レイ・ブラッドベリが半自伝的小説「たんぽぽのお酒」を映画化
2011年8月22日 11:19
[映画.com ニュース]8月22日、91歳の誕生日を迎えた米作家レイ・ブラッドベリが、半自伝的小説「たんぽぽのお酒」の映画化をプロデュースすることがわかった。
1957年に発表された「たんぽぽのお酒(原題:Dandelion Wine)」は、1928年の米イリノイ州グリーンタウンを舞台に、12歳の少年ダグラス・スポールディングがひと夏に体験した出来事を描いたファンタジー小説。
米ハリウッド・レポーター誌によれば、ブラッドベリはこのほど、「ブラック・スワン」「シャッターアイランド」で知られる米フェニックス・ピクチャーズのプロデューサー、マイク・メダボイと組んで、同作の映画化にあたるという。脚本を、ウクライナ出身のロディオン・ナハペトフが手がける。監督、キャストは未定。
ブラッドベリは、今回の企画について「望みうるかぎり最高の誕生日プレゼント。今日、私は生まれ変わる!」とコメント。そして「『たんぽぽのお酒』は私の最もパーソナルな作品で、純粋な喜びと恐怖を同時に呼び起こす。少年時代の私自身、そして忘れがたいひと夏の魔法の物語であり、いまもなお私を不思議な力でとらえて離さない」と作品への思い入れを語った。
うれしい。これは是非是非実現を。
eiga.comの記事にもあるように『たんぽぽのお酒』 ("Dandelion Wine" 1957年))は、ブラッドベリにとって極めてパーソナルな作品で、おそらく作者本人の子供のころの体験が色濃く反映されていると思われる。主人公の男の子の名前ダグラスは、ブラッドベリの本名レイモンド・ダグラス・ブラッドベリからとられている。
わたしは小学生のころからブラッドベリの作品のファンであり、当時出版されていたブラッドベリの作品の訳本のほとんどを読んでいた。が、『たんぽぽのお酒』は訳書があるにもかかわらず読んだことがなかった。その理由は簡単。文庫本になっていなかったからだ。高校生のわたしには、文庫本しか買えなかったからだ。
そのため、この物語は、最初は目からではなく耳から入ってきた。FM東京の音の本棚という番組の中でラジオドラマ化されたものを聴いたのだ。
耳から入る物語というものは、時に聞き手に大きなインパクトを与えるものだ。『たんぽぽのお酒』もそうだった。
当時のわたしには、ベントレー夫人の話の回はひどく恐ろしかった。72歳の女性が、自分にも少女のころがあったことを、少女たちには信じてもらえず、最後には自分の過去一切を否定してしまう話だ。
ベントレー夫人自身が、ついには、自分はずっと72歳であり(このエントリーのタイトルにあるように)50年前も72歳であり、自分には「ヘレン」というファーストネームはなくずっと「ベントレー夫人」という名だったのだと自分に言い聞かせて少女たちにも語るくだり。子供に目の前の老人の子供時代の存在を信じることができないことが実際にあるのかどうかはともかくとして、あれは子供の持つ悪意のない残酷さがよく表れていた話で、わたしはその回を聴いたあとに一晩中涙が止まらなかった。
翌日わたしは学校の帰りに神保町に向かい、当時の小遣いからの出費としてはたいそう痛い額を払って、晶文社から発売されていた日本語のハードカバーを買った。
現在では、こういう話は原文で読むほうが楽なので、家にあるのは黄ばんだペーパーバックだが、数年に一度発作的に読みたくなり、そのたびに読み返している。
ところで、20世紀フォックス。ブラッドベリの『火星年代記』の映画化権を買ったのなら、さっさと映画化しなさい! いいですか。ちゃんとですよ! 完成作品をちゃんとブラッドベリに観てもらいなさい!
まったく、米国の映画界ときたら。『サウンド・オブ・サンダー』なんて、後回しでいいのに。
(ちなみにブラッドベリは、ジョン・ヒューストン監督の『白鯨』(メルヴィル原作)の脚本を担当している。)