団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

水鉢

2022年07月08日 | Weblog

  散歩の途中、ある家の玄関の前に水鉢が置いてあった。鉢の中を覗いた。水草の茂みの中にメダカが泳いでいた。まだ6月だというのに、猛暑日が続いていた。なんとも風情がある。好きな景色だ。アフリカのダカールでの出来事を思い出した。私は、町で水鉢と水草を買って、家の玄関の前に置いた。

  アフリカのセネガルにいた時のことだった。首都ダカールの郊外の園芸店へよく行った。奥さんがフランス人で旦那さんがセネガル人の夫婦が、広い敷地の店を営んでいた。セネガルは、フランス語が公用語だった。二人とも英語が話せた。私のフランス語は、正月に今年こそは日記を書き続けるぞ、と決意して書き始めた日記が、1週間もしないうちに書かなくなった日記のようなものだった。英語が通ずると私の世界は、一気に拡がった。というわけで、フランス語を習う努力を放棄して、英語を話せる人たちを探す努力をした。園芸店の夫婦は、いろいろなことを教えてくれた。

 ダカールで住んだのは、官舎だった。築後40年ほどたっていた。建物は、古かった。毎晩悩まされたハマダラ蚊対策として、蚊帳を吊ろうと、壁に釘を打とうとしたが、硬化していて、釘が打てなかった。敷地が500坪ほどあった。土地が広かったので、一部を家庭菜園にしようと思った。ネパールでは、この家庭菜園が大成功した。その成功体験を、そのままアフリカのセネガルに持ち込んだ。日本から持ってきていた種を蒔いた。ヨーロッパ出張の時、買って来た根生姜を植えた。ことごとく失敗した。“郷に入っては郷に従え” そうだ園芸店へ教えを請いに行こう。以前からゴルフ場へ行く途中で、見ていた園芸店へ出かけた。

 まさか経営者夫婦が、英語を話せるとは。私は、失敗談や疑問を矢継ぎ早に放った。嫌な顔ひとつせずに答えてくれた。旦那さんの笑顔と、黒い肌と真っ白で歯並びの良い歯の対照が、印象的だった。適材適所。ライトパーソン。人との出会いこそ、人生の喜びである。旦那さんは、実にわかりやすく説明してくれた。良き教師とは、自分が持つ専門知識や経験を生徒に分かりやすく説明できる人である。何故私の庭で蒔いた種が出芽しなかったのか。セネガルの土は、砂漠と同じで塩分が濃く、ほとんどの種は、出芽できない。私は、砂漠が不毛の地であるのは、単に水分がないからだと思っていた。砂に塩分が多く含まれていることを知らなかった。私が自分の家庭菜園で、セネガルでは超貴重な水を、ジャブジャブ撒いていた。やってはいけない事ばかりをしていた。

 話していた事務所の入り口に、水鉢が置いてあった。旦那さんに私も家の玄関に水鉢を置いていると話した。旦那さんの顏が険しくなった。「それはやめた方がいい。マラリアの媒体になるハマダラ蚊を養殖するようなものだ」 実は水鉢を買って来た時、妻にも同じことを言われていた。しかし私は、水鉢の中で魚を飼えば、蚊の幼虫ボーフラを食べてくれるから大丈夫と注意を聞き入れなかった。私は、家に戻って水鉢を処分した。

 現在住む家に、山口県萩で買った水鉢がある。水を入れてない。日本にハマダラ蚊は、ほとんどいない。けれど私はズボラなのだ。水の交換、魚や水草の世話がきちんとできない。だから空の水鉢に瀬戸物の錦鯉1匹と金魚を2匹置いてある。これではいけないと思うが、受け入れるしかない。本物ではないが、いろいろなことを思い出させてくれるキッカケになる。セネガルの園芸店の夫妻が懐かしい。

 

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