてボードに書かれている。これはきっと女将さんの注意をきく客が少ないに違いない。それにしてもちょっと行き過ぎの気がする。汗をかくほど温まって、脱衣場の電気を消して廊下に出た。

すると今到着したばかりらしい男性客が、すれ違いざまに私の電気を消したのを見て「つけておけば」と言った。「必ず消すようにとここの女将さんに言われているので」と私は答えた。「節約、節約、日本はどこへ行っても節約かい」とその男性は言いながら歩き去った。年齢60代後半でセーターを着ていた。私はこの年代で普通の人が「日本」と会話の中でいう使い方はあまりないと思った。もしかしたら海外に住む人・・。

 夕食の宴会場兼食堂では、この男性のテーブルの隣が私たち夫婦の席だった。男性のテーブルに5人座っていた。男性だけが宿泊していて、四人は服装から食事だけに来ているようだ。聞くとはなく、この男性の独演会が耳に入った。どうやらこの男性は、いまをときめく海外に進出した日本企業のお偉いさんらしい。タイとシンガポールの話が多い。「日本はどこへ行っても寿司は回転寿司ばかり。100円とか120円とかでしょう。シンガポールには寿司屋が850軒もあって、日本のように二貫づつでなく、一貫づつ出す。それも一貫800円とか高いものは1800円もする。現地の人でも寿司をばんばん注文している。日本はデフレだな。これじゃダメだよ。負けてるよ」 

わかった。なぜこの男性が風呂から出てきた私が電気を消したことに意見を述べたのか。彼は海外できっとお手伝いさんや使用人のいる、電気代にもわずらわされない優雅な暮らしをしているのだろう。日本がバブルの時のままの生活感覚を引きずっていられる経済力があるに違いない。3.11以後の日本の閉塞感をよその国のことのように考えているのかもしれない。日本から自分の工場を海外に移転したことで我が世の春の勢いを維持しているのだろう。

 

招待した日本側の取り引き会社のおそらく社長夫妻と部下らしい40歳代の男性二人の四人が、この男性を囲んでいた。しかし喋る男性以外のだれもただ「ほう」とか「そうなんですか」と首を縦にふりながら言うだけである。日本残留会社側の覇気のなさに何となく気が重くなってきた。

そんな空気を吹き飛ばすように、奥の仕切られた宴会場の前の三和土に白いスーツを着た三人の若いコンパニオンと呼ばれる女性が姿勢よく並んだ。ハイヒールの高さは15~20センチあるかもしれない。そこへ十数人の60代後半の男性が、浴衣姿でぞろぞろ入ってきて、コンパニオンが深々と御辞儀して迎えた。これで宿泊者全員がそろったようだ。中での様子はまったくわからなかった。食べ終わって部屋に戻った。9時前に寝てしまった。

次の朝、朝食を食堂に食べに行くと、コンパニオンと宴会をしたグループがすでに朝食を終えて、昨夜のことをあれこれ大声で話し、盛り上がっていた。このグループは警官の退職仲間だということも判った。昨夜のコンパニオンは一本(30分)8千円で最低時間は2時間だという。私は計算した。一人3万2千円で3人だから計9万6千円。宿泊代別だから支払いは大変な額になる。

シンガポールの寿司屋で一貫ずつ注文して食べるのも凄いが、日本の旅館でコンパニオン呼ぶのも凄い。日本の老人は海外でも国内でも元気いっぱいのようだ。しかし私は、こんなんでいいのかなと言い知れぬ不安を感じた。

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