巣窟日誌

お仕事と研究と私的出来事

ノラの道

2005-01-18 00:59:13 | ノラネコ
ここ3週間ぐらい、毎晩ノラネコがわたしの作業部屋の天井の上で休んでいる。近所にいる数多のネコの、どのネコかはわからない。

わたしが夜遅くまで石油ファンヒーターをつけて仕事をしているため、天井もそれなりに温まっており、天井板の裏側にいるネコにも心地がいいらしい。ネコの定位置が決まっており、天井の同じ方向から、毎晩ゴソゴソと動く音がする。たまに爪も研いでいるらしく、カリカリという音までする。

あまりにも毎晩来るので、人間側の認識が「今晩も、また来た!」から「今晩も、帰ってきた!」に変わりつつある。

うちの周りのノラネコたちは、人間を利用して生きている。人間の足もとにスリスリしてエサをもらい、さらにスリスリする。でも、エサをあげる人間だってネコを利用している。ゴロニャンされて、ネコに愛されているいい気分になるというわけ。

わたしはエサはあげないが、かの猫が天井にいることについては、大目に見てあげよう。天井からノミをふらせない限りはね。なにしろ君は、夜中に仕事をしているわたしに「たった一人で起きて仕事をしているわけではない」という、気分にさせてくれるのだから。

でもノラならノラの道があるだろう? 人間に媚びてはいけないよ。そうだ。君と君の仲間に、石垣りんという人間の詩人が書いた『略歴』という詩集の中の、「白い猫」という詩を読んであげよう。

「ノラの道」かくあるべしというありがたい詩だから、心して聴くように。

  白い猫

いまとなって
与えられたものを食うな。
いつも油断なく身構え
人の目をうかがい
そのスキをすばやくはかり
奪いとって食う。
お前は身を寄せてこない。
およそ愛らしさなど寸分も持ち合わさず
やせ細り
夜の路地裏で足をなめている。
背中は北アルプスのように尖っている。
月が背中にかかる。
生まれたときからのノラネコ
白い毛並みという毛並みを汚れるだけ汚し
人間をにくんで。
お前に手など藉(か)すものか。
お前はうつくしい
うつくしいメスだ。
(出典:ハルキ文庫『石垣りん詩集』1998年。pp171-172)


石垣りん詩集
石垣 りん 粕谷 栄市


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