団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

解体ショー

2013年07月09日 | Weblog

  黒光りする大きなマグロがまな板の上に置かれた。白衣の鮨職人が手際よく大きな包丁でマグロを捌いていく。回転鮨店での催しだった。何も知らずに入った横浜のショッピングセンター内にあった鮨店で偶然出くわした。テレビで観たことはあるが実際に観たのは初めてだった。

 『マグロ解体ショー』 店にいた百人をくだらない客は大喜びだった。切り分けられた大トロなど希少部位のジャンケンでの安売り争奪戦は大盛況だった。私は食事療法中なので稲荷ずしとカッパ巻きしか食べられない。口に指をくわえて見ているしかなかった。

 日本人は魚好きである。刺身という特別な食し方を確立普及させた。英語で刺身はraw fish (未調理の魚)という。いまでこそsushi、sashimiと日本を代表する世界的な食べ物として受け入れられたが、以前は魚を熱で調理しない野蛮な食べ方というのが海外での風評だった。魚の刺身が日本で普及し現在の地位を築けたのは、何といっても調理人の腕と衛生観念、包丁の優秀さ、質の良いまな板、豊富で衛生的な水のおかげである。近頃の世界的な鮨ブームで条件を充たさない地域でのとても鮨職人と呼べない調理人たちによる鮨の提供に私は懸念を持つ。

 マグロの解体ショーを見ていて2月24日にTBSで放送された『情熱大陸』を思い出した。福岡県の高校の食品流通科で行われている『命の授業』が紹介された。生徒たちがニワトリを受精卵から育て授業で解体して調理して食べる。この授業が文部科学大臣奨励賞を受賞した。ところが批判も大きかった。残酷だと学校テレビ局に意見が寄せられた。現代の日本の世情をよく表している。肉は好きだがその動物を殺して食料用に解体するのは残酷だというのだ。日本人の食欲は西洋人並みで心情的には殺生を禁じるヒンズー教徒のベジタリアンが混合しているようだ。

 私が学んだカナダの高校はキリスト教宣教師を世界に派遣する養成学校の付属高校である。家庭科の授業で生きたニワトリをどう殺し、血を抜き、熱湯に漬け毛をむしり、内臓を出し、食用部分とそうでないモノの選別、調理までを教えた。18人の受講生の誰一人“残酷”とも“気持ち悪い”とも言わず、たんたんと普通の授業のように真剣に学んでいた。それはマグロ解体ショーの回転寿司店にいた客と同じ反応のようだった。

 これから地球の人口はますます増え、食料不足は深刻な問題になる。店で買えば事足りえる時代がずっと続くとは思えない。食料獲得紛争や生存競争が始まったとき、授業で解体を習った生徒と気分を悪くして“残酷”と言う生徒、どちらが生き残れるか。そんなことを考えながら2皿目のカッパ巻きを回転するベルトから取って手元に置いた。


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