巣窟日誌

お仕事と研究と私的出来事

レターサイズ:あるいはアメリカの陰謀

2004-06-11 11:44:35 | 異文化コミュニケーション
「アメリカ人ほど、世界中の進出した先々で、現地の人間に『アメリカ流』を押しつける国民はいない」とは、しばしばいわれることだ。それを裏付けるかのようなアメリカ企業の日本での「あひゃひゃ」な行動なら、個人的にはかなり経験してきた。だがこれは大体においては許すことができる。

しかし、わたしがいくつかのアメリカ系企業で、さすがに「このぐらいは日本に(というより世界標準に)あわせろよ」と、あきれたことがある。それは「オフィス内の紙の基準のサイズが、レターサイズ (letter size) だった」ことだ。アメリカでは圧倒的なシェアを誇るレターサイズだが、このサイズを使っているのは北米(つまりアメリカ合衆国とカナダ)のみで、海外では入手しにくいサイズだ。おまけにA4の大きさに近い。だから、こんな汎用性のないサイズを何も極東の現地法人でわざわざ使わずに、さっさとA4の紙を使用すべきだと思うのだが…

sheet_sizes.gif念のために記しておくと、レターサイズとは用紙のサイズの規格で、幅 8.5インチ×高さ11インチの用紙のことである。これをミリに直すと、215.9mm×279.4mmというサイズになる。現在日本企業がビジネスで広く使用しているA4の用紙のサイズは210mm×297mmなので、この2種類の紙を重ねると、幅はレターサイズのほうがわずかに広く、高さは逆にA4のほうが多少高くなる。(図を参照)

このレターサイズの用紙は、日本では売っているところが少ない。レターサイズのコピー用紙は、メーカーに注文すれば入手可能だが、国内でそれほどのシェアがないために店頭には置いてないし、単価がA4の紙よりかなり割高になる。

ところが、一部のアメリカ系企業の日本支店や日本法人では、このレターサイズの用紙がごろごろ…というよりは、すべての文書がレターサイズの紙で回っているのだ。コピー室にある大量のコピー用紙もレターサイズが中心。そう、日本人顧客向けの日本語の印刷物にもレターサイズの用紙を使ってしまう。時おり「官公庁の規則により、A4の用紙で提出しないと受け付けてくれない」という印刷物を作るハメになると、大量のレターサイズの用紙の束をかきわけつつ、「ええっと、A4はどこにあったっけ…ああ、ここだ。」などと、いうことになる。

レターサイズの用紙には専用のパンチがあり、これは三穴だ。当然、穴を開けた紙を綴じこむリングファイルも三穴だ。この三穴パンチとファイルは、最近ではオフィス・デポに行けば手に入る。さすが外資系のショップだ。しかしそのオフィス・デポだって、レターサイズのコピー用紙等のOAペーパーは売っていない。(特別に注文してくれれば入れてくれるかどうかは、定かではない。)なんでアメリカ人はこんな面倒くさいことに、わざわざ固執するのか。

さて恐ろしいことに、このレターサイズの用紙の上にかかれた英語の文書を、数ヶ月間ひたすら眺め続けていると、英語という言語の印刷物には、美的観点からレターサイズの用紙のほうがふさわしいように思えてくるのだ。アルファベットにA4の用紙は、「縦長」で似合わないと感じてくるのだ。レターサイズというローカル規格の用紙が、なんだか愛しくなりはじめるのだ。

しかしこう思い始めたら要注意。アメリカ文化の毒素が、頭の中にまわりはじめている証拠だ。

アメリカ系の企業数社で、レターサイズの用紙を一生分使った後に行った企業は、イギリス系だった。イギリス本社から来る書類はすべてA4だった。「縦長」の紙にびっしり英語が印刷されていた。

ここで目が覚めた。そう、世界標準はA判だ。こちらが国際標準化機構(ISO)の認める国際規格なのだ。レターサイズなんて、あくまでもローカルな規格でしかない。

ところで、日本でワープロソフトとして圧倒的シェアを誇るマイクロソフトWordの日本語版に入っている英文テンプレートは、用紙のデフォルトが「レターサイズ」に設定されている。そしてBlank Documentの余白は上下25.4mm、左右31.7mmと中途半端だ。この余白の大きさは実は上下1インチ、左右1.5インチなのだが、さすが、アメリカのソフトウェア。アメリカ流をそのまま押し付けてくるなんて。

ISOに準拠せず、ソフトウェアの中にひそかにアメリカ規格を仕込むなどとは、アメリカ帝国の陰謀だ。いや、じつはなにも考えていなかっただけかも…


4 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
レターサイズ・テンプレート憎し! (Ideal Break)
2004-06-11 13:15:53
レターサイズ・テンプレート憎し!
あれを知らずに使う人がたまにいて、プリンターを停止させてしまいます。純和式企業なのでレターサイズなんてどこ探してもありません。しかたなく、手差しで無理矢理排出させるのですが、その間業務が停止してしまいます。MSにはレターサイズ削除パッチを出してほしいくらいです。
返信する
イギリスで売られているWordのテンプレートは、A4... (ふくしまゆみ)
2004-06-11 13:21:18
イギリスで売られているWordのテンプレートは、A4だと聞いたことがあります。

「何で日本のWordの英文テンプレートは、レターサイズなんだ!」と、怒り狂っていたら、年配の日本人管理職の方に
「それは、日本が敗戦国だからに、きまっているじゃないですか。」
と、あっさりいわれてしまいました。
返信する
以前、もの書きの仕事をしてる時に「ろぷくん、こ... (ろぷ)
2004-06-12 08:26:11
以前、もの書きの仕事をしてる時に「ろぷくん、この紙に書いてね」といわれて「なんでぇ?」と思ってたんです。そして違う紙に書いて仕上げたら「違う紙じゃないか!」って怒られた事がありますよ。

おそらく、コレが噂のレターサイズ効果だったのかも
(原稿を書いておきながら気付きませんでした(笑))
返信する
ダイヤモンドの絵と"Bank Bond"の文字の... (ふくしまゆみ)
2004-06-12 11:21:00
ダイヤモンドの絵と"Bank Bond"の文字の透かしの入ったレターサイズの厚手のボンド紙を、まだ100枚ぐらい持っています。以前の会社を辞めるときにアメリカ人の上司から「センベツです」と、大量にもらったやつの残りです。

レターサイズも入手が難しいけれど、このダイヤモンドの透かし入りボンド紙も、日本では入手は難しいし、おそらく割高です。でもなぜか米国系の企業の多くが、大量に持っている。プレゼン資料などに、レターサイズのボンド紙をガンガン使っていましたね。

「米国系企業御用達」の紙業者というものがいて、そこから入手しているのかもしれませんが、紙の種類を本国にそろえる米国系企業には、あきれたというか、脱帽というか。
返信する