昔々まだ大学生だったころ、山崎製パン系のインストア・ベーカリーでアルバイトをしていたことがある。店の場所は近所のスーパーの中にあり、この店はそのスーパーのテナントだった。ただのパン屋ではなく山崎系だったため、クリスマスにはクリスマスケーキを売らなければならなかった。
12月20日になった。店には山崎のクリスマスケーキが大量に到着した。今と違って当時は、クリスマスケーキといえば決まりきった種類のものしかなかった。どれも丸いデコレーションケーキで、種類はバタークリーム(白)、バタークリーム(チョコ)、生クリームの3種類だった。どれにもイチゴがのっていた。当時のクリスマスケーキにはイチゴがのっているものが多かったのだ。
わたしたちアルバイトは、スーパーの店頭にケーキの箱を積み上げ、寒風吹きすさぶ中、声を張り上げてケーキを売った。なるべく早く売りきりたかった。できればクリスマスイブよりも早く売りきりたかった。そうしなければならないワケがあった。そのワケとは…
23日の朝、スーパーの大きな冷蔵庫に保管してもらっていた20日到着のケーキの箱を開けて、全員が息をのんだ。
ケーキの上のイチゴには、どれもカビが生えはじめていた。
そう、わたしたちが早く売り切りたかったのは、ケーキの上のイチゴにカビが生えることを予想していたためだ。わたしたちは事前に、クリスマスケーキは使われているバタークリーム(かなり日持ちがする)や生クリーム(あまり日持ちがしない)よりも先に、イチゴからダメになっていくという話を聞いていた。
わたしたちはすべてのケーキの箱を開け、ケーキの上にのっているイチゴを全部取り除いた。そして「差し替え」のイチゴを求めて、テナントとして入っているスーパーの果物売り場へ走った。そのスーパーのテナント契約には「テナントが業務時間中に買い物をする場合は、当店の店内ですること」という規則があったからだ。
しかし、当時のクリスマスシーズンにスーパーの店頭に出回るイチゴといえば、ケーキのデコレーションになるような、適当な大きさできれいな円錐形の赤いイチゴではなく、やたらと1粒が大きく、形も四角形と呼んだほうが良い不恰好で、大きすぎるせいか赤みがまわりきらず、ヘタのあたりは白い(というか、一部はほんのり緑色ですらあった)ものばかりだった。
代替品が他にないために、その特大四角形半白イチゴを、もとのイチゴを引き抜いたためにできたケーキの上のデコレーションの穴に、わたしたちはポコポコと置いていった。
わたしたちが見本品以外のケーキの中を見せなかったこともあって、この差し替えイチゴのクリスマスケーキは良く売れた。
さて、懸命にケーキを売ったわたしたちは、ご褒美をもらった。24日と25日の両日、それぞれクリスマスケーキを1台ずつ家にもって帰ることになった。本当は割引価格で買わなければいけないところを、店長が無料でくれたのだ。単に在庫処分のためだったのかもしれないが、とにかくわたしたちアルバイトは、店長に感謝のことばを言って、ケーキを1日1台ずつ、合計2台もらって帰った。あまりうれしくはなかったが。
クリスマスケーキが2つ。しかもあまりおいしそうではない、特大の差し替えイチゴがとってつけたようにドーンとのっかっていて、食欲がわかない。でも食べ物をムゲに捨てるわけにはいかない。とにかく食べなければならない。わたしはケーキを無理やり自分の口に押し込んで、あまりかまずに飲み下した。
そしてそれから数年間、わたしはクリスマスケーキを口にすることができなった。クリスマスケーキ恐怖症におちいってしまったのである。
12月20日になった。店には山崎のクリスマスケーキが大量に到着した。今と違って当時は、クリスマスケーキといえば決まりきった種類のものしかなかった。どれも丸いデコレーションケーキで、種類はバタークリーム(白)、バタークリーム(チョコ)、生クリームの3種類だった。どれにもイチゴがのっていた。当時のクリスマスケーキにはイチゴがのっているものが多かったのだ。
わたしたちアルバイトは、スーパーの店頭にケーキの箱を積み上げ、寒風吹きすさぶ中、声を張り上げてケーキを売った。なるべく早く売りきりたかった。できればクリスマスイブよりも早く売りきりたかった。そうしなければならないワケがあった。そのワケとは…
23日の朝、スーパーの大きな冷蔵庫に保管してもらっていた20日到着のケーキの箱を開けて、全員が息をのんだ。
ケーキの上のイチゴには、どれもカビが生えはじめていた。
そう、わたしたちが早く売り切りたかったのは、ケーキの上のイチゴにカビが生えることを予想していたためだ。わたしたちは事前に、クリスマスケーキは使われているバタークリーム(かなり日持ちがする)や生クリーム(あまり日持ちがしない)よりも先に、イチゴからダメになっていくという話を聞いていた。
わたしたちはすべてのケーキの箱を開け、ケーキの上にのっているイチゴを全部取り除いた。そして「差し替え」のイチゴを求めて、テナントとして入っているスーパーの果物売り場へ走った。そのスーパーのテナント契約には「テナントが業務時間中に買い物をする場合は、当店の店内ですること」という規則があったからだ。
しかし、当時のクリスマスシーズンにスーパーの店頭に出回るイチゴといえば、ケーキのデコレーションになるような、適当な大きさできれいな円錐形の赤いイチゴではなく、やたらと1粒が大きく、形も四角形と呼んだほうが良い不恰好で、大きすぎるせいか赤みがまわりきらず、ヘタのあたりは白い(というか、一部はほんのり緑色ですらあった)ものばかりだった。
代替品が他にないために、その特大四角形半白イチゴを、もとのイチゴを引き抜いたためにできたケーキの上のデコレーションの穴に、わたしたちはポコポコと置いていった。
わたしたちが見本品以外のケーキの中を見せなかったこともあって、この差し替えイチゴのクリスマスケーキは良く売れた。
さて、懸命にケーキを売ったわたしたちは、ご褒美をもらった。24日と25日の両日、それぞれクリスマスケーキを1台ずつ家にもって帰ることになった。本当は割引価格で買わなければいけないところを、店長が無料でくれたのだ。単に在庫処分のためだったのかもしれないが、とにかくわたしたちアルバイトは、店長に感謝のことばを言って、ケーキを1日1台ずつ、合計2台もらって帰った。あまりうれしくはなかったが。
クリスマスケーキが2つ。しかもあまりおいしそうではない、特大の差し替えイチゴがとってつけたようにドーンとのっかっていて、食欲がわかない。でも食べ物をムゲに捨てるわけにはいかない。とにかく食べなければならない。わたしはケーキを無理やり自分の口に押し込んで、あまりかまずに飲み下した。
そしてそれから数年間、わたしはクリスマスケーキを口にすることができなった。クリスマスケーキ恐怖症におちいってしまったのである。