巣窟日誌

お仕事と研究と私的出来事

寿なるとの憂鬱

2008-01-07 19:11:13 | 日記・エッセイ・コラム
毎年、おせちの中で最後まで余ってもてあましてしまうのが、寿なるとだ。

「寿なると」とは、そう、あの渦巻きの代わりに、ピンク色の「寿」の文字が、金太郎飴のごとく切っても切っても出てくるという、まことにおめでたい、あのなるとのことだ。通常はおせちのシーズンのみにみかけるものである。

で、正月にふさわしい一品なので毎年の暮れに1本買うのだけれど、お雑煮に一切れずつしか浮かべないわが家には、この1本の量がちょいと多すぎる。普通のなるとにはミニサイズの「姫なると」というものがあるのだけれど、わたしが知る限りでは「姫寿なると」は見たことがない。

というわけで、最後までもてあました寿なるとを、今頃の時期に鍋物にいれて最終処分してしまうのが、わが家の毎年の正月の終わりである。

さて、まことにめでたい寿なるとであるが、使用する時と場所を間違えて使ってはいけない。

昔の話だ。当時は白いハトのマークで知られていた某スーパーマーケットチェーンの某店の社員食堂で、正月の6日あたりの昼食に「寿なるとの煮っ転がし」が出たことがあったそうだ。このスーパーの社員食堂は、同グループのファミリーレストランの会社が運営していた。この店の社食はファミレス会社内では「利益率」をたっぷりあげることで知られ、「優良店」としてたびたび表彰もされていたとのことだ。

少なくともこの店の社食においては、優良であることの秘訣は、仕入にかける金額を最大限に落とすことだった。すなわち、正月開けのこのスーパーの店頭で見切り品になった寿なるとを大量に買い込み、これを乱切りにして、調味料で煮切ったのである。

グループ会社が運営する社員食堂とはいえ、2社の関係はお互いに独立採算制。社員食堂を利用する従業員は、その食事のためにきちんとお金を払わなければならないのである。

この食堂がこの店の食料品売り場の見切り品を頻繁に買って、その結果利益率を出していることを、これを利用するスーパーの従業員たちはすでに知っていた。食堂のお茶も、非常にしばしば「土瓶くぐり」(「急須くぐり」とも)だった。これまでそういったことに数々の不満はあっても、従業員たちは影でブツブツ言うだけだった。

しかし、年明けしょっぱなから出たこの寿なるとの煮っ転がしは、その「残り物」感と調理方法への違和感ゆえに(お金を支払っているのになるとの煮っ転がしなんてアリか?)、さすがに従業員のたいそうな怒りを買ったらしい。

結局、この件については誰かが本部に社員食堂のメニューに関するクレームを出したらしく、それからしばらくは、ケチな社食にはめずらしく、結構まともなメニューが続いたとのことだ。