団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

♪夏をあきらめて♪

2020年05月27日 | Weblog

 職場から有給休暇をとって自宅で待機するように言われた妻が家にいることが多くなった。それはそれで通勤途中や職場での新型コロナウイルスの感染の確立が減るので安心できる。しかしである。普段は私一人で留守番している時間に家に妻がいると、何か落ち着かない。妻は本を読み、私は漢字パズルを解く。一日中、それだけして過ごすというわけにはいかない。二人の自粛生活を救ってくれたのは、料理と散歩である。

  私には一日に万歩計で“5千歩”というノルマがある。医師に「脚を切断するか、運動して何とか現状維持するかのどちらかです」ときつく言われている。いつもなら妻が出勤したあと、外の天気をみて、散歩か家の中でのウォーキングマシンにするか決める。17日日曜日、日中ずっと暑かった。夕方妻と散歩に出かけた。

  家を出て川に沿った道を歩き始めた。私は向こうから人が来ないのを確認してマスクを外した。3秒で息を胸いっぱい吸い、7秒で唇を細めて口笛になるように息を吐く。歩き始めて5分もしないうちに、後ろを歩く妻が「…。」声を出した。もう音を上げたのかと、振り向いた。妻は立ち止まっていた。「誰かがこんなところに携帯電話忘れていった」 最近、誰かが道路の脇に円形の使い古した椅子をあちらこちらに置いた。散歩途中に腰をおろして休むようにと置いたらしい。しかし変色した肌色っぽい色が景色を台無しにしている。私は余計なことをしてくれた、と不快だった。その汚い肌色の円形の台座の上に薄紫色の皮のケースの携帯電話が置かれていた。

  携帯電話はプライバシーの倉庫である。それに今時、財布代わりに電子マネーとして使う人もいる。銀行、乗り物、買い物にも携帯電話で電子決済する人もいる。この携帯電話の持ち主はきっと困っている。妻に「交番へ届けよう」と言って、目的地がなかった散歩を急遽、交番まで行く、に変更した。

  私は再び3秒吸って7秒吐くを始めていた。その日私も妻も自分たちの携帯電話は持っていなかった。私の後ろを歩く妻のあたりから、何か音楽がかかっている。妻が「電話に出た方が良い?」と私に尋ねた。「触らぬ神に祟りなし。警察に任せよう。その着メロ、何ていう曲だっけ?」「研ナオコの確か♪~♬~♪かな」 こうして交番に着くまで前後10回ほど♪Darlin’ can’t you see? I’ll try to make it shine Darlin’ be with me Let’s get to be so fine♪のフレーズが繰り返された。私たちは早足になっていた。いろいろ落とし主のことを推測した。まず間違いなく女性。それは携帯電話の飾り方やケースの色。着メロの選択から年齢は、ある程度の年輩。などなど二人でいろいろ想像しながら交番に到着した。当直の若い警官が対応してくれた。

  家に帰ってスマートスピーカーのアレクサに「研ナオコかけて」とお願いした。何曲か聴いているうちにヒット。曲名「夏をあきらめて」だった。作詞作曲が桑田佳祐。どうりで英語の歌詞がちゃんと韻を踏んでいる。

  私は、以前、駅のATMに銀行の貯金通帳を置き忘れた。交番から電話があった。取りに行った。届けた方は連絡もお礼も断って「お互い様です。気をつけましょう」と女性警察官に伝言を残してくれた。カッコイイ!こういう日本人がまだいる。感激。「日本をあきらめない」


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